米国で起きた教員ストライキ(上)教員はなぜ立ち上がったのか

米国では2018年以降、各州で教員のストライキが活発化している。最大の理由は、低賃金だ。日本の教員が抱える長時間勤務とは性質が違うが、教員が「限界」を訴えている点では重なるところがあるのではないか。米国の教員はどのようにして一つになり、世論を味方につけ、待遇改善や教育予算の拡充を勝ち取っていったのか。米国での労働運動を追ってきた菅俊治弁護士に、各州で起きたストライキの経緯とその結果について聞いた。(全2回)

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公教育の民営化に歯止め求める
――米国ではなぜ教員によるストライキが活発化しているのでしょうか。

近年の米国では公教育の民営化が進んでいます。1990年代からは公設民営学校(チャータースクール)が大幅に増加し、それに伴い、公教育のための予算がチャータースクールに流れるなどして、さまざまな弊害が起こっています。

以前から米国の教員は低賃金で苦しんでおり、そうした労働条件や公教育の民営化に歯止めをかけるため、次第に教員たちが組織化し、立ち上がっていきました。

特に2018年ごろから教員ストが活発化しているのですが、その大きなきっかけは、2016年の大統領選の民主党予備選でした。「民主社会主義者」のバーニー・サンダース氏が立候補し、公教育の民営化に歯止めがかかると一部の意識的な教員が期待しましたが、最終的にはヒラリー・クリントン氏に敗退しました。

シカゴでの教員ストや組織作りの方法を紹介した米国の書籍

これを機に、意識的な教員たちが草の根のグループを作って勉強を始め、活動を活発化させていったのです。

米国では2012年にもシカゴで大規模な教員ストライキが行われ、それがどのように成功を収めたのかをまとめた本や、組織化の秘訣(ひけつ)をまとめた本がこの頃立て続けに出版されました。そうしたことも、活動に影響を与えています。

教職員の賃金を20%引き上げ
――最初はどこで、どんな動きが立ち上がったのでしょうか。

最初に大きな動きがあったのは、南部のウェストバージニア州です。2017年の秋に、同州の2人の教員がFacebookのグループを立ち上げました。このグループは、教員か否か、どの労働組合に所属するかを問わず、横断的な組織化活動ができる場として役立ちました。

同州は当時、教員の給料が全米50州の中で49位でした。公教育の予算不足が、教職員の低賃金へとつながっていたのです。こんな状況なので、後継者も見つからない。同州では公的医療保険の保険料増額と年金の解約が、州議会で検討される状況にもなっていました。

Facebookグループは、「州議会を傍聴に行こう」などと呼び掛けることから始まり、同年12月には要求や法案に関して議員を追及するようになり、それ以降はグループへの参加者が加速度的に増えていきました。そして2018年の1月末には、メンバーが2万人以上に到達しました。

さまざまな活動を通じ、その頃には教員だけでなく保護者や地域の人たちからも賛同を得ることに成功していて、あとはストをやるかどうかという状態でした。同州では教員のストライキが違法とされていましたが、ついに同年2月22日、州全体でのストが決行されたのです。

スト中は、約5000人もの教職員や支援者が州会議事堂前に参集し、教職員の賃金アップや教育予算の拡充などを訴えました。その間は学校閉鎖が続きましたが、保護者や地域の人たちとの協力で、ストは2週間にわたって継続されました。

その結果、教員だけでなく公務員全体の賃金を5%引き上げる、年金の解約をペンディングにするなどの結果を得たのです。

――ウェストバージニア州の動きは、他の州にも影響を与えたのでしょうか。

2018年4月以降、同州に続いてアリゾナ州、オクラホマ州などでも教職員のストライキや労働運動が展開されました。

これらの州でも教職員の賃金は低く、物価も上がっていたため、生活できない教員が数多くいました。その結果、次から次へと教員が退職し、公教育の状況は悪化していきました。オクラホマ州では教員不足のために、約20%の公立学校が週4日の授業になっていたほどです。

しかし、ストライキや労働運動によって両州では、教職員の賃金20%引き上げなどの特筆すべき結果を残しました。

5年越しの組織強化
――2019年1月には、ロサンゼルスでも大規模な教員ストがありました。

ロサンゼルス統一学区は、米国内2番目の大きさを誇る学区で、900を超える学校に約47万人の児童生徒、3万人3000人を超える教員が属しています。

ロサンゼルスも1990年代から公教育への民間の参入が進み、教員の給料に学力標準テストの結果が反映されるなど、公教育の崩壊に歯止めが利かなくなっていました。

こうした流れを食い止めるためには、強い組合を作って、学区に対してそれを止めさせるところまで持っていかなくてはいけません。そのためにはストが有効な手段とされ、ストを起こすためには、多くの教員や保護者、住民から支持を得る必要があります。

