【パラレル教師】学校から社会に飛び込む

【パラレル教師】学校から社会に飛び込む
広 告

 「社会に開かれた学校をつくる」「子供ファーストの教師になる」――。多くの教員が、学校や教師の仕事に高い理想を抱いている。しかし、日々の業務に追われる中で「私一人に何ができるのだろうか」と立ち止まってしまう人は少なくない。思い描く理想の教育を実現するために、一教員として何ができるのか。公立小学校の教諭でありながら、企業インターンへの参加や独自イベントの開催など、学校の内と外をパラレルに活躍する二川佳祐教諭へのインタビューを通じ、教員の自己実現の在り方を探る。(全3回)

学校と社会の垣根をなくすために

「BeYond Labo」など、学校外でも数多くの活動に関わる二川教諭
「BeYond Labo」など、学校外でも数多くの活動に関わる二川教諭
――二川先生は小学校教師の他に、さまざまな分野で活躍されています。

 公立小学校に勤務して11年目、今年度からは東京都練馬区立石神井台小学校に赴任しています。

 学校外の活動では、まず「BeYond Labo」というコミュニティーを主宰しています。東京都武蔵野市・吉祥寺を拠点に、教育関係者を中心としたさまざまな職業の大人たちが集まり、「楽しみながら『今までの自分を超える』『教育と社会の垣根をなくす』」をテーマにイベントを開催しています。

 主となるのは、ゲストを招いてのワークショップ。これまで、働き方改革や授業づくりで独自の取り組みをする先生のほか、先日は経産省で「未来の教室」を推進する柴田寛文課長補佐もお招きしました。教育界以外でも「複業(ふくぎょう)」や「イクメン」など多様なテーマに合わせてゲストを招いており、参加者は自分を変えるきっかけを得ています。

 その他にも、教師がオンライン上で講座を受講できる「みんなのオンライン職員室」の活動に参加したり、脳神経科学の知見を教育現場で活用するDAncing Einsteinのプロジェクトに参加したりしています。

 また、今はお休みしていますが、ブログやSNSでの情報発信もしていました。

――ブログ記事を拝見したのですが、ベンチャー企業でインターンも経験されたのですよね。

 学校と教委に相談して、3日間休暇を取り参加しました。行き先は学校外の活動で知り合ったベンチャー企業で、学校外のことをもっと知りたいと思ったのがきっかけです。民間企業は規模や業種などさまざまですが、社会の生の声や温度、感覚を味わいたかったのです。

 短期間ではありましたが、想像以上に多くのことを学べました。もちろん畑違いの職場で働いてきた私にできることは少なく、会議の議事録を取るくらいしかできませんでしたが、企業にとって重要な決算報告会に立ち会わせてもらえたのは貴重な経験でした。

 そこで印象に残っているのは、一人一人の社員が数字を意識していること。報告会では営業担当の方が「売上目標を達成できず、申し訳ありません」と頭を下げ、課題点を発表していました。学校現場では、なかなか見ない光景です。

教師が社会に還元できるものとは

「数字を追う感覚は学校現場の人間も持つべきかも」と話す
――確かに、公立学校の教師が、売上や利益を意識することはありませんよね。

 私たち教師は、数字で能力を測られたり、数字を意識して仕事をしたりすることはありません。しかし、この経験を通じ、「数字を追う感覚」は、学校現場の人間も持つべきかもしれないと思いました。

 例えば、学校だと3月の修了式が終われば、気持ちを切り替えて新年度を迎えます。1年間を振り返って、設定した目標に対してどれくらい達成できたかを検証する機会は、企業に比べて圧倒的に少ないと思います。

 もちろん、学校教育は数値化できない部分が多いですし、教師個人の能力を測られることには、わずらわしさもあるでしょう。でも、ある程度は数値化して客観的に評価することや、1年間の働きについて個人単位のフィードバックをすることは、教師のモチベーション向上にもなることからも、必要不可欠な仕組みだと気付きました。学校外の世界では当たり前に行われていることが、学校現場ではうやむやにされているかもしれないと思いました。

――学校や教師の強みという面では、何か感じましたか。

 教師が社会に提供できるものについて、考えるきっかけになりました。

 教師の強みといえば、やはり教えることに長(た)けている点。企業の内部を知ったことで、企業研修など人事部の役割と非常に親和性が高いことに気付きました。そういった部分で教師の知見やノウハウを提供できたら、お互いがwin-winな関係の下で、社会と学校の行き来がしやすくなるように思います。

