【コロナ危機 6つの質問】戸ヶ﨑勤・埼玉県戸田市教育長

新型コロナウイルスの脅威に、学校はどう対処し、どう変わっていくべきか。教育新聞では教育界のキーパーソンやイノベーターらに6つの質問(▽学びの保障をどうするか▽新型コロナから児童生徒をどう守るか▽教員の安全はどう担保するか▽このコロナ危機の教訓、反省点▽学校はどう変わるべきか▽いま学校現場に伝えたいこと)を投げ掛けた。

第1回は、ICTをはじめとする教育改革を積極的に進める埼玉県戸田市の戸ヶ﨑勤教育長に質問。戸ヶ﨑教育長は「量と質の両面で学びの保障を考えている」と話し始めた。

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夏を見据えオンライン授業に対応
――新学期が始まっても休校が続き、学校再開が見通せない中で、どうやって学びを保障しますか。

戸田市では、量と質の両面で学びの保障を考えています。まず授業時数の確保では、夏休み中の授業実施や、放課後の補習などを行う予定です。また、各学校で年間指導計画を再検討し、前年度の未指導部分の位置付けや新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善に取り組みます。

一方で、熱中症予防の観点から、7~8月の時期に学校で授業を実施するのは課題があります。そこで、その時期には自宅と学校をつないだ双方向型のオンライン授業も実施することを視野に、準備を進めています。

これまでも復習を目的としたドリル教材の提供や授業動画の紹介などに取り組んできていますが、子供たちになかなか定着しないことが危惧されます。子供は自分の知っている教師でないと、授業を受ける気にならないものです。そのため、戸田市が目指すオンライン授業では、通常の学校の授業と同じように、各学の教師が、受け持っている子供たちに対して授業を行うようにします。

オンライン授業の場合、これまでのような1コマ45分や50分の授業では子供の集中力が続きません。したがって、教師は短時間でポイントを伝えたり、「本当に問うべき問い」だけを投げ掛けたりすることになります。最初の15分だけ説明して、残りの時間は子供たちの自学自習を支援するような形になるでしょう。こうした授業ができるようになれば、将来的にはアクティブ・ラーニングの授業や反転学習にも応用できます。ICTスキルも含め、オンライン授業に対応した教師の授業スタイルの転換を、各学校で取り組んでいるところです。

学校からは「この非常事態だから授業時数の確保にこだわらず、弾力的に対応させてほしい」「量の確保もよいが質の確保こそ重要だ」といった声も出てくると思います。しかし私は、非常事態や教員の負担増などを言い訳に量の確保をおざなりにすることが、全国の現場で起きることを危惧しています。質の確保はもちろん大事ですが、量の確保にも努めなければ、責任は果たせないと考えます。

ゴールデンタイムが奪われた影響
――休校中、学校再開後を通じて、新型コロナウイルスから児童生徒をどう守っていきますか。

教員には、オンライン授業に向けたスキルアップと同時に、子供たちの様子をあらゆる方法で把握することを求めています。市内でも感染者が出ている状況から、対面ではなく電話やメールで対応しています。きっと、子供たちや保護者もストレスや困りごとを抱えているだろうし、特に中学3年生は進路で悩んでいるかもしれない。直接会えなくても、あらゆる手段を講じて子供の変化を見逃さないようにすることこそが教師の仕事です。

学校が再開したら、校内の消毒や手洗い、咳(せき)エチケットなどの感染症対策の指導はもちろん徹底して行います。しかし、密閉、密集、密接の3密を学校生活で回避することは至難の業。授業中は教員のコントロールも効きますが、休み時間となれば子供たちの行動に目が行き届かなくなる恐れがあります。教職員全体で注意していくしかありません。

教員にとって、4月の学級開きは教員と子供、子供たち同士の人間関係を築き、集団生活に慣れさせる「ゴールデンタイム」ですが、今回の休校でその大切な時期が奪われてしまいました。不登校や学級崩壊、非行、問題行動などがこれまで以上に起こる可能性が高くなるでしょう。また、社会全体が不安定さを増している中で、予想していないような事故や事件に子供が巻き込まれるかもしれません。各学校ともこれらの危機感を共有していますが、いつ学校が再開するかも不透明な状況で、具体策はまだ見えていません。

――教員の安全をどう確保していきますか。

教員に対しても感染防止として、不要不急の外出禁止、3密を避けること、毎日の検温、手洗いや咳エチケットの徹底などを求めています。

現在、各学校で校務に支障がない範囲で、教師が在宅勤務を行うことを奨励しています。学校で使用しているグーグル社の学習系端末「Chromebook」を貸し出して、自宅からクラウドにつないでモバイルワークができるようにしました。

一方で、小学校低学年を対象に、仕事が休めない保護者がいる家庭の子供を預かっているため、それは学校で勤務している教員が当たっています。学校に来る子供が多ければ教室を分けなければならず、対応する教師もその分必要になってしまいます。そこで、中学校の教員にも手伝ってもらうことにして、負担を少しでも減らすようにしています。

