【一斉休校の現場から】休校中は教員がYouTuberに?

全国の小中高などで続く一斉休校。通常再開する自治体も出てくるなど、学校現場は新年度に向けてかじを切り始めた。この休校期間は、新年度の子供たちの学力にどんな影響を及ぼすのか。不測の事態を教師はどう乗り越えるのか。

この危機をチャンスとしてとらえ、授業のICT化を加速させているのが神奈川大学附属中学・高等学校(菊池久学校長、生徒1291人)だ。有志の教諭らが集い、YouTube LIVEを活用し、生徒たちに授業を届けている。


宇宙エレベーターがテーマの授業

宇宙エレベーターをつかった、旅行プランを考えよう――。

3月中旬、臨時休校中の同校の教室では2人の教諭がカメラに向かって、熱心に語り掛けていた。2人は物理担当の佐藤克行教諭と、英語担当の福家匠人(ふけ・しょうじん)教諭。休校中の高校1年生に向けて、授業をライブ配信した。

同校は生徒1人1台端末を段階的に整備しており、この日は整備済みの高校1年生の希望者を対象に、物理基礎とコミュニケーション英語の教科横断型の授業を行った。

2コマの授業の舞台は、宇宙。生徒は旅行会社のプランナーに扮(ふん)し、「宇宙エレベーター」を生かしたツアーを企画し、英語でプレゼンする。

カメラに向かって授業が繰り広げられた

YouTubeのライブ機能を使い、リアルタイムで授業を配信。生徒が日常的につかう学習ツール「ロイロノート」を活用し、授業資料を共有したり、生徒たちが意見を書き込んだりした。また音声入力機能を使い、生徒たちのプレゼンテーションも共有した。

1コマ目は、物理をベースに授業を展開。重力や遠心力、位置エネルギーについて解説があり、宇宙エレベーターの仕組みについて学んだ。動画配信の強みを生かし、生徒は自宅で、教員は教室からと離れた場所になるが、同じストローや50円玉を使っての遠心力を体感する実験も行った。

それを受け、2コマ目は英語をベースに授業。生徒たちはツアープランを企画するワークに挑戦した。作業中の時間も両教諭がプレゼンのコツをアドバイスしたり、ロイロノートで寄せられる生徒らからの質問に対応したりなど、ライブ配信の特長を活用して、相互型の授業づくりが実現した。

有志が集い授業動画配信

休校に入った直後から佐藤教諭を中心に、英語や社会、数学などの教師が有志で集い、動画授業に挑戦し始めた。カメラに向かって授業をするのは、どの教師にとっても初めての取り組み。試行錯誤しながら、改善を重ねてきた。

動画授業の改良にあたって、生徒の提案が大いに役立っているという。例えば、YouTubeのライブ機能を利用したのも生徒のアイデアだ。初回はテキストベースがメインのツールを使い、授業中のコミュニケーションを取っていた。しかし文字を打ち込む時間など、生徒との間に大きなタイムラグがあり、うまくやり取りができなかったという。

その他にも「カメラの位置が下すぎる」「ホワイトボードの字が細すぎてよく見えない」――など、教師たちの想像以上に、生徒たちから提案や指摘が寄せられている。

佐藤教諭は「ちゃんとその声に耳を傾けて、取り入れてみたら、短期間で授業の質が格段に上がった。教室で行う本物の授業に、より近づいてきた。生徒と一緒に作り上げている感覚が強い」と話す。

ライブ感が成功の鍵

とはいえ、生徒と同じ空間を共有する教室と、オンライン経由では授業をする上で留意することも違ってくるのではないだろうか。

佐藤教諭は「何よりライブ感が大切。生徒たちが、いかに目の前で授業を受けていると思えるか、常に考えている」と明かす。

「教室と同じ授業をただ見せるだけでは、生徒たちも興味がわきづらい。実際に生徒からも単に動画を見ているだけでは、自習している感覚が強いという意見があった。リアルタイムできた質問に答えるなど、一緒に学んでいる臨場感やライブ感を共有することが、遠隔授業には大切だと思う」

ロイロノートで生徒からの質問を共有し、回答する

そのライブ感に必須なのが、アイコンタクト。「ほかのYouTuberを見ても、カメラをしっかり見て目線で訴えかけている。その上で、カメラの向こうの生徒たちに語り掛けるようにして、同じ空間にいるように感じてもらえればと工夫している」と、佐藤教諭は明かす。

この日もカメラの横に、セリフや授業のポイントをメモしたペーパーを設置。できるだけカメラ目線を維持できるように工夫が見られた。

一方、福家教諭は最初の動画授業を振り返り、「通常の授業と違い、生徒の反応や表情が見えないことにとまどった」と明かす。

「教室ではそれらを手応えにして、例えばこの問題が彼らにとってやさしいのか難しいのかと、様子を見ながら授業を進める。初回の配信ではある部分を丁寧に説明したら、『あそこはサクサク進めてほしかった』と生徒から指摘があった。それからは一層、バランスのとり方について考えながら授業を進めるようになった」

佐藤教諭も生徒の反応が見えづらい点に難しさを感じることがあるとし、「通常の授業の1.5~2倍くらいの時間をかけて、授業準備をする。この内容で本当にいいのかと、問い直すことが多くなった」と話す。

授業実践で大きな道しるべとなる児童生徒の反応や表情、空気感。それらが見えづらい遠隔授業の準備は、通常に増した綿密さが求められるようだ。

福家教諭は「配信をはじめて、これは教師のスキルが試されるなと痛感しています」と語る。

ICTを主軸にした授業実践も

同校では不測の事態も視野にいれて、全教諭に対して、ICTを活用して4月以降の授業準備をするように指示があったという。具体的には▽20~30分間の授業動画▽WEB上の小テスト▽教材を共有できるツールの確保▽可能であれば、授業のライブ配信――などで、これらを全教科で対応させ、1日の6時限全てで実施できる体制構築に着手し始めた。

授業を担当した佐藤教諭(右)と福家教諭

今回の臨時休校を巡って、状況は刻一刻と変化している。4月以降の学校再開を視野に政府や各自治体が大きく動き始めた一方で、再び休校措置を取らなければいけない可能性もぬぐい切れない。そのとき生徒たちの日々の授業がどうなるのだろうか。

新年度を見据えた課題について福家教諭はこう話す。

「4月に入ってもまだ学校が通常再開できない状況にあるなら、この動画授業が生徒たちの学びの要となる。今は実験的に行っているが、そうなればカリキュラムに沿った内容にして、受験に支障がないよう、学校教育としての質を担保する必要がある」

一方、佐藤教諭は「教師が一丸となって取り組まなければいけない」と指摘する。

「この教科は動画やICTが活用されているが、この教科はプリントを配られるだけといったように、担当する教師によってばらつきがあってはいけない。授業は教師個人ではなく、学校組織全体として提供しているものという意識をもって、足並みをそろえなければならないと感じる」と話した。

(板井海奈)