【コロナ危機 6つの質問】全連小・喜名朝博会長に聞く

新型コロナウイルスの脅威に、学校はどう対処し、どう変わっていくべきか。教育新聞では教育界のキーパーソンやイノベーターらに6つの質問(▽学びの保障をどうするか▽新型コロナから児童生徒をどう守るか▽教員の安全はどう担保するか▽このコロナ危機の教訓、反省点▽学校はどう変わるべきか▽いま学校現場に伝えたいこと)を投げ掛けた。

第3回は、全国連合小学校長会(全連小)会長の喜名朝博・東京都江東区立明治小学校校長。学校現場を取り巻く厳しい状況の中で「自己調整力の育成不足を痛感した」としつつも、「児童生徒がいてこその学校で、教師だ」と来たる再開の日に向けて前を向く。

この特集の一覧

タイムリミットは刻々と
――休校期間が長引く中で、児童生徒の学びの保障についてどのように考えていますか。

終息が見えないこの状況だからこそ、一定の期限を区切り、ある程度の見通しを持って対策していく必要があります。私は次の3通りを考えています。

①5月6日以降の連休明けから再開
【積極的予習】
▽学習方法の例示
▽学習の定着の確認や、自己評価による完結
②8月中や9月の夏休み後から再開
【発信方法の工夫】
▽授業動画の配信や、オンライン上での双方向授業
③年明けや年度末以降の再開
【都道府県、国レベルでの対応】
▽自治体がローカルテレビ局を活用して、テレビ番組を作成
▽国が「NHK for School」などのコンテンツを活用して、「テレビ小学校」を実現し、学校の通常授業と同等の授業

 

なるべく早く再開できるのが理想ですが、現時点では5月の連休明けからの再開は非常に厳しいと見ています。年明けや年度末にずれ込む可能性も大いにあると危機感を持っています。

②で示したオンラインを活用した授業発信については、まだ多くの課題があるでしょう。まず児童生徒全員の家庭にPCがあり、Wi-Fiなど通信環境が整っていることが必須です。特に公立ではさまざまな環境の児童生徒がおり、不安要素が残ります。在宅勤務をする保護者が使用しているケースも多く、特に今の時期はPCを使える環境にない児童生徒は多いのではないでしょうか。

さらに授業を配信する教師側は、動画の配信や双方向授業などは未経験です。どこまで効果的なコンテンツを、早急に提供できるかも懸念点です。非常事態であることを踏まえると、大手学習塾などと連携して、すでにあるコンテンツを活用する手段もあるのではないかと考えています。

8月中に再開した場合は、夏季休業を短縮しての授業確保がどこまで許容されるのかがポイントとなるでしょう。9月以降に再開となると、通常の教育課程を実施するのは不可能です。標準授業時数を下回ることが認められたとしても、履修内容が追い付きません。つまり学校や自治体レベルでは児童生徒の学びの保障について、対処しきれない状況に陥るのです。

いまも学校現場では、あらゆる可能性を踏まえて、児童生徒の学びの保障のために教職員が試行錯誤しています。

ただ各学校レベルで対応できるタイムリミットは、刻々と迫ってきています。今こそ、国、自治体、学校現場が足並みをそろえ、最悪の事態を想定しながら対策を講じなければいけません。一斉休校が始まった時のような後手後手の対応になると、学校現場はさらに混乱を極めますし、何より児童生徒が被害を受けてしまいます。

すんなりと学校生活に戻れるか
――コロナから児童生徒をどう守るかも、課題ですね。

もちろんです。学校を再開したらよしというわけではなく、そこからまた新たな闘いが始まると、現場の教職員は緊張感と不安を抱えていると思います。

現状では、次のように整理しています。

【休校中】
▽「健康カード」を活用して、児童の発熱や体調の変化に気付くようにする
▽手洗いの励行、「3密」の排除の習慣化などを発信
▽学校再開に向けて「新型コロナウイルス」への理解啓発学習の計画
【再開後】
▽アルコール消毒、マスク着用の励行
▽検温など健康管理の徹底
▽「3密」排除(グループ学習や給食時の工夫、体育の内容の吟味、常時換気し必要に応じ空気清浄機を配置)
▽「新型コロナウイルス」への理解啓発学習の実施

 

感染状況が終息するまでは「3密」を避けるために「2部授業制」を導入して、教室内の人数を減らすなど、あらゆる工夫が求められます。

さらに身体面だけでなく、児童生徒のメンタル面にも留意しなければなりません。再開後に、すんなりと学校生活に戻れない子も出てくるでしょう。

4月から小学1年生に進級した児童は、特に気を付けて見ていかなければなりません。小1は通常でも学校生活に慣れるまで時間を要したり、保護者が恋しくて学校に行くのを嫌がったりする姿が見られるものです。その中で学校と家庭が協力し合いながら、児童はだんだん学校生活に慣れていきます。しかし今回の休校で、そのリズムは崩れています。再開後も小1と、その保護者の抱える不安に寄り添いながら、担任をはじめとした教職員は丁寧に向き合っていかなければなりません。

そんな児童たちに、今できることは、「学校は楽しいところだよ」「こんなことを学ぶよ」と、前向きな発信を続けることだと思います。

教職員のメンタルケアも
――教職員の安全や健康も守らなければいけませんね。

教職員に関しては、次のように考えています。

【休校中】
▽在宅勤務やリモートワークなどで、移動によるリスクを軽減
▽本人や家族に発熱があった場合は管理職に報告するなど、体調管理の徹底
【再開後】
▽アルコール消毒、マスク着用の励行
▽検温など健康管理の徹底
▽「3密」排除(職員室の住環境整備、会議の工夫)