「大きな学校」の大切さ
――このコロナ危機から学んだ教訓や反省点は何でしょうか。

私自身、Society5.0を前に、学校のICT化にばかり目が行っていましたが、家庭と学校をつなぐ有効なインフラがいかに脆弱(ぜいじゃく)であったかを突き付けられました。オンライン授業をやろうとしても、家庭に十分なICT環境が整っているとは限らないのです。

GIGAスクール構想も、この危機によるオンライン授業への対応として、家庭への持ち帰りを前提としたものに方針転換しましたが、家庭に端末を貸与しても、Wi-Fi環境がなければただの箱です。さらにセキュリティー対策や、万が一壊してしまったときの保証をどうするかなど、子供に貸し出すことは想像以上に課題が多い。これを機に、家庭でもオンライン授業のためのWi-Fi環境の必要性を認識してもらうことが重要です。

もう一つ再認識したのは、地域社会のセーフティーネットとしての学校の役割です。これまで本市では、産官学と積極的に連携し、民間やNPOの手法や考え方を導入し、合理化・効率化・スリム化をしながら、新たな学びへの改革や働き方改革を進めるなど、いわば市場開放的な「小さな学校」に関心が向いていました。

「大きな学校づくりにも努める必要がある」と話す戸ヶ﨑教育長

しかし、今回の非常事態対応で、学校は、学びの場だけでなく地域社会のセーフティーネットなのだということを思い知らされました。ICT化が進展する中、人間を育てる専門職としての教員の仕事の強みや衿持まで手放さないこと、この非常事態に学校は目の前の子供たちのために何をなすべきなのか。一方で、何をやめるべきかも真剣に考え行動していかなければならないと感じました。

また、テクノロジーの活用は、効率性、個別性などと結び付いた教育の機械化だけではなく、共同性、公共性などの再構築につなげることで、市民社会と協働した公共空間である「大きな学校」づくりにも努める必要があると感じています。

オンライン授業への対応などを進める
――学校は今後どう変わっていくべきでしょうか。

今後、コンピューターだけでなく、スマートフォンなども含めて、いつでもどこでも学べる環境が求められています。教師の勤務も、自然災害発生時などは在宅しながら子供の学びを支援することが当たり前になっていくでしょう。こうした環境が整えば、インターネット上の仮想空間での授業も実現します。個別最適化された学びも可能となり、学びたいコンテンツがいつでもどこでも手に入るようになります。

そのためには、家庭も含めた1人1台環境やWi-Fi環境の整備、教師の指導力向上などオンライン授業への対応などを進めていかなければなりません。

一方で、オンライン授業ができる環境が整っても、子供たちが学びに向かう力が育っていなければ意味がありません。課題になかなか取り組もうとしない子供に対し、これまでは教室で教師が働き掛ければよかったですが、子供に会えない状況ではそうした支援はできません。遠隔での支援体制の構築とともに、普段から自己肯定感を高め、自ら学びを継続できる子供を育てていかなければならないのです。

くしくも、OECDの2018年PISA調査で指摘されたデジタル読解力に対応できていない日本の子供の問題が、このコロナ危機で浮き彫りになったと思います。オンライン授業では、例えばインターネットで情報を検索しながら、調べ物をする場面も多く出てくるでしょう。そのとき、学習をうまくデザインすれば、子供自身が情報の信ぴょう性を見極めることや、書かれていることをきちんと理解できているかを自己評価することも可能になります。

教師の存在が必要不可欠
――今、学校現場に伝えたいことは何ですか。

学校も家庭もICT環境が整備され、オンライン授業ができるようになれば、学校に行かなくても学びを続けることはできます。

しかし、それで全ての学びを保障できるわけではありません。今回の休校で、ICT環境整備の必要性を痛感させられたのと同時に、ICTで置き換え可能なものと、不可能なものが見えてきました。

新型コロナウイルスの感染拡大によって経済活動が停滞し、世界的な景気後退の懸念が強まり、国内でも家庭の経済格差が一層広がる可能性があります。

家庭の社会経済的背景(SES)を乗り越えられる「効果のある学校」にしていかなければなりません。それが、地域社会のセーフティーネットとして学校が果たすべき役割であるし、意欲や学力などの学習上の課題を抱えている子供を支援するためには、やはり教育の専門職である教師の存在が必要不可欠だということです。

(藤井孝良)


【プロフィール】

戸ヶ﨑勤(とがさき・つとむ) 埼玉県戸田市教育委員会教育長。小・中学校長、戸田市および埼玉県教育委員会などの勤務を経て、2015年より現職。教育再生実行会議WG委員、中教審第3期教育振興基本計画部会委員、中教審初等中等教育分科会臨時委員、全国的な学力調査に関する専門家会議委員、経産省 「未来の教室」とEdTech研究会委員など。

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