【コロナ危機 6つの質問】丸山洋司・文部科学省初等中等教育局長

新型コロナウイルスの脅威に、学校はどう対処し、どう変わっていくべきか。教育新聞では教育界のキーパーソンやイノベーターらに6つの質問(▽学びの保障をどうするか▽新型コロナから児童生徒をどう守るか▽教員の安全はどう担保するか▽このコロナ危機の教訓、反省点▽学校はどう変わるべきか▽いま学校現場に伝えたいこと)を投げ掛けた。

第5回は、前例のない非常事態の渦中で、文部科学省初等中等教育局を率いる丸山洋司局長。4月21日には学校のICT活用について「自治体や学校の平時におけるルールにとらわれることはない」と思い切ったガイドラインを示し、5月1日には緊急事態宣言の対象区域であっても分散登校によって段階的な学校再開を目指すよう全国に通知するなど、若手中堅の局員とともに多忙を極める日々を送っている。

(聞き手・教育新聞編集委員 佐野領)

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学校のICT環境整備 2年間で5000億円を計上
――緊急事態宣言が続く中、学校再開の見通しが立ちません。どうやって生徒の学びを保障しますか。

子供たちの学習に著しい遅れが出ることがないように、それぞれの自治体、学校設置者にしっかり取り組んでいただくことが、まず重要です。そのためのガイドラインとして、各教育委員会と学校設置者には、「休業期間中に学校が家庭学習を適切に課すこと」「電話や電子メールなどを通じた学習指導や学習の状況の把握に努めること」をお願いしています。

学校再開後には、補充のための授業や補習について、可能な限りの措置を講じていただかなければなりません。学習内容の定着が不十分であるという子供たちに対しては、個別に措置を講じていくことも依頼しています。

各自治体が検討しやすいように取り組み事例をホームページで提供しているほか、自宅で使えるような教材や動画を「子供の学び応援サイト」でまとめて提供し、内容を充実させてきています。

なんといっても、4月30日に国会で成立した令和2年度補正では、GIGAスクール構想の推進に向けて新たに2292億円の予算を計上しました。令和元年度補正と合わせると、約5000億円の経費を令和になってから2年間で学校のICT環境整備に措置しています。

学校現場のマンパワーについては、萩生田光一文科大臣の提案もあって、退職した先生方にも活躍していただきたく、「学校・子供応援サポーター人材バンク」を開設しました。退職した教員に、家から通えるところで手伝っていただけるよう、手を挙げていただく仕組みです。

こういった施策を通して、各自治体とも緊密に連携をとりながら、休校期間中の学びの保障を支援していきたいと考えています。

子供を守るポイント 「感染源を断つ」「感染経路を断つ」「抵抗力を高める」
――休校中、学校再開後を通じて、新型コロナウイルスから生徒をどう守っていきますか。

子供たちの健康と命を守るために、学校における感染症対策として3点があります。「感染源を断つこと」「感染経路を断つこと」「抵抗力を高めること」が重要です。

感染源を断つことについては、家庭と連携して毎朝検温していただき、風邪症状の確認を保護者の方にやっていただきたい。

感染経路を断つことについては、手洗い、咳(せき)エチケットの徹底です。消毒液などを使って学校内の環境衛生を良好に保っていくことも必要です。

抵抗力を高めることについては、十分な睡眠、適度な運動、バランスのとれた食事を心掛けるよう指導してほしい。

いずれも学校再開のガイドラインでお願いしている内容です。

政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議からは、「密閉」「密集」「密接」の3密という状況を避けることが重要だとの指摘をいただいています。ガイドラインの中でも「換気の徹底」「近距離での会話を避ける」「飛沫(ひまつ)防止のためのマスクの使用」について、通知などで周知を図ってきました。

――教員の安全については、どう確保していきますか。

感染防止については、児童生徒と同じで、換気の徹底、接触防止、飛沫感染の防止を周知するよう図っています。

これに合わせて、教職員の勤務については、在宅勤務や時差出勤などを適切に推進してほしい。

意外とできていないなと思うのは、勤務形態の工夫です。ローテーションで出勤するといったことも大事だと思います。

先日、ある学校を視察したのですが、校長と副校長だけが出勤していました。管理職が学校を守るので、一般の先生方は自宅から子供たちの指導を進めてくれ、ということだと思うのですが、これは大きな間違いです。

危機管理を考えれば、リスクは分散しなければいけない。そういうことができていない学校が散見されます。この点は、Q&Aに織り込んで周知を図っています。

また、教職員本人が罹患(りかん)したり、発熱・風邪症状があったりする場合は、勤務してはいけない。休暇を取得してもらう必要があります。濃厚接触者である場合や、出勤により感染症がまん延する恐れがある場合には、在宅勤務などで学校に出勤させないようにしなければなりません。これらは当然のことで、ガイドラインでも整理しています。

