【0から1をつくる】学校と社会をつなげる

世界の先端的な学びを視察し、発信し続けている(一社)FutureEdu代表理事の竹村詠美氏。昨年夏には、「創るから学ぶ」をテーマにした教育イベント「Learn by Creation」を開催し、教員や保護者、起業家、クリエーターなど、多様な人々が共に、立場を超えてこれからの学びについて考えた。インタビューの最終回では、新しい学びの発信基地となることを目指して始まったこのイベントに込めた思いを聞いた。(全3回)

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創るから学ぶ
――世界の先端教育の視察や「Most Likely to Succeed」の上映会などに加え、昨年からは教育イベント「Learn by Creation」も開催されました。どういった経緯で企画・開催されたのですか。

昨年の8月に初めて「Learn by Creation」を開催したのですが、その1年前に、ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」の映画プロデューサーが本を出版しました。そのことで、そのプロデューサーが来日することになり、上映会とカンファレンスを行いました。

その時に、工藤勇一校長(横浜創英中学・高等学校)や山本崇雄先生(新渡戸文化学園) など、子供中心のユニークな学びを実践されている先生方に分科会をやっていただいたのですが、とにかく参加者たちが楽しそうだったことが印象的でした。

そうした様子を見て、「学校の新たな可能性を見つけようとしている先生が、こんなにたくさんいるのだな」と感動しました。

また、私自身はPBL(プロジェクト型学習法)を実践する米国のチャータースクール「High Tech High」との出会いもあり、日本でもPBLを実施する学校がもっと増えてほしいと思っていました。

とはいえ、PBLをやるとなると、社会との接続が不可欠です。例えば、環境科学のプロジェクトをやろうとしても、先生はその道の専門家ではないので中途半端になってしまいます。

昨年8月の「Learn by Creation」の様子(竹村氏提供)

その意味で、教育に関心がある社会の人と先生が立場を超えてつながり、一緒に学び合える場が必要だと思い、「Learn by Creation」を企画しました。

「Learn by Creation」は、「創るから学ぶ」をテーマにしています。「Learn by Creation」の「Creation」は、ものづくりだけでなく、創造性全般というイメージです。アイデアを考えることもCreationだと思いますし、グループで正解のない課題に向かってチャレンジすることもCreationだと捉えています。

ジェネレーティブな対話を
――昨年の「Learn by Creation」には2500人の参加があったそうですが、教員が多かったのでしょうか。

いえ、学校の先生は全体の3割ぐらいで、残りは保護者、学生、クリエーター、一般社会人などです。参加者全体に占める先生の割合は、ほぼ狙い通りでした。

――狙い通りというのは?

交ぜたかったんです。先生には先生だけの集まりがありますし、ビジネスの方にはビジネスだけの集まりがある。そうして同質的な人ばかりが集まるのではなく、いろいろな方が交ざっている場をつくりたかったんです。

「Learn by Creation」には保護者や子供たちも多数参加した(竹村氏提供)

また、登壇者の組み合わせも、交ぜることを意識しました。例えば、PBLを実践している学校の先生と、レストランの周りに子供たちと一緒に遊び場を作っている建築家の方が一緒にパネルディスカッションをするなど、今までにはない組み合わせを意識しました。

そして、参加者がどのステージにいても楽しめるよう、イベントの全体設計も工夫しました。

例えば、新しい学びをもっと詳しく知りたい人にはシンポジウムに、SDGsを使った探究学習をどう組み立てていくかなど具体的なことを知りたい人にはワークショップに、クリエーターなど教育界以外の人との協働授業を考えたい人にはハッカソンやアイデアソンなどのイベントに、参加していただきました。

――今年はいつ開催されるのでしょうか。

新型コロナウイルス対策の関連で日程を見直していますが、7月末か8月上旬に広尾学園とオンラインのハイブリッドでの開催を予定しています。今年は、昨年より参加者と登壇者の垣根を下げたいと思っているほか、子供たちにも参加してほしいと考えています。

