【学びの未来予想図】能力(can)より興味(want)開発を

昭和モデルの「勉強」ではなく、個性や適性に合った好きなことを極めていく「探究」こそが、子供たちが幸せに生きる道につながる。今後、ゆっくりとではあるが、学びはシフトしていくと話す探究学舎代表の宝槻泰伸さん。最終回は、これからの教育について。(全3回)

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――価値観や思考が変化している中で、学校の教員にはどういう視点が必要でしょうか。

学校が最も得意とするのは、標準的な教育を一斉に施すということ。読み書きそろばんといいますが、リテラシーを国民全員に授けるということにおいて、学校以上に得意な機関はありません。僕らの探究学舎では、永久に不可能です。

日本が近代化する過程で、学校が成し遂げてきたことというのは、今後もキープするべきだと思います。言葉を話すとか、文字を書くとか、そういう重要な基礎能力は時代がどう変わろうと必要ですから。

リテラシーは学校の得意分野と語る宝槻氏

逆に、いまの学校が苦手なのは、個性を把握して創造を導くこと。学校的に望ましい優等生的「個性」が決まっていて、それに合わないと劣等生、問題児になる。学校に子供を合わせることしか考えていなくて、学校を子供に合わせるなんて想像したこともない。個人レベルで取り組んでいる先生もおられるでしょうが、教育委員会、学校という組織になると、合わなければ切り捨てるという思考になる。

でも、世の中の方はもはや、標準的で画一的な考え方の人間は必要としていない。学校の言う通りにやっているだけでは、とても社会で活躍できないんじゃないかと、子供も親も気付き始めていると思います。資質とか個性に合わせて、子供たちの未来や能力を360度、どこへでも伸ばしていけるアメーバ状の教育が求められています。

――学校現場もそれに合わせて変わっていかねばならない、と。

ぜひそうしてほしいですが、難しいでしょうね。地動説対天動説の対立と似ているかもしれません。学校で学ぶことが一番大切で、教員は生徒に知識を与えるもので、子供は放っておくと勉強しないから指導する。多くの学校関係者は天動説信者で、教育の中心はあくまで学校や教師だと思っています。

これに対して僕ら地動説派は、子供を中心に考えている。学校や家庭や塾やインターネットから子供は相互補完的に学び取っていて、一人一人が学び方をそれぞれデザインしている。どんな授業も、全体の学びの一部でしかない。

――そういう視点でカリキュラムを考えるのは面白いですね。

読み書きの基本は学校で、プログラミングは専門家のいる教室、好きなことの探究なら探究学舎。そういう風に、さまざまな選択肢の中から自分で学びをチョイスして組み合わせていく。汎用(はんよう)的な学びも、専門性のある学びも全て税金で賄われる。

大学の一般教養と専門教程は、自分でカリキュラムを考えますよね。小学生のうちからそうなる。少なくとも習い事はそうなっていくでしょう。僕はそういうイメージを持っていますが、天動説信者は反対するかもしれません。でも、いずれは社会の変化に対応せざるを得なくなると思います。

――探究学舎の掲げる目標には共感できるのですが、現実に「好きなことを見つける」というのは、とても難しいことだと思います。その手法について聞かせてください。

まずは子供たちの意欲を、どうやって引き出すかがポイントになります。最初の部分がうまくいけば、自発的行動を促して、好きなことを極めるという結果につながっていく。全ての起点になる「もっと知りたい」「やってみたい」という動機付けの部分を、僕らは興味開発と呼んでいます。「can」を増やす能力開発とは違って、「want」を増やすことを考えています。

僕はキャリアデザインを「can」と「want」と「should」の3つの円が結節するイメージで捉えています。「should」は社会性という意味ですね。つまり、自分ができるし、自分がやりたいし、社会の要請もあるということです。

これまでの教育は「can」ばかりを重視してきた。私は英語ができる、俺は計算が早い、でも、あなたは何をやりたいのかと「want」を聞かれると、答えられない。皆さんの周囲にもたくさんいると思います。この「want」の部分、情熱の部分にどう火をつけるのか。これは「can」を広げるのと同様に重要な教育課題です。

実は、探究学舎を面白がってくれるユーザーも、まだ十分に分かってくれていなかったりします。受験準備が忙しくなってきたからと、やめてしまうこともあります。でも、近いうちに「can」と「want」の重みは同等になるでしょう。さらに進んだら、興味開発が先でないといけないと気付くはずです。知りたいこと、やりたいことを実現するための能力開発じゃないか、と。

――興味開発が先になると、どんな変化が起きますか。

これまで芸能とスポーツしかなかった習い事が多様化します。昭和のころ、なりたい職業というとプロ野球選手か歌手。でも、いまの20代は、昆虫食の専門家とか、プラレーラーとか、レゴビルダーとか、折り紙師とか、そんなことで飯が食えるのかという仕事に、とても楽しそうに挑戦している。

それを見て育つ10代は、俺は歴史が好きだけど、じゃあ歴史で飯食うには……と考え始めます。そのニーズに気付く人がいたら、歴史塾みたいな習い事が生まれる。そのうちに「何を習っているの?」と聞かれた子供が「俺はプログラミングとYouTube、あとクワガタ」みたいな時代になる。そうやって、興味開発という領域が市場化されていくでしょう。

――興味開発のノウハウをもう少しお聞きしたいのですが、子供たちの「わぁ、すごい」という心の動きを、大切な要素に挙げていますね。

あくまでも仮説ですよ。子供が、何かに興味を持つプロセスについての僕の仮説が「驚きと感動」なんです。どうすれば、子供がもっと知りたい、やってみたいと感じるのか、実は誰も分かっていない。どうやって個性を把握して、どんな関わり方をするのか。集団教育がいいのか、個別指導がいいのか。オンラインか、リアルか。正解はまだ分かっていない。ただ僕は「驚きと感動」じゃないかなと仮説を立てて、そういう前提でカリキュラムを作っています。

――いまのところ、それがうまくいっているということですか。

だから支持を得ていると思っています。仮説に基づく取り組みに満足してくれて、信頼できると判断してくれている。でも、僕らがやっていることが全てだとは思っていません。僕の予測では、5年後ぐらいに探究学舎はそれなりの市場を獲得しているはずです。「オンライン×探究」というジャンルで。

子供には「やっちゃん」と呼ばれる(探究学舎提供)

でも、それを見た20代の子などがきっと「彼らのやり方には違和感がある」と思うんですよ。それで新しいサービスを発明して、違うかたちの興味開発の手法が生まれて、そっちが芯を食っていれば、僕らが淘汰(とうた)される。

いずれにしても、興味開発と能力開発が並行して進む時代になるのは、ほぼ間違いないと思っていますし、興味開発については民間から新しい手法が生まれて、これから広がっていくはずです。

これは日本だけでなく、グローバルなレベルで起こると思います。「好きなことを見つけて、それを仕事にできたら最高の人生だよね」と親も思ったら、「とりあえずドリルをやっておけ」とは言わないでしょう。

(篠原知存)

【プロフィール】

宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ) 探究学舎代表。1981年、東京都生まれ。京都大学経済学部卒。高校を中退し、塾も行かずに京都大学へ進学した。大学卒業後に起業。子供たちの自学を促す探究型の教育手法の確立に取り組んでいる。5児の父。


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