2014年、そうしたビジョンを持ったグループがロサンゼルス教職員組合(UTLA)に当選し、新しい執行部が誕生しました。新執行部は「強い労働組合」を作ることを目標に、各所の改革に着手していきました。

――具体的にどのような改革が行われていったのでしょうか。

新執行部は、1年目には行政区との交渉の末、教職員の賃金が6%引き上げられました。その上で2年目に行われたのが、組合費の3割アップでした。

日本でこの話をすると、かなり驚かれるのですが、彼らがチャレンジしたのは「強い組合づくり」です。そのためには、組織化するためのスタッフも、調査や政策立案ができる有能なスタッフも、広報活動も必要なため、組合員に説得を重ね、組合費3割アップを実現させたのです。

そして、3年目からは本格的な労使交渉をスタートさせました。交渉の席では、教育予算増や教職員の賃上げだけでなく、クラスの少人数化、カウンセラーや看護師、養護教員、図書館司書などの学校支援スタッフの増員も要求しました。また、生徒にとって過度な負担となっている多すぎるテストを中止すること、公設民営学校の上限を設定することなどについても要求していきました。

3万人の教職員と1対1の対話
――約3万3000人にも上る教職員の賛同を得るために、どのような手法がとられたのでしょうか。

UTLAは、ストライキの支持を得るために、約3万3000人の教員と1対1の対話を徹底的に行いました。また、そのための対話マニュアルも作成しました。

そして、98%の教員の支持を得た後には、保護者を組織化するために、学校ごとに組織化担当の教員を置き、保護者と1対1で対話するところまでやりました。

こうした教職員や保護者の組織化についての過程は全てホームページにアップされ、今でも見ることができます。

この労働運動では、大行進に使うための巨大な旗やプラカードづくりを保護者や子供たちも参加できる楽しいイベントに仕立て上げるなど、周囲を巻き込んでいく戦略をとっていました。

「米国の教員は、組織化のノウハウや活動の盛り上げ方を勉強している」と菅弁護士

彼らは労働運動の歴史なども含め、非常によく勉強しています。そのため、組織化のノウハウや活動をどう盛り上げていくかという方法についても心得ています。

2019年1月14日、ロサンゼルスの学校もついにストライキに突入します。ストにはUTLAの一般組合員の98%が参加し、子供や保護者、他の労働組合のメンバーなども参加しました。市民のストライキへの支持も過半数に達していました。

そして同月22日、6日間のストライキを経て、公立学校の労働条件・環境の改善のほか、コミュニティー・スクールの実施に向けた教育予算増、移民に対する具体的な支援策、看護師・カウンセラー・司書の増員などに関する合意も含まれた交渉内容が妥結に至りました。

さらには、新たな公設民営学校の設置を行わないための猶予期間を設けることも決定するなど、「強い組合」を印象づけたのです。

「公教育を守る運動」を戦略的に展開
――ロサンゼルスの教員ストとそれ以前に南部の州で起こった教員ストに、何か違いはあるのでしょうか。

南部では劣悪な労働条件に対して教員の下からの労働運動が起こり、消極的な執行部を説得してストが行われました。

一方、ロサンゼルスでは労働組合が内部から生まれ変わり、教職員の労働条件だけでなく、「ロサンゼルスの公教育」を守るという「公益のための労働運動」を戦略的に展開しました。

また、ストが行われるまでの期間にも違いがあります。東部・南部の各州は、活動が始まってから数カ月でストに持ち込むなど、短期間で活動が急拡大していったことが特徴です。

彼らはFacebookグループを立ち上げたときに、ストを起こせるなんて思ってもいませんでした。ごく一部のリーダーが教員や地域住民を組織化して組合と協力関係を築き、ストに持ち込んだのです。そうしたリーダーがいるところはうまくいったけれども、そうでないところは中途半端な結果に終わっています。

それに対して、ロサンゼルスの場合は、非常に計画的・戦略的で、実に5年もの歳月をかけてストに持ち込んでいます。強い組織を作るという視点から進めていった点が特徴です。

(松井聡美)

【プロフィール】

菅 俊治(すが しゅんじ) 弁護士。日本労働弁護団事務局長を務めた後、現在は日弁連労働法制委員会事務局長。2015年から米国での労働運動、特に教員分野のストライキの活性化に注目し、現地を訪問するなどしている。東京法律事務所。


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