【パターン・ランゲージ】協働学習のための共通言語

今年度から小学校で新学習指導要領がスタートした。現場での試行錯誤が続く中、「主体的・対話的で深い学び」や他者との協働学習の場面で、より深い学びに導くためのツールとして注目を集めているのが「パターン・ランゲージ」だ。この理論に基づくカード教材を活用することで、学びはどう深まるのか。カードの活用法と現場での実践例を取材した。


「経験の交換」や「認識のメガネ」

パターン・ランゲージは、1977年に建築家のクリストファー・アレグサンダー氏によって提唱された。アレグサンダー氏は、よい建物や町に共通してみられる型(パターン)を言葉で表現・整理することで、建築家とそこで暮らす市民が街づくりについて共通認識を持ち、対話していけるようにしたいと考えた。このパターン・ランゲージで「良い型」を共有するという方法を、実践知の共有や創造的な学びといった人間の行為全般に適用しようと考えたのが、慶應義塾大学の井庭崇教授だ。

井庭教授が代表取締役社長を務めるクリエイティブシフトでは、パターン・ランゲージをさまざまな分野、テーマで制作し、それを使った研修や、使用者のサポートなどに取り組んでいる。教材となるカードには、それぞれのパターンの内容を一言であらわすキーワード(パターン名)とイラストがあり、その下に短い補足説明が書かれていて、実践知の内容を簡単に感覚的につかめるようにできている。現在、この「パターン・ランゲージ・カード」には「ラーニング・パターン」や「プレゼンテーション・パターン」「コラボレーション・パターン」など、製品化されているものだけでも13種類ある。

テーマに応じてさまざまなバリエーションがあるカード

こうしたカードを使って、どのような活動ができるのか。

とあるワークショップで、初対面の人同士が対話する場面を想定してみる。参加者にただテーマを渡して「会話をしてください」と言っても、盛り上がりに欠けたり、お互いのイメージが共有できずにすれ違ったりしてしまうことは多いだろう。しかし、このカードを使うと会話が大きく変わる。

例えば、学びのワークショップでは、対話を始める前に「ラーニング・パターン」カードを配り、参加者はそのカードにあるキーワード「鳥の眼と虫の眼」「はなすことでわかる」などに沿いながら、自分自身の学びの工夫やエピソードを紹介するようにする。すると、異なる立場の人同士でも話題が広がり、共通のものとなり、互いに新たな発想のヒントが得られる。こうした活動は「経験の交換」と呼ばれ、パターン・ランゲージの代表的な使い方の一つだ。

また、プレゼンテーションのコツをまとめた「プレゼンテーション・パターン」であれば、優れたプレゼンテーションの動画を見て、発表者がどのようなコツを使っていたか、カードを使って分析するなどの活動が考えられる。カードを使うことで、スキルや経験がない人でも、優れたプレゼンをするためのコツが具体的に見えてくるため、自分自身のプレゼンに生かしたり、振り返りの視点を持ったりすることができる。

このようにパターン・ランゲージは、経験の浅い人には見えにくいプロの実践知を見えやすくする機能もあるため、「認識のメガネ」とも呼ばれている。

こうしたカードの使い方は、あくまでも一例にすぎない。クリエイティブシフトでパターン・ランゲージ制作活用リーダーを務める阿部有里さんは「パターン・ランゲージのカードには、『こうしなければならない』『全てのカードを使い切らなければいけない』といった決まりはない。さまざまなやり方を学校現場でも模索してほしい」とアドバイスする。

探究的な学びから教員研修まで

では、実際にパターン・ランゲージのカード教材を使っている学校では、どのような授業を行っているのだろうか。

東京都中野区にある宝仙学園中学校・高等学校では、5年前から学校独自に設定している教科「理数インター」の教材として、中学1年生で「コラボレーション・パターン」を、中学2年生で「プレゼンテーション・パターン」を、中学3年生で「ラーニング・パターン」をそれぞれ活用している。

「理数インター」の授業でのカード活用場面(米澤教諭提供)

教科「理数インター」の教科主任である米澤貴史教諭は「知識の詰め込みではなく、とにかく楽しい授業にするのがこの教科のコンセプト。導入のきっかけは、偶然、慶應義塾大学に進学した卒業生がパターン・ランゲージの体験を教えてくれて、『これは面白い』と直感したことだった」と語る。

受験を経て入学してきたばかりの中1は、チームビルディングを兼ねて、「コラボレーション・パターン」を活用したさまざまなグループワークを行い、仲間と力を合わせることを学ぶ。

例えば「100個のドミノを、いかに時間をかけて倒すことができるか」という活動では、1回目の挑戦結果をグループで振り返る際、カードを使ってどんな協働の要素が足りなかったかを振り返るようにしている。振り返りの視点はグループによって異なり、それを基に作戦を立てた上で2回目に挑む。カードを通じてより良いコラボレーションのためのコツに触れることで、考えが違う他者と互いを認め合いながら協働する楽しさを学べるという。

プレゼンテーションを数多く経験させることに主眼を置いた中2では、プレゼン後の振り返りで「プレゼンテーション・パターン」を活用している。これを1年間積み重ねることで、発表者がテーマに対して深く考えるようになり、熱意が伝わるプレゼンテーションに変貌していくという。

カードを使った授業について説明する米澤教諭

中3は、「新商品を考える」などの探究的な学びの中で、自分自身の学び方をメタ認知するためのツールとして「ラーニング・パターン」を用いている。活動を通じ、生徒たちはどんな学びの力が身に付いたかをカードを使って整理し、自分自身の成長を実感する。
「どの学年も、グループによって選ぶカードは異なるが、それらのカードをもとに自分たちで思考を深めていく。生徒の自己肯定感も高まり、主体的な学びのきっかけをつくってくれる」と米澤教諭はその効果を強調する。

活用し始めた当初こそ、教員間でカードの活用が広まらなかったが、次第にその有用性に気付く教員が増えていった。現在では、目指すべき学びの姿について共通認識を検討するために教員研修で利用したり、教育実習生に授業や学級経営で大切にしたい価値を意識させる際に使ったりしている。米澤教諭自身も、顧問を務める吹奏楽部の保護者説明会で、部の活動方針に納得してもらうための対話用ツールとしてカードを使っている。

米澤教諭は「これからの社会では、正解のない問いにチャレンジしていくことが求められるようになる。教育は知識を伝達するものではなくなり、発想を転換しなければならないが、大人ほど一つの正解を求めがちだ。カードの活用を通じて、保護者と新しい学びのイメージを共有し、学校と家庭で子供の成長のベクトルを合わせていきたい」と語る。

(藤井孝良)


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