【コロナ危機 6つの質問】平川理恵広島県教育長

新型コロナウイルスの脅威に、学校はどう対処し、どう変わっていくべきか。教育新聞では教育界のキーパーソンやイノベーターらに6つの質問(▽学びの保障をどうするか▽新型コロナから児童生徒をどう守るか▽教員の安全はどう担保するか▽このコロナ危機の教訓、反省点▽学校はどう変わるべきか▽今、学校現場に伝えたいこと)を投げ掛けた。

第7回は平川理恵・広島県教育長に「ポスト・コロナ時代」を見すえた学校や教員の在り方を聞いた。平川教育長は「個別最適化によって、子供中心の学びを実現していく必要がある」と語った。

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いつまで休校は続くのか、最悪を想定せよ
――休校が長期化し、再開が見通せない中で、学びの保障をどうすべきでしょうか。

想像以上の長期戦を覚悟する必要があると思っています。3月末に英国ロンドン在住のWHO関係者である感染症専門家から話を聞く機会がありました。その専門家は次のように指摘しました。「こうなると(全人口の)7割が感染しない限り、先は見えない。100年前のスペイン風邪でも、1波が収まったと思ったら、2波、3波が来た。歴史から学ばないといけない。通常、ワクチンができるまで5年は必要。急いでも最低18カ月はかかる」と。それを聞いて「少なくとも1年、最悪の場合は2~3年、学校を通常通り開けられないかもしれない」と覚悟しました。

短期的にみれば、コロナ危機における学校再開の問題の基本的な構造はシンプルです。突き詰めれば「『感染リスク』と『学びの機会の確保・子供たちの心身の健康』のどちらを優先するか」ということでしょう。学校の休校と再開は、常に両者の間で揺れ動いています。さらに、これに漠然とした不安や心配というものも関係してきます。「不安・心配」があるという人たちに「不安・心配」になるなと言っても、納得してもらうのは無理です。

感染リスクを絶対ゼロにすることを求めるのであれば、もちろん学校には行けません。その場合、「学びの機会の確保・子供たちの心身の健康」はどうなるのでしょうか。そこで注目されているのがICTの活用です。

課題は「3種の神器」の確保
――自治体や学校でオンライン授業の取り組みが増えていますが、その課題をどう捉えていますか。

リアルな教室が開けない今、頼りになるのがインターネットですが、この代替案を実現するには、「3種の神器」が必要です。それは「デバイス(端末)」「通信手段(Wi-Fi環境など)」「アカウント(Google Classroomなど)」です。クラウド上に設けられた仮想上の教室に、アカウントを持った児童生徒がそれぞれのデバイスから各自のアカウントで入室して学ぶのです。

その課題が3種の神器の確保です。本県では、クラウドサービスを利用できるよう、県内全ての児童生徒に必要なアカウントを無料で確保し、各市町村教委と連携して取り組みを進めています。また、デバイスと通信手段にはコストが必要ですが、広島県でも、このための補正予算の約8億8000万円が5月1日の県議会で可決されましたので、早速調達を進めていきます。

しかし、新型コロナウイルスの影響でPCやモバイルルーターなどが市場で枯渇しているのが現状です。場合によっては、児童生徒や保護者、教職員の私物の使用もお願いして、この非常時を乗り越えるしかありません。児童生徒の学習機会を確保するためには、今すぐにできることから着手するしかないと思っています。

「自主分散登校」も選択肢の一つ
――休校中や学校再開後を通じて、新型コロナウイルスから児童生徒をどう守りますか。

休校中の学びの確保策として、オンラインは有効なツールですが、やはり限界があります。休校期間が長期化した場合、ウイルスの感染状況に応じて自主分散登校も選択肢の一つになると考えています。休校中であっても自主的な登校を認めるのです。ただし、登校日ではないから出席にも欠席にもなりません。自主的に参加する補習のような位置付けです。

学校が通常の教育活動を行おうとする場合、学校はいわゆる「3密」を回避することが非常に難しい場所です。しかし、「感染リスク」を考慮しつつ自主分散登校を認め、週に何度か登校できる選択肢を検討する必要があります。オンラインでは補いきれないものを、やはり、リアルな学校で対応していく必要があると思っています。

学校が再開した場合、学校における感染防止対策としては「感染源を断つ」「感染経路を断つ」「集団感染のリスクに対応する」の3つがポイントになります。

感染源を断つためには、発熱などの風邪の症状が見られる児童生徒や教職員は自宅で休養させるように徹底することが必要です。児童生徒については、登校前に各家庭で県が用意した「健康観察カード」に体温や咳(せき)などの体調不良の有無を記録していただくことにしています。

平川教育長(広島県教委提供)

感染経路を断つためには、手洗いや咳(せき)エチケットを徹底することです。特に多くの児童生徒が直接手を触れるドアノブや手すり、スイッチなどは、丁寧に水拭き清掃をして、衛生状態を良好に保つことが大切です。

集団感染のリスクに対応するためには、1時間に1回程度の換気や「3密」の回避を徹底することが大事です。

いずれも基本的なことで一つ一つの対策はささやかなものですが、確実に、徹底的に、継続的に実践することが大切です。根気強く継続していくには大変な努力が要ります。

また、休校が長期にわたり、生活の変化などから、不安や悩みを抱える児童生徒が心理的に不安定になることも考えられます。家庭との連絡体制や教職員の支援体制整備に、しっかり取り組むことも重要です。

――教職員の安全をどう確保しますか。

学校における教職員の安全も「感染源を断つ」「感染経路を断つ」「集団感染のリスクに対応する」ことの徹底が大切だと考えています。加えて、現在、感染リスクを抑えるため、学校では分散勤務に取り組んでいます。そのためには、分散勤務でも仕事をしやすい環境が必要ですから、休校中に限り、情報セキュリティーに配慮した上で、在宅勤務において個人所有のPCを業務に利用することを特例的に認めています。

