【コロナ危機 6つの質問】藤川大祐千葉大学教授

新型コロナウイルスの脅威に、学校はどう対処し、どう変わっていくべきか。教育新聞では教育界のキーパーソンやイノベーターらに6つの質問(▽学びの保障をどうするか▽新型コロナから児童生徒をどう守るか▽教員の安全はどう担保するか▽このコロナ危機の教訓、反省点▽学校はどう変わるべきか▽いま学校現場に伝えたいこと)を投げ掛けた。

第6回は、千葉大学教育学部の藤川大祐教授。いま教員がすべきことについて、藤川教授は「前例にとらわれず、子供たちにとって何が必要なのかを自分自身で考え、同僚の先生方と議論して、局面ごとに判断してほしい」と語った。

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子供たちが学校に所属意識を持てる工夫を
――休校が長期化しています。こうした中、どのように子供たちの学びを保障するべきでしょう。

本来であれば、新年度である4月は新しい学年や学級で、新たな担任や友達と過ごしていたはずで、子供たちは学校や学級に所属することで、家庭とは異なる居場所が作られていました。しかし、休校期間中は、子供たちの居場所が家庭の中だけになってしまいます。

学校が長期休校だからといって、子供たちを放置するようなことはあってはならず、たとえ仮想的であったとしても、子供たちに学級や学年に所属している意識を持ってもらう工夫を試行錯誤しなければなりません。

学級通信の紙面の上なのか、あるいはWEB上でのチャットやオンライン会議なのかはともかくとして、「学級」というコミュニティーを意識しながら、コミュニケーションをとることが大切です。その中で、教員が子供たち一人一人を気に掛けていることを自覚し、学級や学校との繋がりを認識できるような仕掛けが必要です。

コロナ危機のもとでのコミュニケーションに、ICTが有効なのは間違いありません。現状では、各家庭における情報端末の普及やインターネット環境に格差がありますが、全員が使えないからといって導入を諦めるのではなく、そうした環境下でも可能なことを模索すべきです。

各家庭のICT利用環境について事前に調査し把握した上で、活用できる生徒には積極的にICTを使ってもらい、難しい生徒には学習課題を郵送するなど、他の手段で補うといった個別対応が必要かもしれません。可能ならば、タブレット端末やモバイルWi-Fiルーターなどを貸与する施策も急ぐ必要があります。

今は子供たちの健康を最優先に
――子供たちを新型コロナから守るためには、何が求められますか。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、教育現場にとって日々難しい判断を迫られ、臨時休校もさらなる長期化を覚悟しないといけない状況です。そうした中、子供たちの学習機会の保障と同時に、健康をどう守っていくのかということですが、今は子供の安全と健康が最優先です。

子供たちの健康を守るのは家庭の役割という意見もありますが、子供たちを預かる学校も児童生徒が心身ともに安全で健康であるための多大な責任を担っています。

学習が遅れたとしても、後々取り戻すことはできますが、万が一、子供の心身の健康が損なわれれば取り返しがつきません。さらに、家族や地域に感染を拡大してしまうような行動を子供にさせないためにも、休校延長は必要なことです。

――教職員の安全については、どのように対応されていますか。

私が学校長を務める千葉大学教育学部附属中学校では、感染拡大防止と安全確保の観点から、教職員も現在、原則として在宅勤務となっています。日常的なコミュニケーションはメールやZoomなどを通じて行っています。

急速に変化する社会で教育ができること
――このコロナ危機から、教訓として学べる事とはなんでしょうか。

考察するには時期尚早かと思いますが、今回のコロナ危機は、人間同士が距離を取りながら生活をしなければならない状況を生み出しました。学校が再開されたとしても、当面は、以前のように近しい距離での交流は難しくなるでしょう。その一方で、インターネット社会は人と人が距離を越えてコミュニケーションをとることを可能にしたわけです。情報化の進展と感染症拡大が合わさったことで、社会は急速に変革せざるを得なくなっています。

これまでの学校教育の中では、顔を合わせてお互いの気持ちを思いやる、いわゆる「空気を読む」ことが暗黙のうちに求められてきました。生徒の中には、対面で空気を読むようなコミュニケーションを苦手とする子もいて、そうした子供にとって学校は不利な場所でした。他方、ネット社会は対面コミュニケーションが不得意な人でも、自分のキャラクターを自由に作ってコミュニケーションがとりやすいという面があります。

