【脳神経科学×教育】コロナ危機は成長のチャンス

新型コロナウイルスの感染拡大により長期間の休校を余儀なくされ、学校教育の在り方が大きく問い直された。そんな中、「脳神経科学×教育」という新しい分野に取り組んでいるDAncing Einstein代表の青砥瑞人氏は「休校になって通常の学びができない分の埋め合わせをする発想ではなく、生きた学びを身に付けられる最高の機会として捉えるべきだ」と提言する。インタビューの最終回は、脳神経科学の観点から、休校中に子供たちがどう過ごすべきかを聞いた。

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新型コロナ時代をどう生きるか
――今、新型コロナウイルスの感染拡大によって、学校教育の在り方が大きく問い直されようとしています。脳神経科学の観点から何か提言はありますか。

大きな環境の変化に対して人間の脳は否定的になり、ストレス反応を示します。そのストレスによって私たちは疲弊したり、他者に対して攻撃的になったり、あるいは自分に対して保守的になったりしやすい。

ただ、一人一人が危機管理の知識を正しく持った上で、この環境からいかに学ぶのか、どうやって成長につなげるのかを、自分の頭で考えてアクションに移すことで、大きな成長の機会になっていくはずだと、僕は思っています。

人類の歴史を振り返っても、こうした状況は人類を大きく進化させるきっかけになっています。

例えば、アイザック・ニュートンが落ちるリンゴを見て万有引力をひらめいたのは、腺ペストの流行で大学が2年間休校となり、実家に戻っていた時のことです。彼は、後にこの期間を「創造的休暇」と呼んでいます。

「コロナ危機は生きた学びを身に付けるチャンス」と青砥氏(DAncing Einstein提供)

今までと異なる環境になったからこそ、できること、考えることはたくさんある。脳にとっても、こうしたモラトリアム的な変化はとても大事です。

この貴重な期間は、休校になって通常の学びができない分を「どう埋め合わせるか」という発想ではなく、「生きた学び」を身に付けられる最高の機会として捉えた方がいいと思います。

――子供たちにとっても、大きな変化がありました。

これまでは、なんとなく学校に行って、なんとなく勉強していたという子供たちも多かったのではないでしょうか。これをただ繰り返しているだけだと、自分の頭で考えたり、自分と向き合ったりすることは、意識しないとできません。

でも、今は自分の頭で「自分がどうしたいのか」を考え、自分と向き合う時間があるはずです。日常生活の中で不思議に思っていること、知りたいと思っていることなど、自分の興味・関心に寄り添える、またとないチャンスです。

自分の興味・関心に向かっていると、脳ではドーパミンが作られます。ドーパミンが多いほど学習効果は高まります。「自分の興味・関心について知れて楽しい」という感覚、この学習を脳にたくさんさせることが大切です。これを繰り返している人たちが、学習意欲が高く、自ら学ぶ人になります。

そもそも、学校教育の中で、子供たちが自分の興味・関心と向き合う時間がなさすぎると思いませんか。このままでは、自分の興味・関心と向き合い、楽しむ能力がどんどんなくなっていきます。大人になってから「自分のやりたいことが見つからない」となるのは、そういった脳を使ってこなかったからです。

「Use it or Lose it.」とは、脳神経科学の大原則です。つまり、脳の機能が向上するように「使う」ことが大事で、使わなければその機能は失われてしまいます。

答えを聞く前に自分で自由に妄想する
――休校中、知識の習得は家庭でもある程度可能ですが、新学習指導要領で求められている思考力・判断力・表現力を育むためにはどうすればよいのでしょうか。

今の子供たちは、すぐ外部に答えを求められる環境にあります。そのため、自分で答えを考える前に、ネットや大人から答えを聞こうとします。

でも、自分が知りたいと思ったり、不思議に思ったりしたことは、まず、自分の頭の中で自由な発想を巡らせ、「もしかしたらこうかな?」などと自分なりの仮説を妄想することが大切です。

社会に出ると「答えがないのが答え」です。正解なんて誰も持っていないし、「答えは何だろう?」と探っていくようなプロセスの連続です。

人工知能と共存し、進化していくような時代においては、過去の事例から考える作業は人工知能がしてくれます。対して、過去の事例にもないような自由な妄想は、人間の脳にしかできないことで、その力を養うことが圧倒的な強みになっていきます。でも、今はそれを削るような教育ばかりしていると思いませんか。