「適材適所で分散された個別最適な学び」へ
――今回の教訓、反省点は何でしょうか。

まだ、新型コロナウイルスへの対応を総括できる時期ではないですが、このことを契機に、やはりICTの重要性を再認識させられました。また一方で、子供たちや社会にとって、学校の果たしている役割、果たすべき役割について、みんなが真剣に考える機会になったと思います。行政においては、緊急時に必要な新しい発想や機動性を発揮するためには、改善すべきところがあると強く感じました。

ICTについては、本県は、コロナ対策のためではなく、そもそも今年度から県立高校の81校中35校で、保護者が費用負担して生徒のPCを購入するBYODによる1人1台環境の実現を決めていたことと、県教委の中に「学校教育情報化推進課」というICT関連の部署を立ち上げ、16人もの精鋭をそろえて学校のICT化に本格的に着手していたことで、「助走」はできていました。

その上で「緊急時に何ができるのか」が課題です。県教委のスタッフには「今は平常時ではない。さまざまな制約があるのは承知しているが、必要だが『できない』ではなく『できるとしたらどうすればよいのか』という順で考えてほしい。できない理由を見つけるよりも、それを乗り越える世界観の共有やできる方法を創出してほしい」と繰り返し発信しています。

――学校教育は今後どのように変わっていくべきでしょうか。

人間は社会性のある生き物なので「オンラインだけでは何か満たされない」というのが実情でしょう。また、小学校、中学校、高校、特別支援学校と校種も異なれば,発達段階や成長過程も幅広く、オンラインで全ての学びが完結することはありえません。リアルな学校でないと難しいものも少なくないのです。

新型コロナウイルスによって突き付けられた問題は、これまでの生活スタイルや世界観を考え直す必要に迫られました。この状況をしのいでいく手だてだけを考えるのではなく、「ポスト・コロナ時代」を前提に、生き方や在り方そのものを考えるときが来たのかもしれないということです。

今、教育委員会も学校も、早急に取り組まねばならないことは、2020年度の事業計画の見直しと組織の変更です。計画していたものを「できること」「できないこと」「形を変えてやるべきこと」「新たな対応」と4つに分けて事業仕分けし、それに合わせて人員の配置をはじめ、リソースの再配分を行う必要があります。それは、当面の対応だけにとどまらず、将来を見据えたものでなければなりません。

学校であれば、例えば、今年度の行事の多くや部活動はできなくなるだろうと想定する。すると、教員はどうやって児童生徒と向き合うべきかを考えます。そうなれば、学びの機会の確保だけはおろそかにできないという結論はおのずと出てくると思います。

ICTによる授業が最適だと判断すれば、ICTスキルの向上を図る必要があります。50分の授業を5分の動画にまとめたり、英語のスピーチやダンス・レポートなどのパフォーマンス課題を出すときは、あらかじめルーブリック評価の基準を示しておいたりするなどの工夫をしなければなりません。児童生徒の学びと向き合い直す過程で、学びを導く「問いの立て方」や「ファシリテーション」の力が本当に問われてくるのではないでしょうか。

こういう問い直しを通じて、児童生徒の「学びたい!」「やりたい!」というモチベーションを発揮させる持続的な学習環境が構築されることを期待しています。オンライン上では、学校と児童生徒が「いつでも、どこでも」つながる一方、実社会でボランティアや職業体験をしたり、地域の文化サークルやスポーツクラブに参加したりできる。学校は学びをファシリテートする。

「個別最適な学び」は内容やその進度の最適化だけではなく、場所や手法においても個別最適化していくはずです。教育委員会はそうした子供中心の学校、子供中心の学習環境の構築を進めていく必要があり、また、責任があると考えています。

何を残し、何を捨てるか。そしてチャレンジを!
――今、学校現場に伝えたいことは何ですか。

まずは、長期化している休校中にあって、目の前にいるべき児童生徒が不在の中で、毎日、子供たちのことを気に掛け、学習機会の確保のためにさまざまな工夫をしてくださっている教職員には本当に感謝しています。

今回の休校で、やはり「教員とは何か、何者なのか」という本質が問われ、多くの教員もそのことに気付いているのではないでしょうか。「ICTを使った授業は不慣れで大変だけれども、どうやったらうまく伝わるか、分かりやすいか。そういったことを考えながら準備していると楽しい」といった声も聞こえてきます。

学校や教員の本質が問われている今、最も本質的なところを感じ取ることができている今だからこそ、学校のことを見直してみてほしいと思っています。学校には授業だけではなく行事や部活動などさまざまなものがあります。校務もたくさんあります。考えてほしいのは、何を残し、何を捨てるかということです。非常時だからこそ、限られたリソース(ヒト、モノ、カネ)の最適化がいつも以上に求められます。

「形骸化したものはないか」「大事だと思い込んでいるだけではないか」と、クリティカルに見ざるを得ないタイミングが今です。まさに「ピンチをチャンスに!」です。学びの場としての新しい学校像を思い描き、果敢にチャレンジしていただきたい。教育委員会も、そういったチャレンジを全力で支援していきたいと思っています。

(藤井孝良)

【プロフィール】

平川理恵(ひらかわ・りえ) 広島県教育長。1968年、京都府生まれ。91年に同志社大学を卒業後、リクルート入社。99年に留学仲介会社を起業。2010年に公募で女性初の公立中学校民間人校長として、横浜市立市ケ尾中学校に着任。15年に同市立中川西中学校長に着任。中教審教育課程企画特別部会委員として新学習指導要領の改訂に関わる。18年4月から現職。著書に『クリエイティブな校長になろう』(教育開発研究所)など。


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