【コロナ危機 6つの質問】遠藤洋路熊本市教育長

新型コロナウイルスの脅威に、学校はどう対処し、どう変わっていくべきか。教育新聞では教育界のキーパーソンやイノベーターらに6つの質問(▽学びの保障をどうするか▽9月入学についてどう考えるか▽新型コロナから児童生徒や教員をどう守るか▽このコロナ危機の教訓、反省点▽学校はどう変わるべきか▽いま学校現場に伝えたいこと)を投げ掛けた。

第8回は、公立小中学校で4月15日から双方向のオンライン授業を始めるなど、その取り組みに注目が集まっている熊本市の遠藤洋路教育長に質問。同市はなぜ、早期に双方向のオンライン授業を始められたのか。そして「毎日学校に来るのが当たり前」という常識が崩れたことで見えてきたという、新しい学校の姿について聞いた。

(聞き手・教育新聞編集部長 小木曽浩介、松井聡美)

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オンライン授業は双方向型のみ
――緊急事態宣言が延長され、熊本市でも学校の休校が続いています。児童生徒の学びを保障するために、どのような取り組みをされていますか。

熊本市では、双方向型のオンライン授業、テレビ授業、タブレット学習ソフト、プリントの課題など、さまざまな方法を組み合わせて活用することで、子供たちの学びを保障しようと取り組んでいます。

まず、4月15日から市内の公立小中学校のオンライン授業を開始しました。授業支援アプリ「ロイロノート」や、ビデオ会議ツール「Zoom」などを活用し、児童生徒の健康観察や課題の提出、添削など、学校と家庭の双方向のやり取りを行っています。

熊本市教育センターのHPには、ロイロノートを基本としたオンライン授業のスモールステップ例を示しています。

ステップ1「健康観察と連絡手段」
ロイロノートで文字(カード)によるやり取りができる。
ステップ2「健康観察とカードや写真の交換」
ロイロノートで文字(カード)だけでなく写真等によるやり取りができる。
ステップ3「学習課題の提出」
ロイロノート等を使って、教員からの課題の提示、子供から学習したものの提出ができる。
ステップ4「学習課題の提出と子供同士での学び合い」
ステップ3+提出されたものを元に子供同士の学び合い、教え合いができる。
ステップ5「ビデオ会議の活用・発表」
ステップ4+子供がZoomなどを使って学んだこと、まとめたことを発表することができる。

 

オンライン授業については、当初から双方向型のみと決めています。そして、「とにかく下手でもいいから始めてください」と伝えました。始めた頃は、「熊本市はオンライン授業をやると言っていたけど、動画でもないし、この程度か」などと言われることもありました。

しかし、まず始めることが重要で、やりながら少しずつできるようになっていくのです。教員はプロですから、実際に1カ月もやっていると、かなりいろいろなことができるようになります。今では進んでいる学校だと、オンライン上で子供たちが議論し、発表しているというところもあります。

オンライン授業の様子(熊本市教育センター提供)

熊本市はICTの導入に関して、「公立学校の中では、日本一制限の少ない環境を作る」ことを最初から宣言し、取り組んでいます。

児童生徒用のiPadも、最低限のフィルタリングはしていますが、それ以上の制限は設けていません。「どうやったら教育効果が最大になるか」が重要なのであり、せっかくiPadを購入しているのに、その機能が使えないのでは、逆に税金の無駄遣いです。

もちろん、小さなトラブルはありますが、トラブルを起こすのは100人いたら1人ぐらいのものです。1人のトラブルを恐れて、残りの99人にもやりたいことができないように制限するというのはおかしいと思いませんか。問題が起これば、その都度、個別に指導し、情報リテラシー教育をすればいいだけです。

また、4月20日からは、県内の民放4社と連携して、小学1年生から中学3年生の各学年に対応した学習支援特別テレビ番組「くまもっと まなびたいム」を放送しています。5月からは市内全中学校でオンライン授業ができる準備が整ったとのことで、中学生向けの放送は無くなりましたが、小学生のそれぞれの学年に合わせた学習内容を時間帯別に放送しています。

各校の教員が作成したプリント課題に加え、子供一人一人の習熟度に合わせた出題をしてくれるような機能もあるタブレット学習用ソフト「ミライシード」の「ドリルパーク」も活用しています。

学校以外の取り組みとしては、市立図書館では電子図書を増やし、5月2日からは学校の図書カードをそのまま使えるようにして、電子図書を借りられるようにしています。熊本博物館も、学芸員が子供向けの「くまはく おうちミュージアム」という動画を作って、ケーブルテレビやYouTubeで配信しています。

このように、「できることからやる」「できるだけのことはやる」という方針で進めています。

9月入学よりも1クラスの人数を減らすべき
――学校の休校長期化を背景に、9月入学への移行案が急浮上していますが、どう考えていますか。

いずれ9月入学にするのはいいとは思いますが、コロナ対策としてやる必要性は感じません。9月入学にすることで、例えば、8月まで学校側が何もしないとなると、勉強をやる子とやらない子、経済的に余裕がある家庭とそうでない家庭など、今よりもさらに格差が開いてしまうのではないかと懸念しています。

