【言語技術】読解は、最初から教えていない

日本の子供たちの読解力低下が、大きな課題としてクローズアップされている。しかし、つくば言語技術教育研究所所長の三森ゆりか氏は「読解力が落ちたわけではない。なぜなら、日本では最初から読解を教えていないから」と指摘する。欧米諸国の子供たちは、学校教育の中でどのように読解を学んでいるのか。インタビュー最終回では、三森氏の経験や実践から、グローバル社会に必要な言語力について考える。(全3回)

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クリティカル・リーディングを教えていない
――昨年公表されたOECDの生徒の学習到達度調査(PISA2018)では、日本の生徒の読解力低下が大きく報じられました。

欧米諸国の子供たちも、読解力の低下が随分前から指摘されています。それがパソコンやスマホのせいではないか、SNSの影響ではないかと、日本と同様に言われているんです。

でも、日本の子供と欧米諸国の子供では、まず読む量が圧倒的に違います。例えば、独の小学5年生の独語の教科書を日本の同学年の国語の教科書と比較すると、独の教科書はおそらく4倍ほどの厚さになります。その上、文字の小ささにも驚かされます。

独の学校も、年間の授業時間数は日本と変わりません。にもかかわらず、教科書の他に年間3~5冊程度は小説などの本も扱うことになっています。具体的に、シェイクスピアの名作などを、丸ごと一冊通して学ぶのです。日本の教科書のように、物語の一部分だけを学ぶなんてことはありません。

これだけの量を読むので、当然、家でも読んでくることになります。読ませっ放しではなく、学校の授業では本の内容について議論しながら、さまざまな観点について互いに考えを交換し合い、クリティカル・リーディングをしていきます。

欧米諸国では、これだけ読んでいても「読解力が落ちている」と言っているのです。だから、日本は何もしていないのに「読解力が落ちている」と言っているのと同じだと、私は思います。

日本でPISAの読解力などが落ちたというのは、要するにクリティカル・リーディングを教えていないということです。さらに記述の方法論も教えていないので、どう書いていいか分からないし、どういう読みを要求されているのかが分からないからお手上げだったというだけの話で、「読解力が落ちている」という話ではないのです。

「味わって聞く」読み聞かせでいいのか
――読解はどのように教えていくべきなのでしょうか。

幼稚園や保育園で行う「読み聞かせ」から、読解を教えることは始まっています。

日本の読み聞かせの原則は、「味わって聞きなさい」というものです。だから、絵本を読んでいるさなかに疑問に思ったことや考えたことは、口に出してはいけません。実際に、幼稚園の先生たちに聞くと、大学や短大でそう教わってきたと言います。

しかし、クリティカル・リーディングをやっている欧米諸国の読み聞かせは全く違います。むしろ、「質問をしましょう」なんです。

子供は、耳や目から情報が入ってきたら、「これはこうじゃない?」などと疑問に思い、口に出します。その時に、日本では黙ってそのまま進めてしまいますが、欧米だと必ず先生が「どうしてそう思ったの?」「どこからそれが分かったの?」と聞きます。

読解力を育てるためには、この「どうして?」と聞くことがとても大事です。そこからクリティカル・リーディングは始まっているのです。

3歳の子が本当の意味で論理的に考えて発言するわけではないけれども、子供なりに考えていることがあります。それに対して先生が「どうして?」「どこからそう思うの?」と聞くことで、その子は分からないなりに説明しようとします。

これを繰り返していると、分からないことの中にだんだん実態が出てきます。そして、年齢が上がるとともに、クリティカル・シンキングができるようになってくるのです。

今、私は2つの幼稚園で指導していますが、こうした読み方を指導し、そのまま小学校の学びにもつなげています。

グローバル社会で使える言語力を
――小学校以降は、どのように発展させていくべきなのでしょうか。

小学校の低学年では、自分で読むこともさせますが、一方でたくさんの読み聞かせを行います。みんなで、絵本の一場面について分析して考えてもよいでしょう。絵本の中で一番盛り上がりそうな場面を最初に見せ、どんな絵本か推測させてから最初に戻って読んだりするのもいいと思います。

絵本は、クリティカル・シンキングやクリティカル・リーディングをする上で最良の教材ですから、ぜひ活用していただきたいですね。

高学年に上がっていくと、絵本からだんだん小説などに移行していくわけですが、絵本を分析した経験が小説を分析する際に役立ちます。

独やカナダの高校では、映画の分析も行っていました。いくつか映画化されている作品があれば、同じ場面を比較・分析し、原書とはどこが違うのかといったことや、その差異についてみんなで考えたりするのです。これは、フィルム・スタディと呼ばれています。

「社会で使える本当の言語力を学んでいくべき」と三森氏(ビデオ会議システムで取材)

こうした分析は、音楽や美術などでも行います。楽譜の分析も、絵の分析も、文章の分析も、全て方法論は同じ。「なぜそう表現したのか」を説明するために引用するのが、文章なのか、音符なのか、絵なのかというだけのことです。こうした営みが教養を深めることにつながっていくのです。

日本人は、ある程度の年齢まで音楽やバレエなど芸術系のコンクールで活躍します。しかし、その後は思うように活躍できない人が多いという話を、しばしば見聞きします。その先に進めないのは、クリティカル・リーディングの手法を共有できていないからだと、私は思っています。

――言語技術を身に付けることで、世界に通用するスキルが身に付くということですね。

今の子供たちは、私たちの世代よりもっとグローバルな社会へ出ていくことになります。だからこそ、私は欧米型の言語技術に全面的に移行するべきだと思っています。それは「日本語を無視しろ」という意味ではないんです。

国語で教える内容を世界基準にすれば、もっと日本人が世界で活躍できるはずです。学んだ内容の相違によって差がつくのは、本当に悔しいと思いませんか。社会に出てから使える、本当の言語力を学んでいくべきです。

(松井聡美)

【プロフィール】

三森ゆりか(さんもり・ゆりか) つくば言語技術教育研究所所長。東京都生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。中学2年生から4年間を旧西ドイツで過ごす。1984~88年にドイツ式作文教室を主宰。90年につくば研究学園都市に「つくば言語技術教育研究所」を開設。著書に『絵本で育てる情報分析力』(一声社)、『外国語を身につけるための日本語レッスン』(白水社)、『論理的に考える力を引き出す』(一声社)、『大学生・社会人のための言語技術トレーニング』(大修館書店)など多数。


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