昨年は子供向けエリアと大人向けのエリアを分けていました。それはそれで盛り上がったのですが、学びの当事者である子供たちと大人が分断されてしまったことが反省点として残りました。また、中高生の学びの発表に参加した大人から、非常に大きな学びや気付きがあったという声もあり、今年はより交ざって対話ができる機会を増やしたいと考えています。

子供と大人の垣根を越えたジェネレーティブな対話から出てくるアイデアは、とてもクリエーティブです。子供も大人も言いたいことが言えて、新しい学びを創るきっかけがもっと生まれればいい。今年は、対話の中に子供たちを入れていくよう意識したいと思っています。

また、参加者に、自分の脳が多様な人からの刺激で普段とは違う働きをしているというような感覚を味わってもらい、学校では得られないような経験や知見をたくさん持ち帰ってほしいと思っています。

新しい学びに挑戦しようとしている先生は学校の中ではマイノリティーで、孤独を感じている人も多いようです。このイベントは、そうした先生たちが仲間を作れるという役割も担っていると思います。同時に、学校外の世界とつながる機会にもなってほしいですね。

学びの文化を変えていく
――このように次々と新しいアイデアが出てくるのは、竹村さんのどのような経験が生かされているのでしょうか。

「いろんなことを経験している」ことが大きいと思います。私はIT業界でもいろんな会社にいましたし、自ら起業もしていますし、母親業もやっています。教育関係でも、国内外さまざまな現場へ行き、いろんな学校や教育実践、先生たちを知る機会がありました。

また、「寄り道をする」ことも大切だと思っています。例えば、先日もブルネイで東南アジアの女性起業家のメンタリングをしてきました。教育の仕事ではなかったのですが、参加者の中にたまたまブルネイでチャイルドケアセンターをやっている人がいて、見学することができました。

私の場合、キャリアも含めていろんな寄り道をしていますが、寄り道することで意外な発見が多々あったと思います。

――今後、教育界で取り組んでいきたいことについて教えてください。

今、取り組んでいることは、まだ始まりにしかすぎないと思っています。

素晴らしい学びを実践している先生は、日本にもたくさんいます。それが全体に響いていないのは、学校教育が旧態依然とした文化のままだからです。

先生だけでなく、他の業界でも「日本の教育をよくしたい」という人が増えています。イベントなどを通じてそういった人たちと一緒になって、学びの文化を変えていく活動を進めていきたいと思っています。

「学びの文化を変えるチャンス」と竹村氏

「Society5.0」が提唱されるなど、私たちが時代の分岐点にいるのは間違いありません。どう変わるかは分かりませんが、大きく変わるであろうということは、みんななんとなく分かっている。そんな時代だからこそ、学びの文化自体も変わるチャンスではないかと思っています。

学びの文化が1ミリでも変わることが、一人でも多くの子供を幸せにすることにつながると思っています。一人でも多くの先生が「子供主体の学び」を実践できる状況をつくっていきたいですね。

今までのように正解があるものを教え込むという授業ではなく、「正解は先生にも分からないけれど、一緒に考えよう」というスタイルで、子供と一緒に「創る」ということが、もっと学校の中で増えていってほしいと願っています。

(おわり)

(松井聡美)


【プロフィール】

竹村詠美(たけむら・えみ) 一般社団法人FutureEdu代表理事、一般社団法人SOLLA共同代表。慶應義塾大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクール・ローダーインスティチュート卒。マッキンゼーを卒業後、Amazon、ディズニーなどの日本経営メンバーとして、サービスの事業の企画や立ち上げ、マーケティングなど幅広い業務に携わる。2011年に立ち上げた「Peatix.com」は現在27カ国、400万人以上のユーザーをもつ。現在はSTEAMや21世紀教育をテーマに執筆、講演、研修など幅広く活動中。『Most Likely to Succeed』日本アンバサダー、総務省情報通信審議会委員なども務める。小・中学生二児の母。

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