僕は今、「まちの保育園」と新しいプロジェクトに取り組んでいますが、子供たちは自由な発想で「ああかな?」「こうかな?」と妄想しています。世の中に存在する理論は多々ありますが、子供たちは子供たちならではの理論でもって話をしてくれる。こういう能力こそが、これからの時代は必要になってくるし、大切にしなくてはなりません。

――自由に発想する能力は、大人になるにつれて失われているような気がします。

われわれの脳には、神経細胞と神経細胞の間にシナプスと呼ばれる結び目があります。若ければ若いほど、脳の中のシナプスはたくさんありますが、年齢を重ねるごとに刈り込まれていき、17歳になるころには成人と同レベルにまで少なくなってしまうんです。

シナプスが多い年代に自由な発想や妄想をする経験ができている人は、大人になってもそれができる。一方で、やっていない人はできづらくなってしまいます。

「子供たちの自由に発想する能力を育てよう」(DAncing Einstein提供)

脳の創造性を育むためには、周りがどう思うかではなく、本人の脳にとってそれが新しいことであるかどうかが重要です。教員が自分のベクトルで評価をして、ネガティブなフィードバックをしてしまうと、子供は「自分には新しいことを生み出す能力がない」と思い、そういう脳を使わなくなってしまいます。

大切なのは、子供たちの自由な発想に対して「そんなこと意味あるの?」といったラベルを絶対に貼らないこと。いかにしてプラスのフィードバックをしたり新しい観点を付与したりするか、そして当人にとっての新しい学びへの気付きを促すのか、その仕組みを作ることが重要です。

そうすることで、その子の学びがより楽しい方向に向き、深く脳の記憶として残りやすくなります。そして、それがまた次の学習意欲へとつながっていくのです。

教育の役目は次世代のリーダーを育てること
――自分の興味・関心に向き合い、自由な発想することが、脳にとって大切なんですね。

その過程では、どれだけ調べても答えにたどり着かないこともあります。ここが興味・関心に基づく学びを止めてしまうきっかけの一つになります。

どうして学びを止めてしまうのか、それは今の教育が答えを求めることばかりしてきたからです。だから子供たちは「答えが出せない自分はダメだ」と思ってしまう。

「どれだけ調べても分からない」ことが分かったこと、それは前進でしかないのです。答えにはまだ至っていないけれども、間違いなく成長しているし、答えに近づいている。そのことを客観的に捉えられる能力も非常に重要です。

――なぜ、すぐに答えを求めてしまうのでしょうか。

答えがなくて悶々としているような状態を、人はネガティブに捉えやすいんです。それは、答えが出るとポジティブにフィードバックし、答えが出ないとネガティブにフィードバックする教育の罪です。

「今の教育は答えを求めることばかりしてきた」と指摘する

そのように頭の中で堂々巡りをしているような状態というのは、実は脳がトレーニングをしている状態で、成長のシグナルなのです。堂々巡りがあったからこそ、神経回路が成熟し、脳が変化・成長していくのです。

つまり、答えが見いだせなかったことや、うまくいかなかったことを前向きに捉えられるのか、成長の1ピースとして捉えられるのかがポイントになります。

今、私たちが置かれた状況は苦しいし、楽しみも奪われてしまっている。でも、そこから学ぶことはいくらでもあります。そのマインドはきっと、われわれを強くしてくれるし、成長させてくれます。

こんな環境でもなんとか学びに変えよう、次につなげようという思いを持てる。そんな人が、この危機を乗り越えたときに、リーダーになっていくんだと思います。そして、教育の役割とは、そういう人材を育てていくことではないでしょうか。

(松井聡美)

【プロフィール】

青砥瑞人(あおと・みずと) 日本の高校を中退後、米国のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)神経科学学部に入学し、2012年に飛び級で卒業。14年10月に(株)DAncing Einsteinを設立。脳神経科学の知見を、医学だけでなく人の成長に応用し、AIの技術も活用するNeuroEdTech®︎とNeuroHRTech®︎という新しい分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得する脳神経発明家。「ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい教育」の創造を目指して、さまざまな活動を行っている。小中高では野球少年だった。


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