【学びの未来予想図】オンラインでしかできないことを

新型コロナウイルスの流行による長期の臨時休校を経て、「オンラインの学び」がいろいろな意味で重みを持つようになってきた。そんな中、成績アップも合格も目指さない異色の塾「探究学舎」が、3月の休校直後からネットを通じた学習支援に取り組み、その後もオンライン授業の受講者を急拡大するなど存在感を高めている。アフターコロナ時代に、学びのかたちはどう変わるのか。探究学舎代表の宝槻泰伸さんに聞く。(全3回)

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――3月初めに休校になった子供向けにYouTubeで講座を無料公開、学びの支援をいち早く打ち出しましたね(注)。即応されたのが印象的でした。

私たちがオンライン化に備えていた理由は2つあって、1つはスケールメリット。東京都三鷹市で教室を7、8年やってきて、小学生を対象にしたプログラムについては、ほぼ最終形態に近づいている実感があります。でもこの先、これを全国各地にコピーしていくのは至難の業です。特に人材面。

先生というパフォーマーを簡単にコピーはできない。採用と研修で、ある程度なんとかなるのかもしれないけれど、そもそも、コピーすることに自分自身がワクワクしない。もっとたくさんの人に届けるなら、オンライン以外にないというのは、前から思っていました。

オンラインにする理由を語る宝槻氏

もう1つの理由は、オンラインでしかできないことに挑戦するため。生徒の学習履歴を集約することです。子供がいつどんなことに興味を持ったか、どんなことに取り組んだかを記録して観察することで、個性や適性が分かってくる。

10人や100人でなく、1万人、10万人規模のデータベースを構築できたら、プラットホーム上で子供が学習すると、一人一人に最適化された形で課題やアドバイスが自動的に編集されるというようなことも可能になる。

――アマゾンのお買い物履歴やグーグルの自動広告を、もっと進化させたような感じでしょうか。

マイ学習履歴は、各自が全て確認できる。その上で、例えば、織田信長タイプだねとか、ヘレンケラー型ですとか、判定されるだけでも子供は喜びますよ。個性や適性をうまく可視化できれば、子供も先生も保護者もハッピーになる。これはまだ誰もやっていない。僕がやらなくても誰かがやると思うんですが、せっかく思いついたので、やってみたいんですよ。

そういう2つの理由で、オンライン化の準備を進めていました。去年から「オンライン探究」という授業を、数回で完結する「売り切りモデル」としてスタートさせて、千何百人かに受講してもらった。

本当は月額制の「サブスクリプションモデル」で、継続的に授業をしたほうがいい。子供たちの力を伸ばしやすいし、経営的にも安定する。でも、オンラインで次から次に面白い授業をやり続けられる体制があるという確信がなかった。1回始めたら終われないですからね。

タイミングをつかめないまま、ノウハウや組織力を高めて、できれば来年ぐらいから徐々に……と考えていた。でも、コロナウイルスのまん延が深刻になって、教室が封鎖される可能性の中で、副次的にオンラインへの移行を考えざるを得なくなった。正直、お願いだからやめてくれと思っていましたよ。

――安倍首相が2月27日に、3月2日から春休みまでの休校要請を表明。探究学舎は週明けの3月4日からオンライン授業公開に踏み切りましたね。

休校要請を受けて、デジタル教材の無料提供を真っ先に表明したのは、花まる学習会さん。なるほど、そういうことかと思って、僕らもリリースを出しました。無料でもしっかり学べるカリキュラムを作って、配信形態はシンプルで分かりやすく、大量の視聴に対応できるYouTubeにすると決めました。有料のプログラムを販売することも当然考えましたが、ここはそういうタイミングじゃないと思って、社会貢献活動として取り組むことにしました。

YouTubeで無料配信した授業(探究学舎提供)

社会貢献にしたことで、すごくいい時間になりました。みんながやりたいことをやり散らかすという。経営者としては厳しいところですが、ぐっとこらえてね。おかげでイノベーションがいくつか起こった。

例えば探究ラジオという発信形態も、従業員の発想から。その番組作りのために作ったシステムが、有料のオンライン授業を広げる上での基礎技術になりました。

――事態は好転せずに4月7日に7都府県に緊急事態宣言が出て、外出自粛がさらに続くことになりました。

全ての授業をオンラインにすると決断したのは、4月1日ごろでした。この状況では塾はやれない。万が一、感染者が出なかったとしても、社会的に非難されるだろうと。オンライン化に踏み切ることに決めて、まず既存の塾生にどうするかを選択してもらいました。20パーセントぐらいは休塾しましたね。残りはオンラインでも月謝を払って受けるという選択をしてくれた。

――そこに新規入塾者を加えて授業が始まるわけですが、新規募集の1000人の枠が1日で売り切れたと聞きました。

奇跡が起きましたね。結果的にみると、一つ一つの動きが1本につながっていた。無料の講座を楽しいと思ってもらえて、有料でも始まるらしいけれど、学校もないから暇だしやってみようか、という感じになった。

実はオンライン版の募集は3月から始めていたんですよ。でも反応がなかった。それが4月に入って猛スピードで売れたので、なるほどなと思いました。商品やサービスの価値がみなさんの期待に沿っているだけではなく、売り方とかタイミングが必要なんだなと、勉強しましたね。

追加募集もして、3000人とか3500人とかの規模まで受講者が一気に増えたことで、通信が重くなったり、トラブルもいろいろ経験したりしましたが、少しずつ乗り越えてきました。利用者のほうも、オンライン通塾というのはこういうものかと、理解してもらえたのでは。コロナ禍は終息に向かっていると信じたいですが、体験者の90パーセント以上を残すことを目標にしています。真価が決まるのはこれからです。

――「1人1台」の時代と言われながら、なかなかオンライン学習のイメージがつかめていなかったのですが、新しい体験の機会になりましたね。

試行錯誤で配信システムを作りあげる

オンラインはみんな食わず嫌い状態だった。でもコロナ禍で、半ば強制的に食わされることになった。それ以外に選択肢がなかったからですが、けっこういけるんじゃないかと思った人も多いでしょう。

これまで皆さんは、何が効果的でどうやったら面白くなるかと、オンラインのコンテンツに工夫と情熱を注いでいるプレーヤーの授業を受けていなかった。ただ先生がずっとしゃべっているようなものしか知らなかったら、それは嫌いになりますよ。

これから、有力なオンラインサービスが明確になっていきます。消費行動も変わる。学びはリアルでないと難しいと思っていた人が、オンラインでもいけるという感覚をもって、アフターコロナの時代に、オンラインの商材が売れまくるのは想像に難くない。商品力がある企業が市場をけん引するでしょう。

◇  ◇  ◇

次回は、成績アップも合格も目指さない塾という異色のスタンスについて聞く。

(篠原知存)

(注)「探究学舎オンライン授業」YouTube無料配信のリンク:スティーブ・ジョブズ 講師:宝槻泰伸
【プロフィール】

宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ) 探究学舎代表。1981年、東京都生まれ。京都大学経済学部卒。高校を中退し、塾も行かずに京都大学へ進学した。大学卒業後に起業。子供たちの自学を促す探究型の教育手法の確立に取り組んでいる。5児の父。


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