【アダプティブラーニング】個別最適化する学びとは

全国の小中学校に1人1台の学習者用コンピューターを整備するGIGAスクール構想。とはいえICTが普及しても、紙でやっていたことをデジタル化するだけでは新しい価値は生まれない。それを踏まえ、GIGAスクール構想の効果を高めるものとして注目されているのが、「アダプティブラーニング(学びの個別最適化)」というキーワードだ。1人1台時代におけるこの新しい学び方について、武蔵野大学教育学部の荒木貴之教授に聞いた。(全3回)

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学びの個別最適化「アダプティブラーニング」
――「アダプティブラーニング」とはつまり何でしょうか。

一人一人の児童生徒に対し、学習状況や興味関心に応じて、いかに個別対応ができるかどうかという「学習の個別最適化」だと考えています。「アダプト」という言葉は「適応する」という意味ですので、「アダプティブラーニング」を日本語では「学習の個別最適化」と訳しています。

これまでの日本の教育シーンにおいても、教科や科目、授業の指導場面などにおいて、個別にやることはあったと思います。しかし、1学級40人での一斉授業が中心でしたから、個別の対応をやりたくとも現実的にはなかなか難しいという状況でした。

1人1台で個別最適化がようやく実現すると話す荒木教授

しかし今回、1人1台という構想が具体的な政策として出てきました。これが実現すると、個々の学びがデジタルデータとして記録されていきますので、今までできなかった一人一人への個別対応がようやくできるようになると感じています。

そこに人工知能(AI)を介在させれば、ある程度の全体把握が可能となり、集団の中で飛び抜けている子供やつまずいている子供を自動的に検知できるようになります。

すると先生は、飛び抜けている子供にはより発展的な課題を出し、つまずいている子供にはより理解がしやすいようにサポートをするなど、個別の対応ができるようになっていきます。

変化する先生の役割
――AIが児童生徒の理解度を把握するための材料は、小テストのようなものでしょうか。

そうですね。ある問題を解かせて、正答できた子供にはより発展的な問題を配信し、正答できなかったり回答できなかったりした子供には少し簡単な問題や少し前の単元の問題を配信する。AIを活用することで、こうしたことができます。

これまで一斉授業での説明が中心だった教員の役割は、飛び抜けている子供やつまずいている子供の所へ行き、必要なサポートを個別に提供していくような形にシフトしていくでしょう。授業中の役割は大きく変わっていくと思いますが、本来、先生の時間はそういうところに注ぐべきではないかと考えています。

――アダプティブラーニングが進むと一斉授業はなくなりますか。

多分、ブレンド(混合)でやっていった方がいいんだろうなと感じています。少し前に、反転授業というものが注目されたことがありました。授業を理解するために家で予習をするという手法ですが、今後も基礎基本の部分は、何らかの方法であらかじめ身に付けておくのが有効だと思います。

一方で、学校でしかできないこともあります。その一つは協働で課題解決に取り組んでいくことです。反対に、協働で取り組むこと以外は、ネット上で1人でできてしまう。OECD生徒の学習到達度調査(PISA)で求めているスキルは、ICTを使いながら協働で課題解決していける力です。先生方はその辺りを意識して、学校でなければできないことをしていくべきだと考えています。

教科書やウィキペディアに載っていることを、黒板やチョークを使ってやっていくような一斉授業はナンセンスだと思いますが、ICTやアダプティブラーニングが進んでも、学校という場において集団で学ぶことの価値はなくならないでしょう。

学びが効率化し、児童生徒の満足度は上がる

学習指導要領に記載された学ぶべき単元の量は非常に多いと思いますが、これは「最低基準」であると言われています。すなわち、完全に習得させなければいけないものですが、実際の学校現場を見ると、全体の2割くらいは簡単にできてしまっていて、他方で2割くらいはつまずいたり落ち込んだりしていて、残りの6割くらいはなんとかついていけているという状況があります。

これまでの授業では、上の2割と下の2割に対して、効果的に力を伸ばせていなかったんですよね。しかし、アダプティブラーニングでは、それら4割の子供に対する学びを個別最適化していけます。実際に数学の授業にICTを導入している東京都千代田区立麹町中学校では、これまで習熟に1年かかっていた内容が数カ月で終わったというような結果も出ています。

――単元を学び終えるタイミングが、児童生徒によって変わるということでしょうか。
アダプティブラーニングで子供の満足度は上がるという

学び方が一斉授業からアダプティブラーニングに変わっていくと、一つの単元を学び終えるタイミングは、子供によってまちまちになると思います。どんどん先へ進む子もいるし、時間がかかる子もいる。

ただ、通常授業だけで進めるよりも、アダプティブラーニングの方が全ての子供の満足度が上がります。なぜなら、どの子供も「分かる」し「できる」から、そして、興味関心が継続するからです。

今後、全ての教科や授業がアダプティブラーニングに切り替わっていくかというと、そうはならないでしょう。しかし、いずれかの教科・科目や単元において、アダプティブな学びが適した場面は必ずあると考えています。

(森田亜矢子)

【プロフィール】

荒木貴之(あらき・たかゆき) 武蔵野大学教育学部・大学院教育学研究科教授。日本アクティブ・ラーニング学会の副会長も務める。東京都公立中学校教諭、東京都教育庁指導主事を経て、立命館小学校副校長、追手門学院参与、河合塾主席研究員を歴任。武蔵野大学大学院では、国際教育研究・国際教員養成コースを担当し、著書に『日本発21世紀型教育モデル―つなぐ力が教育を変える』『ロボットが教室にやってくる―知的好奇心はこうして伸ばせ 立命館小学校のアイディア』(ともに教育出版)などがある。


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