 インターンの最後に、社員の皆さんの前で報告をさせていただく機会があり、教師としてこの会社にどう貢献できるかについて話しました。一つは、教師は10年後の顧客の姿を知っているということ。これから社会に出て、未来の顧客になり得る子供たちのことは、私たち教師が一番知っています。

 また、学校教育は誰しもが通ってきた道なので、共通の話題として語りやすく、インターン先でも昔の学校や教師の思い出話を切り口に、どんどん会話が広がっていきました。そうした点でも、コミュニケーションの場で教師の役割が生かせるかもしれないと感じました。

 外から「教師」や「学校」を見たことで、その可能性や役割を改めて見直すことができました。

学校から社会に出ていく

――教師や学校は、社会からどう見られているかについてはいかがでしょう

 これはインターン先に限らず、さまざまな方と接する中で感じることですが、教師は「古い」「遅れている」といったイメージが根強く残っていると感じ、とてももどかしいです。

 私はこれまで、勤務校だけでなく、さまざまな活動やSNSを通して、面白い先生や熱意のある先生、優秀な先生たちに出会い、刺激を受けてきました。それが社会にはほとんど届いていないことを痛感し、そうした先生方を学校の中だけに閉じ込めておくのはもったいなさすぎる。だからこそ、そうした先生が学校、学校外関係なく輝ける舞台をつくりたいと強く思いました。

教育と社会の垣根をなくしたいと語る二川教諭
教育と社会の垣根をなくしたいと語る二川教諭
――そもそもなぜ学校という枠を超えて、活動しているのでしょうか。

 大きな視点から話せば、教育と社会の垣根をなくしたいと思ったからです。以前より改善されたとはいえ、学校は閉鎖的なイメージがぬぐい切れていない。一歩外に出て保護者や地域に目を向けると、学校教育への協力に前向きな人は大勢います。そうした人たちをうまく巻き込めきれていない現状が、すごく惜しいと思います。

 そんな状況を打破するためには学校側が呼び込むだけでなく、自らも社会に出ていくことが必要だと思います。お互いが気軽に行き来できるハブのような役割を、私が担えるようになればうれしいですね。

 さらに「自分を変える」感覚を多くの人に体感してもらいたいとも思います。実は私自身、最初からこんな教師だったわけではなく、たくさんの挫折や迷いにぶつかってきました。その時、私の在り方を変えてくれたのが、学校内の先生との出会いはもちろん、外に出て築いた学校外の人との出会いでした。

 ですから、不安や迷いを抱えている先生に、「私が変われたのだから、あなたも変われますよ」と伝えて、行動に移すきっかけを与えたいと思っています。

まず自分をワクワクさせる

――自分を変えるためには、何が重要なのでしょうか。

 学び続ける、つまり新しいことを取り入れて変わり続けることを、私は大切にしています。

 例えば、「BeYond Labo」の有志メンバーで「習慣化グループ」というものを結成しています。毎週日曜日に「今週新たにチャレンジすること」を宣言して、1週間後に結果を報告し合うのです。ちなみに私は、先週から筋トレを始めました。これまで特に興味があったわけではありませんが、やると決めて以降はプロテインを飲んだり、筋トレ用のアプリを使って毎日腕立て伏せをしたり、行動もどんどん変わってきました。この1週間、大きな充実感を味わえています。

 新しいことを始めると、自分がリニューアルされる感覚になって、ワクワクしますよね。それは子供たちも同じ。授業で新しい漢字を習う、九九に初めて挑戦するといった経験を通じ、子供はワクワクしています。新年度や新学期の空気感が、まさにそれです。

 子供たちをワクワクさせるためにも、私自身が常にワクワクしていなければならないと思っています。そして、その小さな積み重ねが、「自分を変える」ことにつながっていくのだと思います。

【プロフィール】

二川佳祐(ふたかわ・けいすけ) 小学校教諭。今年度より東京都練馬区立石神井台小学校に赴任。前年度まで武蔵野市立第一小学校で、主任教諭を務める。「大人が学びを楽しめば子供も学びを楽しむ」ことをモットーに、大人の学び場「BeYond Labo」を主宰する。妻と娘をこよなく愛し、「ファミリーファースト」を掲げる二児のパパ。

広 告
広 告