【オンライン授業のコツ】葉一氏・ムンディ先生に聞く

長期化する臨時休校。新学期を迎えても通常の授業ができない地域では、オンライン授業に乗り出す自治体や学校が出てきた。しかし、現場の教師たちには戸惑いも見られる。オンライン授業ではいつも笑ったり、発言したり、授業に反応する児童生徒の姿はなく、目の前にあるのはカメラのみだ。

教育系YouTuberとして多くの子供たちの学習を支える葉一(はいち)さんと、公立学校の教師であり、授業動画をYouTubeで配信するムンディ先生(山崎圭一さん)に話を聞き、一斉休校の影響やニーズが急速に高まるオンライン授業のコツ、授業づくりにあたっての留意点などを聞いた。


教師からの問い合わせが増加

「勉強どうするの?って、みんなパニックになっているよね」――。政府から一斉休校が要請された2月末に早速、葉一さんは子供たちの不安に寄り添うための動画をアップした。家庭学習の需要が高まり新たな視聴者が増えることを見越して、改めて動画の活用方法について説明した。

葉一さんは、8年前から小中高生対象に授業動画を配信する、教育系YouTuberのパイオニア的存在。チャンネル登録者数は84万人以上(4月9日時点)に上り、ホームページからダウンロードできる自作のワークシートを使った丁寧な授業解説が人気だ。一方で、SNSも積極的に活用しながら視聴者とコミュニケーションをとり、中高生の「お兄さん的存在」として活躍している。

一斉休校を巡る影響について、「閲覧数が爆発的に伸びた感触はありません。ただ学校の先生から、休校中の子供たちに動画を紹介していいかといった問い合わせが増えました」と振り返る。

教育系YouTuberとして活躍する葉一さん

中高生の視聴者からは、不安の声が続々と寄せられているという。葉一さんの動画のコメント欄やSNSは「毎日不安です」「卒業式がなくなりました」「友達と会えません」――など、突如訪れた不測の事態に戸惑う子供たちの訴えであふれている。

「大人が考えている以上に、子供たちは不安がっている。真面目な子ほど、言われた通りに家に閉じこもり、しんどい思いをしているようです」

特に休校期間が4月以降も続く子供について、「長期に渡ると緊張の糸が切れてしまい、生活習慣の乱れの可能性も大幅に増すかもしれない」と危機感をあらわにする。

それを踏まえ、休校期間に入ると午前10時からリアルタイムの生放送を開始。「みんなで自習しよう」を合言葉に、週に2~3日、YouTubeライブ上で視聴者たちとつながる。その生放送の間、視聴する中高生も葉一さん自身も、それぞれ家庭学習や作業に没頭する。特段会話することはなくとも、オンライン上でつながり、仲間が頑張る姿に触れることで、子供たちは安心感や学習へのモチベーションを高めているようだ。

動画は15分に濃縮させる

教師がオンライン授業を配信する機会が増えることについて、「教室の授業とは、少し作り方や構成に違いがあるかもしれない」と葉一さんは説明する。

「通常の授業通り40~50分間の動画を作らなければと思いがちですが、実は違う。私が効果的だと思うのは、ポイントを整理して15分程度にギュッと濃縮させるもの。まず、この動画で何を伝えるのかを自身の中で明確にし、視聴者としっかり共有し、最後まで目的に向かって、だれないようにすることが大切です」

通常の授業と違い、オンライン授業では子供たちの反応や表情を観察しながら進めることができない。教育系YouTuberとして、どのようなアドバイスがあるだろうか。

「思っている以上に、『集中して見るぞ』と意欲的な視聴者は少ないと思っていたほうがいいかもしれません。つまらないとすぐに停止されるし、集中して見てくれません。さらに今の中高生は動画に関して、かなり目が肥えています。私自身も、創意工夫の毎日です」

2月に実施した教育新聞のインタビューで、葉一さんは、教師が授業動画をYouTubeに投稿するシステムを整えてほしいと前向きに話していた。今回の事態がそれを進めるきっかけになるか尋ねると、「残念ながらそうは思いません」と意外な答え。

