【非常勤講師たちの悲鳴】コロナが問う学校の働き方

長引く臨時休校を巡って、学校現場が悲鳴をあげている。児童生徒はもちろん、教師も山積する課題や先が見えない不安で、心身共に多大なるストレスを感じている。一方、この騒動の影響で、働く場所を失いかけている人々がいる。非正規雇用の講師たちだ。特に状況が深刻な私立学校の教員で結成される労働組合「私学教員ユニオン」の佐藤学代表にインタビューし、新型コロナウイルス感染症が教職員の働き方に与える影響を聞いた。


管理職に休業補償を相談できない

3月から続く一斉休校。子供たちへの影響はさることながら、そこで働く教職員も精神的、肉体的に多大な負担が強いられている。その一つが労働問題だ。特に非常勤講師を巡っては、一部の私立学校で休業補償が十分に支払われていない問題が浮き彫りとなり、波紋を呼んでいる。

3月末、「私学教員ユニオン」が文科省で会見した。求めたのは2つ。私立学校の非常勤講師の休業補償を公立学校と同じく満額支払うことと、新型コロナウイルス感染症を巡る一連の騒動が収束するまで雇用を継続させることだ。

記者会見に参加した、私立中高一貫校の非常勤講師Aさん。勤務校は2月28日より休校措置を取り、学年度末試験も中止になったという。

文科省で会見に臨む私立学校の非常勤講師

Aさんの月収は約20万円。授業コマ数×授業単価で、Aさんは授業を19コマ、部活動を2コマ分受け持ち、合計21コマを担当していた。週6日勤務で、勤務時間はほぼフルタイム。休日に部活動の練習や試合などに同行することも多かったが、残業代はもちろん発生せず、朝から夜までの試合に同行したとしても1000円ほどが支払われるだけだったという。そのため日常的に生活が苦しく、その補塡(ほてん)のため塾講師のアルバイトも掛け持ちしていた。

何とか生活をやりくりしていたAさんに、唐突に降りかかった一斉休校の影響。Aさんの勤務校では、3月末時点で学校から給与についての説明はなく、不安な日々を過ごしているという。

「給与や有休について学校に問い合わせて、雇い止めになる人の話を聞いてきた。職を失うと思うと、怖くて聞けない」

勇気を振り絞って会見に挑んだAさん。管理職に自身の給与について質問するという、労働者として当たり前の行為さえも、非常勤講師にとっては困難なことなのだろうか。

会見に同席した私学教員ユニオンの佐藤学代表は、「『教師は生徒のために』といった聖職論が、教師自身の共通認識としていまだに根深くある。特に一法人である私立学校では、生徒のためにどう尽くせるのか、学校の方針に盾突かないかが重要視される傾向にある。そのため特に立場の弱い非常勤講師は、賃金について言い出しにくい」と説明する。

関連した雇い止めも増加か

一斉休校を巡っては、全国の教職員から同団体に相談が相次いでいる。特に私立学校の非正規雇用である、非常勤講師からのものは深刻だ。

当初は、新学期の学校再開前提で開始された一斉休校だが、再開を巡っては政府や自治体の判断は二転三転。文科省の発表によると、4月10日時点で新学期から通常通り授業を再開させた学校は全国で38%にとどまっている。

佐藤代表は「休校期間がかなり延びており、それに伴い出勤しない非常勤講師が増えている。万が一その学校が期間中は給与を支払わない選択をとっているのであれば、死活問題だ」と警鐘を鳴らす。

さらにこの騒動に関連する「雇い止め」の増加も懸念される。同団体には具体的な報告はまだないというが、「顕在化していないだけで、潜在的には一定数いるはずだ。実際に雇い止めになったとしても、自助努力で次の就業先を見つけ、何とか食いつないでいる人がいるだろう」とみている。

混乱が続く学校現場の現状を踏まえ、再就職先を見つけることが今後より困難になるとも指摘する。

聖職論ありきの学校の限界

千葉県の私立学校の非常勤講師である相談者の1人は、今回の一斉休校だけでなく、昨年10月に同県を中心に猛威をふるった台風被害による臨時休校の際も、給与が一切支払われなかったという。佐藤代表は「非正規差別だ」と訴える。

「労働者の責任ではない休業について正社員は守られ、非正規者は負担を強いられる。彼らはそもそも低賃金、細切れ雇用だ。学校法人の主軸事業である授業を、そのような不安定な労働力に都合よく任せておく一方で、何かあると簡単に雇い止めをしたり、賃金をカットしたりする。そもそも学校という教育現場を、使い捨て雇用で運用していることがおかしい」

私学教員ユニオンの佐藤学代表

学校現場の主役は、もちろん児童生徒だ。学校だけでなく、社会全体が未曽有の事態に直面するなかでも、教師は児童生徒の命と学びを守り、彼らを導く役割がある。ただ教師自身の権利はどうだろうか。「やりがい」「児童生徒のため」に傾倒するだけではなく、1人の労働者として、安心して働く環境や業務に準じた対価が担保されているか、冷静に見極められているだろうか。なにより自身の健康や生活をないがしろにしてまで、働いていないだろうか。

「学校の在り方自体を見直さなければいけない。聖職論ありきで、教師が生徒のために働くのは当たり前で、生徒のためなら無制限に頑張るべきという意識が、この問題の前提にある。学校や教師の職務範囲について、捉え直すことが、解決する第一歩だと感じる」と、佐藤代表は話す。

声高に叫ばれる「学校の働き方改革」。それでも教職員の多忙化の解決への道のりは、まだ遠い。これまで一人一人の過重労働や無理で何とか運営できていた学校現場も、こうした非常事態に直面するとほころびが表面化し、一気に機能不全に陥る危険性をはらんでいる。

(板井海奈)


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