【26歳の学校改革】アンラーニングする覚悟を

「教育を再定義する」をミッションに、公立高校に独自のプログラムを提供するNPO法人青春基地。現在は東京都と長野県の2つの高校で、教職員と協働した授業づくりだけでなく、学校組織の在り方についても改革を進めている。プロジェクトを中心となって推し進めてきた代表理事の石黒和己(わこ)氏に、生徒や教職員が変容していった過程を振り返りながら、これからの時代に求められる教師像を聞いた。(全3回)

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対話を重ね授業をつくる
――授業は現場の教員と協働しながらつくっているのでしょうか。

そうですね。まず、授業を通じて「どんな未来をつくりたいか」「なにを学ぶ時間にするべきか」と対話を重ねながら、ビジョンを描いた上で、年間計画を立てています。

各回の授業は、私たちか先生のどちらかが授業案を持ち寄って、ブラッシュアップする方法をとっています。できるだけ何度も対話を重ねることで、なぜこの学びが必要なのかという背景まで、お互いがしっかり共有するように努めています。

それでも実際の授業は常に再構築の繰り返しで、指導案はあくまでベースにすぎません。生徒の様子を見て「もっと前にいけるぞ」という日もあれば、「ここはペースを落として丁寧にやろう」という日もあります。案配は現場にいるスタッフや学生の感覚を尊重していて、教室の空気感や生徒の熱量を踏まえて変更することはよくあります。

重要なのは計画通りに進めることではなく、生徒たちにとって在りたい未来に近づくことだと考えています。ですから最初に掲げた最終目標に向かう過程で、違う手段や方法がベターだとなれば、迷わずにかじを切ります。先生方が一番困惑されるのは、その部分ですね。

――そんなに変化を繰り返すと現場が混乱したり、責任の在りかが不明瞭になったりするリスクも高まりませんか。

まさにその通りです。ですから私たちは1人でつくる形をとっていないのです。

授業づくりでは対話を重要視しているという石黒氏

授業づくりの中では、「対話」をとても重要視しています。毎回の授業後には振り返りの場を設けて、そこで次回の方向性について議論をしっかり重ねて、合意形成を図るようにしています。そうすることで課題を共有し、次の授業に向けてクリアにすることができます。1人の視点ではなく、複数の視点を介すことで、内容的な幅や深みも出ますし、リスクヘッジとしても機能します。

――現場の教職員には、すんなり受け入れられましたか。

いえ、ここが一番難しいですね。私たちに対して拒絶反応を示す先生もいらっしゃいます。先生方にはそれまでの経験やキャリアがあって、異質な私たちが突然入って来て手を加えようとするのですから、戸惑いがあって当然です。

例えば、計画通りに授業が進まないと生徒が言うことを聞かなくなるのではないか、授業が成り立たなくなるのではないかといった不安。教師がフラットに接しすぎると、生徒になめられるのではないかといった心配。

そんな思いが先生方にある中で、お互いが対話を繰り返し、試行錯誤しながら一緒に授業をつくってきました。まだまだ時間はかかりますが、生徒が変わる姿を目の当たりにしたことで、少しずつ理解し合えてきたように思います。

「アンラーニング」する覚悟を
――活動に取り組む石黒さんのモチベーションはどこから来ているのでしょうか。

面白いから、できるんでしょうね。毎日、めちゃくちゃ面白いです。

1人で考えると限界があるけれど、みんなでつくっていくと、ここまで多面的なものが生まれるのかと日々感動の繰り返しです。そうやってつくる学びの中で、子供たちの顔や表情は劇的に変わるし、先生の表情もどんどん魅力的になっていきます。そんな様子をこんなに近くで見てしまうと、どんなに困難があっても楽しさが勝ちますね。

――とはいえ、教員以外の人が学校で授業をすること、そこからどんどん学びを変革していくことは、とても大変だと思います。

毎回壁にぶつかり、トライアンドエラーを繰り返しています。

自分自身や周囲の仲間、そして特に先生にとって「アンラーニング」することが最大の課題だと感じます。アンラーニングとは、これまで学んだ知識や既存の価値観をいったん捨てて、再び学び直す作業のことです。本当の意味で対話的な学びをつくり、学校を改革するとなると、このプロセスが必要不可欠です。

ただアンラーニングは、生半可な気持ちでできるものではありません。その人の価値観や感情など、アイデンティティーの部分が揺らぐ作業なので、人によってはかなりの痛みが伴います。

私を含め、教育に携わる者一人一人がそうした覚悟を持って取り組まない限り、いくら制度が変わったとしても、教育を再定義することは難しいでしょう。特効薬はなく、根気と時間を要することを覚悟の上で取り組まなければいけないと痛感しています。

