【アダプティブラーニング】個別の学びが適する教科は

GIGAスクール構想によって、全国の小中学校に1人1台の学習者用コンピューターが導入され始めている。これを受けて、今後加速していくと見込まれる「アダプティブラーニング(学びの個別最適化)」という新しい手法。児童生徒一人一人が難易度の異なる学習を個別に進めるアダプティブな学びは、果たしてどのような教科・単元などに適しているのか。アダプティブラーニングとアクティブ・ラーニングの関係性も含め、武蔵野大学教育学部の荒木貴之教授に聞いた。(全3回)

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アダプティブな学びが適した教科とは
――アダプティブラーニングは、どのような教科・科目が効果的なのでしょうか。

個別最適化されたアダプティブな学びが効果を上げる代表的な教科は、英語と数学です。英語は、習い事として学んでいる子や海外滞在歴のある帰国子女などがいるので、技量に差が生じやすい教科。例えば、武蔵野大学附属千代田高等学院(以下、千代田高等学院)では、高校入学時点で英検1級を持っている生徒もいれば、5級レベルの生徒もいます。こうした生徒たちに、本当に同じ授業をしてよいのか。習熟度に個人差が生じやすい教科・科目であれば、私はアダプティブな学び方の導入を考えるべきだと思います。

人間の介在価値はなくならないと話す荒木教授

実際に千代田高等学院では、経済産業省の「未来の教室」に採択された英語のライティングの授業で、習熟度に応じて一人一人に異なる課題を与えています。生徒たちが書いた文章は、米国の大学生が添削してフィードバックしますが、この授業の生徒満足度は非常に高いんです。

でも、このやり方を一人の教員でやろうとしても、非常に難しいと思います。かなりの負担が掛かってしまうでしょう。

ICTやAIによって実現される個別最適化
――教員の負担とは、具体的にはどのような負担でしょうか。

例えば、生徒に宿題やテストをやらせて、それをチェックするシーンを想像してみてください。問題が同じであれば、同じところを見ればよいので、採点やチェックも比較的簡単にできます。しかし、問題が一人ずつ違うとなれば、採点の作業効率は一気に落ちます。

このように、今までと同じやり方では、学びの個別最適化というのは非常に困難です。ですが1人1台のICT環境やAIの普及によって、それが可能になってきていると感じます。

――作文の添削のようなものも、AIが担う時代になるのでしょうか。

技術的にはできるのでしょうが、人の動機付けには、「この人に伝えたい」というような人間味も大事だと私は思います。AIのキャラクターと対話するようなことは、すでに技術的には可能です。しかし、人間が生身の人間に対して持つ興味関心の高さ、あるいは、人間同士の本物の交流みたいなものは、まだAIでは代替できないのではないかと感じています。

アクティブ・ラーニングからアダプティブラーニングへ
――理科系科目についてはいかがですか。

理科系科目は、どちらかというとアダプティブラーニングよりも、OECDが提唱している協働的な学び方の方が適していると考えています。例えば、実験の場面では、個々の生徒の異なる興味や視点を、協働作業で生かすことができます。このような教科や場面については、個別で進めるよりも、協働で取り組むアクティブ・ラーニングの方がよいでしょう。

さまざまな学び方を組み合わせた「ブレンディッド・ラーニング」を研究中

アダプティブラーニングが適しているのは、英語や数学のように個人ごとの能力、学習を進める上での技量にばらつきが生じやすい教科・科目です。そのようなことを踏まえながら、アダプティブラーニングで進めるもの、アクティブ・ラーニングで進めるものを選別していくとよいと思います。

――「アダプティブ」と「アクティブ」自体に、優劣があるわけじゃないのですね。

私は、アクティブ・ラーニングから入ってアダプティブラーニングへ移行していくべきだと主張しているのですが、教科・科目や地域の特性、扱う題材にもよると思います。

私はもともと理科の教員でしたが、化学の実験の時は、あえて細かい指示を出さないように心掛けていました。何人でチームを組むかも自由に決めさせたので、2人で進める生徒もいれば、5人チームを組んで進める生徒もいました。でも、「少ない人数で良い成果を出したら評価は高いよ」と言っていました。

進捗度(しんちょく)はチームごとに差が生じてよいので、このような手法はアダプティブラーニングであり、アクティブ・ラーニングであるとも言えます。

アダプティブな学びは学校という枠を超える

アダプティブラーニングは、学校が主体で進めるものだけでなく、学校以外のところですでに経験している生徒もいます。昨年秋に千代田高等学院のある男子生徒が、世界50カ国の中高生が集まる「ワールド・スカラーズ・カップ」という大会に、日本代表として参加しました。この大会は、3人1組のチームで科学技術、歴史、文学、音楽・美術、社会などの科目について、クイズ、ディベート、ペーパーテスト、エッセーの4種目の得点を競うものです。

彼は、アジア最終予選までは慶應義塾高校の生徒2人とチームを組んでいたのですが、世界大会の出場権を得たところで2人がリタイアしてしまったんです。そこで彼はどうしたかというと、ネットを通じて「誰か一緒にやらないか」とチームメンバーを募り、イタリアと英国の日本人2人とチームを組み、イェール大学で開催された世界大会へ行きました。彼は、高校1年生でした。

このように、達成したい目標に対して、学校という枠を超えて仲間を見つけ、挑戦するという経験ができている生徒もいます。アダプティブを突き詰めていくと、一つの学校の中ではとどまらなくなるんじゃないかなと思います。

それを実践していく上で大切なことは、「制限をなくす」ことだと考えています。つまり、「こうしなさい」や「これはやってはいけない」とは言わないこと。児童生徒が「やりたい」というものに対して、「いいね」や「こういうやり方もあるんじゃない」というようにサポートしていく、自由度を与えていくということです。

――アクティブ・ラーニングにもつながっていきますね。

つながりますね。答えは一つじゃなくて、多様な答えを認めていくこと、多様な活動を認めていくことが大切です。先生ががっちりとシナリオを作って、その通りに進めていくという時代ではなくなっていくと思います。

(森田亜矢子)

【プロフィール】

荒木貴之(あらき・たかゆき) 武蔵野大学教育学部・大学院教育学研究科教授。日本アクティブ・ラーニング学会の副会長も務める。東京都公立中学校教諭、東京都教育庁指導主事を経て、立命館小学校副校長、追手門学院参与、河合塾主席研究員を歴任。武蔵野大学大学院では、国際教育研究・国際教員養成コースを担当し、著書に『日本発21世紀型教育モデル―つなぐ力が教育を変える』『ロボットが教室にやってくる―知的好奇心はこうして伸ばせ 立命館小学校のアイディア』(ともに教育出版)などがある。


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