【脳神経科学×教育】人の成長と学びに貢献したい

脳神経科学の知見を人の成長や教育分野に応用する「脳神経科学×教育」。この新しい分野の第一人者であり、教員研修などを手掛けるのがDAncing Einstein代表の青砥瑞人氏だ。米国のUCLAで神経科学を学んだ青砥氏が、その超ミクロの世界と、人間の成長や学びを組み合わせようと考えたきっかけは何だったのか。インタビューの2回目は、多岐にわたる活動の原点と5月から始める新たな教員研修について聞いた。(全3回)

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レールを外れて違う道を選んでもいい
――そもそも、青砥さんが脳神経科学の知見を教育に生かそうと思ったきっかけは、何だったのでしょうか。

米国のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部に在籍していた当時、アルツハイマー病の研究をしていました。そうした研究活動の中で、神経科学は医学や薬学だけでなく、人の学びや成長にも寄与できるのではないかと考えるようになっていきました。

UCLAを卒業後は医者になろうと思っていたので、学費をためるために日本に帰国し、コンサルティング会社で働いていました。当時、「高校を中退し、UCLAに入った」という僕のキャリアが珍しいこともあって、留学フェアなどで話す機会があり、そうした活動の中で大学生と出会うことが増え、相談を受けるようになったんです。

僕には、彼らがとても焦っていて、人生を楽しんでいるようには見えませんでした。聞けば、大手企業から内定が出ている子もたくさんいる。なのに、「将来は安泰かもしれないけれど……、瑞人さんみたいに自由になりたいです」などと言う。

日本の教育は、小・中・高・大学を経て就職するという既定路線があって、いったんそのレールから外れてしまうと、なかなかやり直しがききません。僕も高校を中退後、いろいろと厳しい現実にぶち当たってきたので、それはよく分かります。

でも、レールが一本しかないと考える必要は、ないんじゃないか。いろいろなオプション、生き方を知った上で、何を選択するかは自由。自分に正直になって、やりたいことがあるならば、レールを外れて違う道を選んでみてもいいのではないか。

大学生の相談に乗るうちに、人の成長に関わりたいとの思いを強くした(DAncing Einstein提供)

こうして半年ほどいろんな学生の相談に乗っていると、例えば内定を辞退したり、就職を延期したり、本当にやりたいことを突き詰めるために海外に飛び立つ子が何人も出てきました。何より、みんなすごく生き生きしてきたんです。

僕自身も彼らの成長を間近で見ていて、ワクワクしました。これが、人の成長や学びに貢献したいと思ったきっかけです。そして、自分が大好きな神経科学と、人の成長や学びを組み合わせるような仕事を生み出したいと思うようになりました。

そうしてコンサル会社を辞め、脳神経科学と教育をどうやったら結び付けられるかを知るために、日本のさまざまな研究者にアポを取り、僕の考えや思いを伝えたのですが、「そんなのは無理だ」と否定され続けました。

「脳神経科学×教育」の実践者との出会い
――なぜ、否定されてしまったのでしょうか。

「神経科学の超ミクロの世界と、人の成長や学びは懸け離れすぎている。それを組み合わせるなんて無理だ」と言われたんです。確かに、そうした指摘に納得する部分もありました。しかし、将来的には人の学びや成長に神経科学が関わっていくことになるはずだと確信していたので、他の国でこうした研究が進んでいないかを調べてみたんです。

すると、米国で教育と神経科学を結び付けた「Educational neuroscience」という新しい学術分野が立ち上がっていることを知りました。そこで再び渡米し、研究者にアポを取り、話を聞いて回りました。

そうして分かったことは、米国では学術分野が立ち上がってはいたものの研究論文止まりで、教育現場での実践や応用には至っていないという現実でした。

しかしその後、ジュディ・ウィルスという先生に出会うことができました。彼女はもともと神経系の内科医で「Educational neuroscience」の研究もやっていましたが、教員免許を取り直し、学校の先生になっていたのです。

「Educational neuroscienceの実践者との出会いが大きかった」(DAncing Einstein提供)

ジュディは「Educational neuroscience」を現場に応用している最初の人でした。彼女と対話した時に「瑞人は何をやりたいの?」と言われ、ハッとしたんです。

僕は神経科学の研究よりも、毎日出てくるいろんな論文を通じ、新しい発見を知ることの方が楽しかった。世に溢れる神経科学の新しい発見を知ることと、それを世の中に応用することに楽しみを見いだしていた。だから、ジュディのような方向に進んでいきたいんだと、はっきり気付いたのです。

彼女は「どんなに優秀な研究者でも、その知見を教育現場で活用できるわけではない。教育現場のことを知らない人は、何もできない」とも語っていました。ならば、まずは現場を知らなければと思い、日本に戻ってからは「お金も何もいらないんで、脳神経科学を応用したプロジェクトをやらせてほしい」といろんな教員に掛け合いました。

でも、最初は断られ続けました。そりゃそうですよね。僕は、UCLAは卒業していたけれども、その時は無職だし、社会的信用が全くない。だからまず、教員や学校に信用してもらうために株式会社を作ろうと、DAncing Einsteinを立ち上げました。

そこからは、少しずつ興味を持った教員から相談が来るようになり、僕が脳神経科学の観点からサポートしていく事例を地道に増やしていきました。そうしているうちに、企業の人材育成や、麹町中のように学校全体の取り組みをサポートするようなプロジェクトもやらせてもらえるようになっていったのです。

教員と一緒に考えた教員研修
――5月末から新たな教員研修を始めるそうですね。どのようなことをやりたい、伝えたいと思っていますか。

研修は全国の教員を対象に、5月末から来年の3月末まで計5回行う予定です。かえつ有明中学校・高等学校やドルトン東京学園の教員と一緒に企画したコラボレーションプログラムで、各回、神経科学の講義とワークショップ、ディスカッションを予定しています。

「教員の成長とウェルビーイングに関わっていきたい」と青砥氏は話す(ビデオ会議システムで取材、DAncing Einstein提供)

DAncing Einsteinのテーマは「成長」と「ウェルビーイング」です。成長は学びによって起こります。そもそも子供の成長のために身に付けさせたいと思っていることが、教員自身できているかというと、できていない人が多い。僕は、教員自身が学びを楽しんでいる状態を、子供たちに見せてあげることが大事だと思っています。

例えば探究学習が大事だと言いつつも、どれだけの教員が探究学習に対して真剣に向き合ってきているでしょうか。探究した経験がない人が、多くを語っているのではないかと僕は感じています。

研修を通してやりたいと思っていることは、大きく2つあります。1つは、教員一人一人が自分の学びをデザインして、楽しみながら探究するということ。もう1つは、教員自身のウェルビーイングです。

教員は皆、子供たちの幸せは願っていますが、自身の幸せはどうでしょうか。ちゃんと自分の幸せと向き合いながら、子供の幸せにも向き合っていく。こうしたことに一緒に取り組んでいきたいと思っています。

(松井聡美)

【プロフィール】

青砥瑞人(あおと・みずと) 日本の高校を中退後、米国のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)神経科学学部に入学し、2012年に飛び級で卒業。14年10月に(株)DAncing Einsteinを設立。脳神経科学の知見を、医学だけでなく人の成長に応用し、AIの技術も活用するNeuroEdTech®︎とNeuroHRTech®︎という新しい分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得する脳神経発明家。「ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい教育」の創造を目指して、さまざまな活動を行っている。小中高では野球少年だった。


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