【Withコロナ】学校は何をすべきか 新井紀子教授に聞く

「Withコロナ」の時代、休校の長期化により、学力格差の拡大をはじめとするさまざまな課題を抱えた学校は、今、何に取り組むべきなのか。日本の子供の読解力低下に警鐘を鳴らす、国立情報学研究所の新井紀子教授にインタビューした。新井教授は、自身が取り組む学校ホームページ(HP)のオープンデータ化を支援する「edumapプロジェクト」を通じて、学校の情報発信の重要性を訴える。


自学自習のスキルの差が顕在化する
――コロナ危機による休校が長期化したため、学力格差の拡大が懸念されています。

新型コロナウイルスの影響という、非常にイレギュラーな形での休校が長期化してしまったことによって、今後、格差が広がっていくことを本当に心配しています。

もともと教室には、自学自習のできる子供と、対面での支援がないと学べない子供がいます。学びの集団の中で周りの様子を見ながら前向きに授業についていっている中間層の子供たちが、教室のボリュームゾーンなのです。特に小学2~4年生あたりは発達段階の違いもあり、自学自習のスキルの個々の差が大きいと言えます。

オンライン授業はないよりはあった方がいいですが、それでスムーズに学べるのはごく一握りの子供でしょう。政府はGIGAスクール構想を前倒しして、1人1台環境を一気に進める方針ですが、タブレット端末を子供に渡せば済むという発想では、ただの責任放棄です。端末を購入する費用を配るだけで、それで何をするのかは自治体や学校任せになってしまっています。

ただ、何もしないわけにもいかないでしょう。授業の動画配信をするのであれば、配信基盤を政府が整えた上で、学習指導要領の内容に沿った授業動画を文科省が制作して配布する方が、圧倒的に効率が良いし、自治体間格差も起こらない。平時は、不登校や入院で学校に通えない子供たちへの学びの最低保障としても使えるでしょう。

まずは学習スキルのリハビリを
――広がってしまった学力格差に、学校は何をすべきなのでしょうか。

私が関わっている東京都板橋区では、読解力を身に付ける目的で、週に1回、3分間集中して視写をしたり、定規やコンパスがしっかり使えるようにしたりといった、言語活動や手先のトレーニングを意識的にやることで、比較的どの子供も文章が書けるようになってきています。そう考えると、休校による学力の低下は、取り返しがつかないわけではないとも言えます。

休校による勉強の遅れやメンタルのケアについて心配する声は多く聞こえてきますが、学習スキルの低下はあまり指摘されていないと思います。例えば1週間、文字を書かないだけで筆圧は落ちます。筆圧が落ちるとノートを取るのが遅れ、授業についていけなくなるのです。

国立情報学研究所の新井紀子教授(今年2月撮影)

学校は、休校中に子供の学習スキルが落ちているという認識に立って、遅れている学習指導要領の内容を無理やり詰め込むよりは、むしろ学習スキルを、きちんと自学自習ができるところまで伸ばすことに力を注ぐべきです。

学習の遅れを取り戻すために、大量の知識を暗記させたり、計算ドリルばかりをやらせたりするのではなく、どうやってノートを取るべきか、どうやって算数の文章問題を読み解くかなど、基本的な学習スキルを身に付けさせる方が実は早道です。

自学自習できる力さえあれば、感染の第2波、第3波が来て、再び休校という事態になったとしても、教科書と教材さえ手元にあれば自力で学習に取り組んでいけるようになります。どの子供も自学自習ができるレベルに持っていく。これこそが今、学校が一番意識しなければいけないことなのです。

学校が再開したばかりのころは子供もうれしいでしょうが、久しぶりの集団生活に疲れも出ることでしょう。ただでさえ、学習の遅れを取り戻そうと教員はプレッシャーを感じていますし、感染防止のための指導が徹底されればされるほど、行動を制限される子供たちはストレスを抱えることになります。学校嫌いや勉強嫌いが今まで以上に増えないか心配です。

学校が再開されるにあたって、まずやるべきことは、学習に必要な基本的なスキルを取り戻すリハビリなのです。リハビリのいいところは、全ての子供にとってメリットになるということです。もともと自学自習ができる子供にとっても、リハビリを通じて自己流だった学習法を振り返る良い機会になります。

そして、こうした問題意識は、保護者ともしっかり共有しておくことがポイントになると思います。

edumapは保護者との距離を縮める
――保護者との意識の共有といえば、休校で保護者への情報発信に苦労している学校も多いと聞きます。

私は長年、学校の情報発信について関心を寄せてきました。東日本大震災では、多くの学校が被災し、避難生活が長期化する中で、学校HPが機能せず、子供たちの学びの保障をはじめとする重要な情報を届けることが困難な状態が続きました。災害時でも最低限の情報が提供できるように、学校HPを持続させる仕組みが必要だと痛感させられました。

そこで、私が代表を務める「教育のための科学研究所」では、NTTデータやさくらインターネットの協力の下、無償で学校情報のオープンデータ化を支援する「edumapプロジェクト」を立ち上げ、1月から利用申し込みを開始しています。現在、200以上の学校などの教育機関が利用しています。

東日本大震災では、教員も避難を余儀なくされていたり、学校の校舎が倒壊したりして、学校HPの更新ができませんでした。この教訓を踏まえ、edumapでは学校の外からでも更新できるようにし、複数の拠点を設けることで大規模な災害が起きてもサーバーを動かし続ける冗長性も担保しています。多くの保護者が一度にアクセスしても大丈夫な工夫も駆使しています。そこには全国の大学にネットワークを提供している国立情報学研究所での知見が生かされています。

また、edumap上の情報はChromeなどのブラウザの機械翻訳機能を用いれば、どんな言語にも翻訳することができます。保護者の母語が日本語でなくても、母語に変換して読むことができるのです。こうした設計には、私が取り組んできた「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの成果も反映されています。

この休校期間中、HPをedumapに切り替えた学校では、新型コロナウイルスに関する重要な情報の更新はもちろん、配布物や課題をダウンロードできるようにしたり、分散登校での感染防止対策の様子を写真で紹介したりと、edumapをフル活用しています。

家庭と共有すべき情報を学校HPでどんどん発信することは、結果的に、学校と保護者の距離をぐっと縮める効果もあります。休校中も教員が一生懸命子供たちのために頑張っている姿や学校の方針が伝われば、保護者も安心し、学校を信頼するようになります。電話による個別の問い合わせも少なくなり、多忙化の解消にもつながるでしょう。

またいつ休校になるか分からない「Withコロナ」の時代に、学校と保護者の信頼関係は欠かせません。edumapプロジェクトは、そのための重要なツールになると確信しています。

(聞き手 藤井孝良)

【プロフィール】

新井紀子(あらい・のりこ) 国立情報学研究所教授・同研究所社会共有知研究センター長、一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。2011年に「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを立ち上げ注目を集める。16年から読解力を測るRSTの開発に着手。日本の子供の読解力の低下に警鐘を鳴らしている。著書に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)、『人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」: 第三次AIブームの到達点と限界』(東京大学出版会、共編著)、『AIに負けない子どもを育てる』(東洋経済新報社)など多数。


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