 

当校では江東区教委の方針を受け、管理職を除く全教職員は在宅勤務で対応しています。(4月20日時点)。ただ在宅勤務やテレワークについては、システム構築ができていない自治体がまだまだあります。そのため自治体によって、教職員の勤務についての見解が異なっていることは課題に感じています。

さらに教職員のメンタル面についても、配慮していかなければなりません。教師のモチベーションは、何より児童生徒です。在宅勤務では児童生徒と連絡が取れませんし、学校に来てももちろん会えません。そんな中で、自身が思っている以上にストレスを抱えている教職員がいるのでは――と危惧しています。

特に今年度から教職員になった初任の先生は、戸惑っていることと思います。当校も今年4人の初任者を迎えましたが、在宅勤務を中心に、学年主任が遠隔で指導している状況が続いています。

学校に出勤できたのもほんの数日ですし、児童たちとも会えていない中で、「教師」としての意義や、やりがいを感じることは困難かもしれません。教師としての成長が遅れるかもしれないと、焦りも感じているでしょう。その中でも子供たちの顔を思い浮かべ、先輩たちのアドバイスに耳を傾けながら、来る日に備えてもらいたいです。

「自己調整力」の育成不足を痛感
――このコロナ危機から学んだこと、課題に感じたことはなんでしょうか。

3つあります。

真っ先に挙がるのは、自学学習の力の育成が十分ではなかったことです。諸外国の動向を見ていると、子供自らが課題を見つけて追究する学習に慣れており、ICT環境さえ整えば家庭学習がスムーズに進んでいる様子が伺えます。

一方、日本ではICT整備の遅れはもちろんですが、児童生徒の「自己調整力」を育むことが不足していました。そのため休校中の家庭学習について、教員が教材の準備や詳細な学習指示をすることが必要となりました。本来であればこれまでの学校教育を通して、児童生徒は自発的に学ぶ姿勢を身に付けていて、それを存分に発揮するタイミングだったのでしょう。

次に、学校は子供の居場所としても需要があることを再認識しました。休校が始まり、特に小学校低学年の居場所については、さまざまな課題が浮き彫りとなりました。もちろん学校は教育機関であり、学童保育とは一線を画しますが、このような非常時には連携する必要性があると感じました。

最後は、保護者の連絡方法の多様化です。いくらスマホやネットが普及したとはいえ、所持していない家庭があります。今回のようなライフラインに関わる連絡は特に、漏れがあってはいけません。当校ではホームページやメールで発信しつつ、希望者には郵送したり、学校前の掲示板に貼り出したりなど、複数の手法を使ってカバーしました。

家庭学習でも使える端末を
――これを機に、学校はどう変わっていくべきでしょうか。

学校教育を巡るICT環境の整備が急務だと、改めて思い知らされました。学校下の環境整備はもちろんですが、児童生徒が端末を家庭に持ち帰って自宅学習に使えるようにするなど、学習ニーズに合った実用的な運用方法を考えなければなりません。

それに伴い、これまでゲームやSNSをするための道具であったタブレット端末を、学習するための道具として活用方法や向き合い方について児童生徒に指導していく必要があります。

これらの環境が整うと、こういった非常時だけではなく、反転授業や個別課題の配信、不登校や長期入院の児童への対応も可能となります。

そして何より、新しい学習指導要領でも示されている「自己調整力」を育むことが急務です。皮肉なことですが今回の事態をきっかけに、児童生徒自身が自ら学ぶ姿勢が、いかに大切かを実感した教職員は多いでしょう。休校中ももちろんですが、再開後の通常授業でも、この気付きを心に留めながら、これまで以上に授業づくりや学級運営を工夫しなければなりません。

児童生徒がいるからこその教師
――いま学校現場に伝えたいことは何ですか。

学校とはいったい何だろう。休校期間が始まり児童がいなくなったひっそりとした学校で、私自身が何度もそう自問自答しました。皆さんも同じではないでしょうか。児童生徒のいない学校は本当に寂しく、もはや学校ではないようにすら感じます。

教育新聞の取材に答える喜名校長(今年3月撮影)

この混沌(こんとん)とした状況の中で私が改めて思い知ったのは、児童生徒がいるからこその学校であり、児童生徒がいるからこその教師だったということです。

昨今のICT環境を駆使すれば、学校外でも学習を受けられます。しかし私たちが子供たちと一緒に作り上げてきた学校は、それだけの場所ではありません。子供たち一人一人、教師一人一人の心のよりどころであったはずです。授業中や休み時間、放課後、ありとあらゆる場面で児童生徒たちは非認知能力を育み、大きく成長してきました。そして私たち教師にとってもその成長は、気付きとなってきました。

学校は「子供たちのための場所」として、ここにあり続けなければなりません。

教職員自身も、先の見えない不安に駆られることがあるでしょう。その時はどうか次に児童たちに会ったとき、どんな言葉をかけようかと思いを巡らせてみてください。この休校中に考えたこと、つらかったこと、発見したことを打ち明け合うことで、素晴らしい学級が築けるのではないでしょうか。

何より最優先すべきなのは、児童生徒と私たち教職員の健康と命です。その上であらゆる手段を駆使して、児童生徒とのつながりを絶たないようにしてほしいと願っています。

(板井海奈)


関連
この特集の一覧

あなたへのお薦め

 
特集