――現在の学校教育に違和感を持ちながら、現状を変えられないジレンマに苦しんでいる教職員も少なくないと思います。アドバイスはありますか。

1人でやりきらない。これに尽きるのではないでしょうか。

実は私も青春基地を立ち上げるまでは、1人で考えるのが好きなタイプで、誰かとコラボレーションすることはもともと得意な方ではありませんでした。でもそうして振る舞っていると、自分以外の人が考えにくい環境をつくり、人がなかなか集まらない組織になることに気付いたのです。これではまずいと反省を繰り返した末に見えてきたのが、対話と合意形成を重視した今の組織の在り方です。

質の高いものをつくるために、教員とぶつかることもあると明かす

ジレンマを抱えている先生には、「モノの見方」を変えてみることをお勧めします。人は悩みや不満を抱えて孤独な状態になっていると、「あの人はやる気がない」「変わる気がない」などと、他人をジャッジメントしてしまいがちです。そうして批判的な視線が強まれば、さらに理解し合えない状況に追い打ちをかけて、結局は自分を苦しめることになります。

先ほど「1人でやりきらない」と言いましたが、相手の「一緒にタッグを組んだら活躍してくれる部分」に目を向けてほしいです。

例えば「A先生は準備に関してはちょっと抜けていることがあるけれど、生徒にはすごく人気」という状況があったとします。そんなとき、A先生の「人気がある」部分にスポットを当て、生徒を引きつけたい場面ができたときにA先生を巻き込んでみるのはどうでしょうか。

ジレンマを抱えるということは、実現したい理想の教育が自身の中にあるからです。ですから同僚や職場を批判的にジャッジメントするのではなく、その理想を実現させるために、どんなところが生かせるかを考える。そうすると、気持ちも少し楽になると思います。

情報共有だけの会議になっていないか
――学校組織を見ていて、どのような点を課題に感じていますか。

意思決定の仕方に大きな課題があると思います。例えば、会議の在り方を変えることも解決法の一つではないでしょうか。

学校での会議は、情報共有だけで終わる場合が珍しくありません。情報共有はもちろん大切ですが、対話やディスカッションをする機会が圧倒的に少ないのです。さらに言えば年次や立場などの「役割」や、自分の「守備範囲」を超えた発言が許されにくい空気があると感じています。

先生方には、同僚と対話をすることから始めてほしいです。学年団で集まって、まずフラットに2時間くらい話してみる。この学年やクラスをどのようにしていきたいのか、アイデアや思いを出し合います。正解を出すのではなく、あくまで対話を重ねて、お互いの内面や思いを共有する時間です。

これまで知らなかった同僚の思いに触れると、先生同士の関係性や信頼度も大きく前進するのではないでしょうか。先生たちの関係性が変われば、その波及効果で子供たちとの関係性や授業づくりも変わっていくように思います。

先生方の多くが指導熱心なあまり、児童生徒優先で考えすぎて、自分をないがしろにしているような印象があります。生徒たちを思いつつも、自分自身をケアすることや楽しみながら働くことを忘れてはいけません。そのための手段の一つとしても、同僚との対話は効果的なように思います。

変化を楽しむのが第一歩
――新型コロナウイルス感染症の影響を含め、これからの学校教育は大きく変わろうとしています。石黒さんはどのように見ていますか。

学習指導要領の改訂やオンライン化など、今の学校に求められている変化は、単なる方法論の変化ではありません。社会のシステムや価値観に関わる大きなパラダイムシフトの一部だと考えています。

制度的な改革があると「強いられている」と考えてしまいがちですが、大きな社会変革の一部という視点で見ると、この変化は子供たちや先生がより良い環境に進むための一歩のように思えます。

「変化を楽しんでほしい」と学校現場にメッセージを送る

例えばこれまでの学校教育は、1人の教師への過剰な負担や責任の上に成り立っていました。しかし、これからの学校は教師だけでなく、社会みんなでつくる方向へと大きくシフトチェンジしようとしています。教育に携わる人の数が増え、さらには幅広い環境の人が入ってくることで、教育の質はより高まるでしょう。

私がこれまで出会ってきた先生のほとんどが、「もっと子供一人一人と対話して、お互いを知りたい」と吐露します。一つ一つの変化を結び付けてみると、先生たちが描いていた理想の教育を実現する環境が整いつつあるように思います。

ですから、まずはそれぞれの場所でそれぞれの先生が、この変化を「楽しむ」ことです。そこから始めていただくことが、新たな教育への大きな一歩になるのではないでしょうか。

(聞き手 板井海奈)

【プロフィール】

石黒和己(いしぐろ・わこ)1994年、愛知県生まれ。2015年、学部時代に青春基地を創設。中高時代にシュタイナー教育という教科書も試験もない自由な教育を受けたことを原点に、公教育の学校改革を通じて、未来の学校づくりに取り組んでいる。2017年に慶應義塾大学総合政策学部卒業、2020年に東京大学教育研究科修士号取得。

※新型コロナウイルス拡大防止のため、インタビューはWEB経由で実施し、写真撮影は感染防止対策をとった上で、短時間で実施しました

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