どちらも一長一短がありますが、これまで対面教育ばかりに振れ過ぎていた学校教育の中で、インターネットはそれを苦手とするような子供たちにも可能性を与えたという側面があります。

コロナ危機の中で急速に導入が進むオンライン授業では、遠くに住む人同士をつないで協働作業をしたり、対面でなくても意思の疎通を図ったりすることが可能になるなど、これまでの学校教育であまり取り組まれてこなかったことに、価値を生み出しています。

経済社会でも2、3時間もかけての遠距離通勤で、時間的にも体力的にもロスが生まれていましたが、在宅勤務によってそうしたロスは軽減され、ワークライフバランスも実践しやすくなりました。遠隔でできることは遠隔で行うことで、その人がやれることが増えていき、有利になるように思います。

現在を「学校の危機」とだけ捉えるのではなく、この状況下で何を学び、教育に生かせるかを改めて考えるべきだと思います。

――学校はどのように変わるべきでしょうか。

これまでの学校では、教室内の微妙な空気をコントロールしながら、授業についてこられない子や困り事を抱える子を敏感に察知し、援助するという名人芸的な教育技術が求められてきました。しかし、コロナ危機の下では、そうした名人芸が活躍する場は限られてしまいます。

例えば、義務教育課程で扱う学習内容は、ICTを活用して統一的で分かりやすい教材を普及させる方が、習熟させるという点においては効率的です。

数学では「キュビナ(Qubena)」というAI学習システムがありますが、このシステムは生徒一人一人の習熟度に合わせてAIが最適な問題を出題し、個別に最適化された学習を提示してくれます。これはAIが得意とする分野であり、対面授業が困難な中でも一定の知識・理解はできてしまいます。そうしたアプリケーションを柔軟に活用することも、今後は大切になるでしょう。

これまでは、学級という限定的な単位での振る舞いが重要視されてきましたが、インターネットを介して多様な人々とコミュニケーションをとることによって、豊かな人間性が育まれることもあると思います。

かつては、教室外の人々と交流するのは簡単ではありませんでしたが、遠隔でのコミュニケーションが当たり前になれば距離は関係なくなり、例えば、学校の枠を超えて同じテーマで議論したり、協働学習をしたりすることも可能となります。グローバル化は一層進み、今後は多様な背景を持つ人々とのコミュニケーションが日常的に求められるようになります。情操性とは、多様な人々と関わる中で相手を思いやることで、育まれていくものではないでしょうか。

前例にとらわれずにボトムアップで変革を
――今、学校現場に伝えたいことはなんですか。

学校現場は、どちらかといえば前例を重視しがちな、あまり無茶をしたがらない組織でした。しかし、今は保守的なだけでは何も進みません。学校の先生方も、前例にはとらわれずに子供たちにとって何が必要なのかを自分自身で考え、同僚の先生方と議論して、局面ごとに判断するということをしていただきたいと思います。

「現場の教員一人一人が、ボトムアップで問題を解決してほしい」と話す藤川大祐教授
(ビデオ会議システムで取材)

現在は、トップダウンで動かしていくには、あまりに難しい状況です。最終的な判断は管理職が責任を持つとしても、ボトムアップで一人一人の先生方が、自分自身が見えているものを共有し合い、コロナ危機をどう乗り越えるかのイメージを、学校全体で作っていかねばならないと思います。

私自身も自宅待機中の教職員とメールなどでやり取りする中で、学校長としてのメッセージを発信して各教員から意見が出てくるように努めています。管理職と学級担任では見えていることも違いますし、教務担当や生徒会、PTA担当も異なる難しさを抱えています。そこに関わる生徒や保護者にとって何が最善かは、それに直面している教員にしか分からないことがあるわけです。

現場の教員がしっかりと自分の置かれている状況を見て、それらを個人のものに留めるのではなく、組織の中で共有し、ボトムアップで問題解決するように動いてほしいと思います。そして管理職も、学校外からの情報収集や発信だけでなく、学校の内側の情報収集に敏感であってほしいと思います。

(及川洋子)


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