【探究と方法3】AI時代に必要な3つのA(リクルート・ワークス研究所所長 奥本 英宏)

新学習指導要領が「主体的・対話的で深い学び」を重視する背景のひとつには、人工知能(AI)やロボットの台頭がある。いまの子供たちが社会の中核を担う頃、その多くが現在は存在しない職業に就いている可能性が高い。そうした予測不可能な未来に対応できる資質・能力を子供たちに身に付けさせるために、学校教育は何ができるのか。連載第3回は、リクルート・ワークス研究所所長の奥本英宏氏が担当する。

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イメージをマネージする

AI時代を迎え、社会人の学びへの関心が高まっている。野村総合研究所のレポートによれば、日本人が従事している仕事の49%は人工知能やロボットに代替される可能性がある。10~20年後には、AIを開発する人、AIを使って価値創造をする人、さらには、AIの苦手な共感性の高いコミュニケーションを担う人が求められていく。そうした急激な変化に対応していくために、企業は創造的な思考力や人の感情に共感できるソーシャル・インテリジェンスの教育に力を入れようとしている。

これらの思考力や知性の開発というものを改めて考えたとき、そこには共通してイマジネーションの力が必要とされることに気付く。これからの時代、イマジネーションの開発は、人ならではの価値を生み出すために欠かすことができないテーマとなる。

イギリスのSF作家J・G・バラードが「人類に残された最後の資源は想像力だ」と語ったとおり、人間の豊かなイマジネーションは創造の源だ。人は、頭の中に湧き出るイメージを、体系的にマネージすることであらゆるものを創造してきた。

例えば、草がはえ出るイメージを言語としてマネージすることで「生」という漢字ができた。スティーブ・ジョブズが描く世界観をマネージすることで、Apple社は世界の人々を魅了する商品を生み出してきた。日常の少女のままごと遊びにも、イメージとマネージが働いている。

このように、日常生活でも企業活動でも、何かが創造されるときには、イメージとマネージは常に一緒に動いているのだ。

AI時代に求められるエクササイズ

しかし残念なことに、企業では仕事の多くの場面でマネージが先行し、イメージは抑圧されてしまう。これでは創造的な思考は働かない。そんな仕事でのイマジネーションの欠如に危機感を覚え、7年前にイシス編集学校で学び始めた。当時は事業会社(リクルート・マネージメント・ソリューションズ)の社長を務めていて、日々、収益や成果指標のマネジメントに追われていた。そんな中で手にした松岡正剛さんの著書『知の編集術』(講談社現代新書)にあったサブタイトル「発想・思考を生み出す技法」という言葉に引かれたのだ。

イシス編集学校の編集稽古は、これまでのビジネスの学びとは随分と違っていた。例えば、情報を分類する際に、企業では「漏れなく、ダブりなく」明快な分類軸を設けて(MECE)、完全な全体集合を考えていこうとする。ところが、編集学校では、まず情報に付随するイメージをこれでもかと広げ、「〇〇らしさ」というソフトな分類を発案して新たなカテゴリーを創造する。

そこには、漏れもあり、かぶりもあるが、それで良しとされる。その他にも、「やわらかさ」と「ダイヤモンド」といった異質なイメージを組み合わせて、新しいコンセプトと言葉をつくる。さらには、おにぎりについて、コンビニ、遠足、農家、日本と背景を変えて語ることで、情報の様相を大きく変化させるエクササイズなどが次々と登場する。エクササイズへの取り組みには、社会人が日常的におろそかにしているイメージの拡張が強く求められる。

このようなイマジネーションを広げる力は、ともすれば個人のセンスやアーティスティックな才といった、習得することが難しい不確かな力と考えられがちである。しかし、イシス編集学校では、アナロジー(類推)、アブダクション(仮説的推論)、アフォーダンス(意味の誘発)という3つの思考法を「3A」として、実践的に学ぶことができる。

実際これらの「3A」は、社会人が一般的に企業で学ぶ能力と組み合わせることで、創造的な思考を展開することが可能だ。例えば、ロジカル・シンキングが陥りがちな同質化を、アナロジカル・シンキングで差別化する。演繹(えんえき)法(ディダクション)と帰納法(インダクション)にアブダクションを組み合わせて発想を飛躍させる。そして、物事を要素還元的に分解する前のアフォーダンスにより、意味や価値をやわらかくとらえて発想を膨らます、などの展開である。

こうした3Aを始めとする、イメージとマネージをめぐる思考法はAI時代に必須の学習テーマとなるだろう。

学校教育に15の学習法則を

そして、これら思考方法の開発には、マネジメント的な感性に強く縛られてしまう前の、学校教育での学びがより重要になる。イシス編集学校には、師範代と言われる先生を養成する講座がある。そこでは千夜千冊1540夜 キエラン・イーガン『想像力を触発する教育』にある「15の認知的道具」が紹介されている。「やわらかい比喩をいろいろ使ってみる」「できるかぎりの物語を重視する」「普段のごっこ遊びはとことん究める」といった具合だ。

編集学校の師範代は、これらの認知道具を応用しながらエクササイズを通じて生徒のイマジネーションを引き出していく。本来、子供たちこそがイマジネーションを広げる達人だ。そうした子供たちの思考力を高める学校教育の中にも、企業教育に生かせる多くの方法があると考えている。今、学校、企業を問わずさまざまな機関において、AI時代を見据えたイマジネーションをめぐる実践的な教育手法の開発が期待されている。

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【千夜千冊】
WEB上で連載が続いている松岡正剛氏によるブック・ナビゲーションサイト。科学、哲学、民俗、文学、経済、社会学など古今東西の書物を紹介している。2000年の第一夜、中谷宇吉郎『雪』から始まり、1700夜を超えて現在も継続中。松岡氏自身による再編集で、角川ソフィア文庫から『千夜千冊エディション』がシリーズで出版されている。
【イメージとマネージ】
「マネジメントがあるのであれば、イメージをマネージする「イメージメント」があっていい」。元日本代表ラグビー監督の平尾誠二氏と松岡正剛氏による『イメージとマネージ』(集英社)では、ラグビーを題材に組織論、情報戦略論の「イメージメント」が語られている。
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【奥本英宏氏プロフィール】

奥本英宏(おくもと・ひでひろ) リクルート・ワークス研究所所長。元リクルート・マネジメント・ソリューションズ(以後RMS)社長。松岡正剛氏が塾長を務める企業塾「ハイパー・コーポレート・ユニバーシティ[AIDA]」で塾生として学んだのち、2013年にイシス編集学校入門。現在、師範代を育成する[ISIS花伝所]の師範を務める。企業研修の業界最大手RMSの社長時、「情報編集力養成研修」を研修サービスとして取り入れ、多くの企業に人材開発から組織開発の観点から導入している。

【イシス編集学校】
校長は松岡正剛氏。文中にある「3A」は、情報の「らしさ」を掴むアフォーダンス(Affordance)、連想から可能性を広げるアナロジー(Analogy)、仮説から最適解を見出すアブダクション(Abduction)の三つの頭文字のAから来ている。イシス編集学校の基本コース[守]では、「3A」を技法として身につけるための編集稽古が38用意されている。
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