3密の回避を前提とした学校運営が必要になる
――このコロナ危機から学んだ教訓は何でしょうか。

収束が見えない中で、今回の危機を振り返る余裕はまだありません。ただ、さまざまなところから、学校のICT環境整備をもっと早く進めておくべきだったという声はいただいています。

学校のICT環境整備は、実は20年ぐらい前からずっと地方財政措置を通じて自治体に取り組みをお願いしてきました。現状では、自治体間で非常に大きな格差が生じています。今回のような事案や危機管理を考えても、これからの学校教育では、ICTを活用して在宅での学びの継続を可能にする環境整備が求められると思います。

教員が学校にいなくても、自宅から遠隔でコントロールしながら、教育活動や在宅学習が実施できるような態勢を考えていく必要もあるでしょう。

ですから、1人1台端末の整備をできるだけ加速する必要があります。それから、オンライン学習に必要な通信環境の整備も。Wi-Fi環境がある家庭には端末を学校から持ち帰ってもらうのもいい。でも、Wi-Fi環境がない家庭が日本全国に2割くらいあります。そういう家庭にはルーターの貸し出しが可能になるような予算を、令和2年度補正予算に計上しています。

――今後、学校はどう変わっていくべきでしょうか。

新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、これまで特例的にいろいろな通知などを出してきました。しかし当分、収束の見通しが立たないとなると、教育活動をどう実施するのか、感染の長期化を踏まえて考え直さなければならなくなってきました。

「3密の回避を前提としながらの学校運営が一つの柱になる」と語る丸山洋司局長

これからは3密を前提としながらの学校運営が一つの柱になると思います。

いまの普通学級の教室は、文科省の規則で、南向き、北廊下で約70㎡と決まっています。厚生労働省が3密を避けるために示している「他人との距離を2メートル以上確保する」という目安を守ろうとすると、うまく入れても15人くらいが最大の収容人数になります。

一方、国が決めている学級編成基準は40人。どうしてもクラスをグルーピングする必要が出てくる。いま小学校1クラスの平均人数は、40人学級に対して、実員で28人くらい。この28人を2つのグループにするしかない。30人から35人くらいのクラスでは、3グループに再編することになる。

そういう前提で、いまは空き教室がかなりあるから、それをうまく活用する。教員のマンパワーも整備しなければならない。そういう指導上の工夫が必要になってきます。

これに合わせて、3密の回避を前提にすると、集団にならない、接触しないことが条件になるので、教育内容もそういう観点で考え直していく必要が出てくる。

学校運営の中で、3密になりがちな授業は、実際問題としてできない。だから、年間の授業時数の中で、そういった授業をどう考えていくかも課題になる。学校が段階的に再開できたときでも、新型コロナウイルスが完全に収束するわけではないから、3密の回避を前提とした学校運営を考えていかなければなりません。

「ICTは大事。でも、基本は教員の対面指導」
――今、学校現場に伝えたいことは何ですか。

3密の回避やソーシャルディスタンスを意識した学校運営の中では、学校の授業と在宅での家庭学習が融合したような、そういう教育活動をしっかり考えていく必要があると思います。

いま家庭学習用の教材についても、自治体と相談しています。文科省としても、活用例を示していきたい。基本は教科書です。市販の教材にも、教科書に準拠したようなワークブックやプリントがあります。学習評価まで考えると、そういった教材を活用していくのが現実的かもしれません。

小学生には、私は放送が有効だと思います。NHKのEテレでは、各教科に関連した番組を特別編成で流しています。ネットを使うのは中学生以上で特に有効なのではないでしょうか。

――教員の役割はどうなりますか。ICTは便利ですが、万能ではありません。

やっぱり教員の対面指導が基本です。ICTの整備はもちろん大事ですが、在宅学習が進んでいく中で、ICTばかりが焦点化されるとちょっと変なことになる。子供たちはやっぱり学校に行きたい。学校で子供たち同士が関わり合い、そこから学んでいくものがたくさんあるわけです。

いまは安心・安全の観点で臨時休校が長引いていますが、一方では、学習機会の保障とか、心のケアという部分とのぶつかり合いがあって、先生方はすごく苦労されていると思います。

そうした学校現場の取り組みにはすごく敬意を表するし、感謝しています。危機を乗り越えていく中で、私たち文科省はしっかり意見を聞きたいと思っています。人的、物的な整備も含めて相談に乗りやすい態勢作りを意識していますので、「何でも言ってください」とお伝えしたい。

学校現場が困っていることに対して、答えは決して一つではないはずです。参考になることは私たち文科省も発信できると思います。


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