「もちろん子供たちにとっても学びの選択肢が増えるので、とてもいいことだとは思います。ただ現状では、混乱のなか、必要に迫られ配信しなければならない先生が多いはずです。さらに不特定多数が見るYouTubeやネット上にアップすると、外部からの指摘もあるでしょう。十分な準備や余裕を持って進めていけるほうが、配信する先生にとっても、オンライン授業の発展のためにもよかったのかもしれません」

実際に一斉休校をきっかけに、授業動画に挑戦しはじめた現場の教師からは、「ネット上に上がると、間違いをしたときのリスクが高い」「評価されることに抵抗がある」といった声も見受けられた。

教師だからできる授業動画

昨年までは教諭、4月からは非常勤として公立高校で教壇に立つムンディ先生。日本史や世界史の授業動画をYouTubeで公開しつつ、書籍の執筆など幅広く活動する。

現役の教師とYouTuberの二足のわらじを履くムンディ先生は「現場の教師だからこそ届けられる動画がある」と力強く語る。

「もしかすると受験で点数を取るための最短距離を示す授業は、予備校の先生のほうが得意かもしれない。ただその教科に付随する教養や雑学を伝え、児童生徒の興味関心の幅を広げる授業は、学校の教師しかできないでしょう。そしてその能力をもっと広く公開する機会だと思います」

リアルの教室で培ってきた教師の教える技術は、たとえオンライン上であっても生きると続ける。

現役の教師でもあるムンディ先生

「学校の授業と、予備校やYouTubeの授業との大きな違いは、生徒全員がその授業を受けたくて受けているとは限らないことです。興味のない生徒をいかに夢中にさせるか、私たち教師は日々の授業で工夫に工夫を重ねています。そのエッセンスは、舞台が動画に移ったとしても生かせるはずです」

自身の経験を踏まえ、教師がオンライン授業を配信する際に大切なのは「想像力」だと指摘する。その想像力は普段の授業の積み重ねだと言い、「あえていつもの授業のスタイルを貫く動画の需要もあると、私は思います」と勧める。

その上で、留意することについて、こう話す。

「じかに生徒の反応を感じられないと、言葉が上滑りする可能性があります。言葉の選び方、間の取り方、テンションの持ち方、これまで教室で授業をしていた経験をフルで生かしてイメージしながら、展開するといいと思います」

自身もYouTubeにアップする以前から、生徒の反応や自身の授業を客観視する目的で、授業の動画を撮影していたという。

「最初はなんだか恥ずかしいですが、そこは慣れです。動画を撮るとこれまで発見できなかった自分の授業のよさや、反省点が驚くほど見えてくる」と、教師個人のスキルアップの視点からも効果的とした。

授業動画で単位取得も

ムンディ先生には授業動画について、とある構想がある。国や地方自治体主導で、学習指導要領に沿った授業動画を配信できるシステムをつくるというものだ。

これまで普通科高校以外に、定時制高校や特別支援学校に赴任してきた。そこでは闘病しながら、働きながら懸命に通学しても、出席日数が足りないなどの事情で中退を選ぶ生徒を数多く見てきた。

そんな学校に行きたくても困難な生徒たちを前に、授業動画の可能性について考えを巡らせてきた。

最終目標は単位の履修・修得までできるシステムの構築。例えばアプリ経由で動画を視聴すると、閲覧履歴が管理できる。問いについて回答を記述したり、受講者同士で意見を交換できたりなどのシステムをいれると、教室での授業と遜色ない質も担保できるかもしれない。

「一部の子供たちの学習のセーフティーネットとして活用できると思っていました。しかし今回の一斉休校のような非常事態に、多くの児童生徒の学習の機会を確保するためのツールになると感じています」

しかし懸念もある。それは各家庭においての通信環境や端末の整備格差。私立学校や一部の自治体では「1人1台端末」など整備が進むが、大半の地域はそういった環境にないのが現状だ。

「特に公立学校では私立に比べてICT環境も遅れていますし、家庭の事情もさまざま。私自身も生徒には休校中の課題として自分の動画を見るようには言えません」と話す。

不測の事態に伴いニーズが急速に高まりつつあるオンライン授業。政府や自治体は環境整備について急ピッチで動く姿勢を見せているものの、ハード面にもソフト面にも課題はまだまだ残る。しかし子供たちの新たな学びのツールとして、可能性があることは確かだろう。

(板井海奈)


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