国がコロナ対策として大きな制度変更をするならば、9月入学よりも、1クラスの人数を減らすという方向性の方が、本質的なコロナ対策になると思います。

9月入学にしたとしても、1クラスに40人いたら、クラスターが発生する可能性も高まります。急にはできないことは重々承知の上ですが、こうした事態を避けるための環境整備を国がするべきだと思います。

――休校中、学校再開後を通じて、新型コロナウイルスから児童生徒や教員をどう守っていきますか。

児童生徒に関しては、自宅で過ごすということが基本的な対策です。教員に対しても在宅勤務を推進していて、出勤率は50%程度です。

子供たちの心のケアに関しては、LINEを使った悩み相談「ほっとらいん」を開設しています。また、市内の公立学校に通う全児童生徒へのメールアンケートを実施し、心の状況の把握と相談対応の充実を図っています。

学校再開後は、文科省からも通知があったように、一つの教室に入る人数を絞ったり、給食の品数を減らしたりするなど、まずは地道な努力や対策を行うことだと思っています。

今後の学校再開の判断などについても、できるだけ早めに判断し、家庭や学校が準備する時間が持てるようにしていきます。

――このコロナ危機から学んだ教訓は何でしょうか。

熊本市では2018年度からタブレットの導入を進めており、19年度には全小中学校で3人に1台の割合で導入していました。小学校では普段からロイロノートなどを活用していたので、児童も教員も慣れており、これまで積み重ねてきていたことが、今回のコロナ危機においても確実に役に立っています。

こうして「休校しても、ある程度は子供の学びを保障できる」というめどが立っていたため、休校延長の判断も早くできました。

ただ、やはりもっと早くタブレットを一人一台に整備できていたら、さらに円滑に対応できていただろうとは思います。それを実現するために、教育委員会としても動いています。

日頃から私が伝えているのは、「自分たちで将来の学校像を考えて、自分たちで行動できるように」ということです。

今回、オンライン授業も、テレビ授業も、各校の教員や指導主事が、自ら進んで取り組んでくれています。自分で考え、行動できるように、日頃から取り組んできていた意味は大いにあったと思います。普段からやるだけやっていれば、いざという時にも役に立つのです。

「不登校」の概念が変わる
――今後、学校はどう変わっていくべきでしょうか。

今回の休校が、学校に行く意味や、学校で授業をする意味を、改めて考える機会になっています。毎日子供たちが学校に来て、毎日授業をするのが当たり前だと思っていたけれども、今、そうではない学校の形がある。「学校に行くからこそできること」「わざわざ学校に来なくてもできること」なども、見えてきたのではないでしょうか。

また、熊本市では、オンライン授業に不登校の子供も参加していると報告がありました。普段は登校できなくても、オンライン授業には参加できるのならば、「不登校」という概念自体が変わってくるかもしれません。

今まで教員は、学校が数カ月ないということを、想像すらしなかったかもしれない。しかし、不登校の子供たちは、もともとそういう状況だったわけです。不登校の子供たちがどういう状況に置かれていたのかを、今、みんなが体験していると言えるでしょう。

「毎日学校に来るのが当たり前」という常識が崩れたことで、これまで学校に来られなかった子供たちに対して、私たちはどこまで何をできていたのかを問い直す必要があります。

この先、みんなが学校に行けるようになっても、それでも学校に行けない子供たちがいる。今回、オンラインで救える子供もいるということが分かったので、その子たちにこそ、オンラインで学習できるようにしていかなければいけない。それが「できるかもしれない」という感触を、熊本市としてはつかんでいます。

今後、一人一台、LTEの体制にしておけば、災害や学級閉鎖の際に「明日からオンラインにします」などと、柔軟に切り替えられるようになります。さらに、学校に来るのが難しい子供には、普段からオンライン授業を取り入れるなど、ハイブリッドな対応ができるようになる。

Withコロナ、アフターコロナの時代は、学校がそうした姿に変わっていかないと、対応できないのではないでしょうか。

――今、学校現場に伝えたいことは何ですか。

新学習指導要領が想定していた予測困難な時代を、今まさに私たちは体験しています。自ら考えて、自ら行動するという力が問われているのです。

「新しい学校の姿を作り出せる期間」と話す遠藤熊本市教育長

また、新しい学校の姿を作り出せる期間でもあると、私は捉えています。これまで頭で想像していただけの「これからの学校の在り方」を、急に現実味をもって考えなければいけない状況になったのです。

Withコロナ、アフターコロナの時代においても、リアルとオンラインの学校をどう組み合わせたら一番効果的なのかを考えるべきでしょう。毎日みんな同じ時間に学校に登校し、同じ授業を受けて、同じ時間に下校するのではなく、例えば個別最適化した学び方を実現するためのヒントがあるような気もするのです。

それこそが、新しい学校の姿なのかもしれません。これを機に、「これからの学校の在り方」に、前向きに取り組んでいきたいと思っています。

【プロフィール】

遠藤洋路(えんどう・ひろみち) 熊本市教育長。1974年生まれ。埼玉県出身。東京大学法学部卒業。ハーバード大行政大学院修了(修士)。文部科学省で生涯学習政策、学術交流政策、知的財産政策などを担当し、多数の新規立法・法律改正に携わる。2010年に退職し、友人と政策シンクタンク「青山社中株式会社」を起業。同社共同代表を経て、2017年度より熊本市教育長に就任。


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