【学びの未来予想図】目指すのは「オンライン×探究」

臨時休校期間にオンライン授業に取り組んで小学生の受講者を倍増させた「探究学舎」の宝槻泰伸代表は、進学塾などでもオンライン化は不可避だと予測する。加えて目指しているのは「勉強」から「探究」へ学びをシフトさせること。第2回は、成績アップも合格も目指さない塾という異色のスタンスについて聞いた。(全3回)

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――前回は、オンラインの学びがこれからの教育市場をけん引するというお話でした。

小学生の非受験部門については、うちがトップランナーになると思っています。受験部門、中高や大学受験の進学塾でも同様のことが起こる。なぜなら、オンラインの教育サービスは利益率が高いから。

いま、学習塾の利益率は平均10%と言われています。人件費とか地代とか広告宣伝費とかを積み増していくとその程度。塾講師の平均年収は350万円ぐらいだそうです。ぜひ就職したいという人が、どれくらいいるでしょうか。いま、学習塾業界は、良い人材が集まりにくい、でも人件費を抑制しなきゃいけない。そういう悪循環を抜け出せず、大学生のアルバイトでしのいできた。オンライン化は進むはずです。

――非受験部門と受験部門に分類されているのが面白いですが、まだ非受験部門の塾というのは少数派のように思えます。

私たちは、二重のイノベーションに挑んでいます。学習スタイルは、昭和モデルの「リアル×勉強」というのが長く主流でした。私たちが目指しているのは「オンライン×探究」です。これまで「リアル」を「オンライン」に転換するお話をしてきましたが、学びを「勉強」から「探究」に変えていくというのも、また難しい。

「非受験部門のトップランナーになる」と語る宝槻氏

多くの企業で、リアルからオンラインへのシフトが進んでいる。ITを使って利益率のいいサービスモデルを作って、優秀な社員を少数精鋭で抱えて、新しい需給や時代に合ったサービスを模索しようという風に乗れる経営者や企業が伸びていく。

受験塾も、より低価格・短時間で成果を保証できる企業がグローバル化して、淘汰(とうた)が進む。それは間違いない。だけど「いつまで勉強を教えてるんですか」という、もうひとつの私たちの課題があるんです。

――探究学舎が受講者を増やしているのは、オンラインの効果に加えて、その考え方が支持を集めたせいかもしれませんね。

教育における「昭和モデル」というのは、勉強して、いい大学に入って、いい会社に入って、というやつです。でも、キャリアに対する考え方とか人生観はだいぶ変わりつつあって、昭和モデルは子供たちが本当に幸せになれる道だろうかと疑問を感じる人は増えている。

僕の感覚では、明確にノーと言っているのは5%か10%、怪しんでいるのが30~40%、まだ60%ぐらいは肯定している。だから中学受験塾や予備校という「リアル×勉強」の塾も伸びている。人口減少で売り上げは衰退しているけど、まだ激減はしていない。ただ、この消費行動は終盤に入っていて、ゆるやかに下降の一途をたどると思います。

――逆にいうと、急には変わらないということですか。

IT技術なら、空中に描けるタッチパネルなどが出て来たら、すぐに移行するでしょう。でも教育はそうはいかない。ひとつの文化なので、一世代が親になってその子供が……というぐらいの時間軸が必要になる。でも、いまの中高生が大人になった時に、果たして自分の子供に受験させるかというのは、だいぶ違うだろうなと思います。

キャリアにおける学歴の価値が目減りしています。学歴を得て安定した大企業に所属させてもらうことよりも、越境したり、ジョブチェンジしていったり、そういうサバイバルしていくスキルだったり、マインドだったりを持っていることの方が、キャリアデザインの可能性が広がる。僕らはそう感じています。

大きな変化の中で、人生になにが必要なのかを突き詰めて考えると、自分の好きなことを見つける。それを仕事にする。その仕事を通して人類を前進させる、社会貢献するということですね。この3つなんですよ。

――「好きなことを仕事にして、人類を前進させる」。無料公開授業でも話されていましたが、多くの人の心に響く言葉ですね。いつごろからそう思われるようになりましたか。

偏差値の高い学校を出て、安定した職業を手に入れて、生涯獲得賃金を最大化するという「昭和モデル」が、そもそも僕にとっては違和感しかなかった。でも、それが何に代替されるかという、自分の中の哲学が固まってきたのはこの10年ぐらいです。30代になって、仕事とか子育てとか企業経営とか、だんだん10代、20代と違う景色が見えるようになって確信できた。

「昭和モデル」は違和感しかないと強調する

好きなことを趣味で終わらせるのではなくて、仕事にしたいと多くの人が望んでいる。そして、その仕事が生活の糧になるだけではなくて、社会貢献できる。そうつながっていく人生に、一番大きな魅力を感じます。

いま「働き方改革」という大きな風が吹いていて、なんのために働くのか、どうやって働くのか、誰とどんな価値をどういうふうに創造していくのか、みたいな問いが立てられていますね。それと同時並行で、何のために人は学ぶのかという問い直しもあって、少しずつではあるけれど、確実にシフトしているというのが、僕の実感です。

――探究学舎で「令和モデル」の学びを実現していくということですね。

一番いいのは学校がやってくれることなんですよ。誰もが無料で通える、税金で運営されている学校が、そういう世界観を吸収してくれて、「君の好きなことは何? 一緒に見つけようよ」と子供たちに機会を与えてくれるのが。その上で「好きなことを実現するためには必要な能力があるよね」と。例えば宇宙が好きなら英語ができたほうがいいし、数学や科学も学んで準備しようぜって、個性に合わせた指導をやってくれるのが理想です。でも、実現するのは100年後でしょうね。

――学校は変化できないということでしょうか。

チャレンジしている人はいますよ。例えば僕が子供を通わせることにした軽井沢風越学園です。

長野で4月に開校して、こういう状況でまだほとんど登校できていませんが、幼稚園の年少さんから中学3年生までが一緒に学ぶんです。職員室も教室も黒板もない。僕のイメージでは、朝おはようと集まって、今日は皆さん何をしますかとみんなに聞いて、本を読みます、絵を描きます、森に散歩に行きます、分かりました、じゃあ解散みたいな。思い思いの時間をすごすうちにプロジェクトチームみたいなものができたりする。

風越学園は学校のアップデートを狙っていて、学校だってここまでできるんだよというのを提示しようとしている。そういう人たちもいるので、われわれの持っている学校のイメージも、緩やかに解体していくと思います。

一方、ディスラプト(創造的破壊)という道もあって、学校とは異なる学びの場がいきなりどんと立ち上がって、古いものを駆逐していく。僕はどちらかというと、そういうストーリーを描いていて、学校でなくてもここまでできるということを提示したい。

自動車業界でいうと、テスラですね。いきなり燃料をやめる。トヨタはハイブリッドを出したりして、アップデートを図っている。車はそれでもトヨタが勝つかもしれませんが、教育はアップデートとディスラプトが緩やかにコミュニケーションしながら、最適化が進んでいくと思います。30年ぐらいの長い変革期になるでしょう。

◇  ◇  ◇

次回は、「これからの教育」について聞く。

(篠原知存)

【プロフィール】

宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ) 探究学舎代表。1981年、東京都生まれ。京都大学経済学部卒。高校を中退し、塾も行かずに京都大学へ進学した。大学卒業後に起業。子供たちの自学を促す探究型の教育手法の確立に取り組んでいる。5児の父。


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