【山本崇雄教諭に聞く】オンライン授業で育む自律型学習者

休校が長期化したため学校関係者は急ピッチで、児童生徒たちの「学習の遅れを取り戻そう」と取り組んでいる。しかし、「そもそも“遅れ”や“取り戻す”が最優先事項ではない」と、「教えない授業」で知られる山本崇雄教諭(新渡戸文化中学校統括校長補佐)は投げ掛ける。同校ではアフターコロナを見据えた、リアルの教室とオンラインを掛け合わせたハイブリッド型の授業改革に取り組んでいる。キーワードは「子供主体」。同校のオンライン授業を取材するとともに、山本教諭にアフターコロナの教育の在り方を聞いた。


大人100人とつながろう

新渡戸文化中学・高校では、緊急事態宣言が解除された現在も、オンラインをベースにした授業を続けている。

同校では教育の最上位目標を、「ハピネスクリエイター(幸せをつくる人)の育成」と定義。「コアラーニング(教科学習)」「クロスカリキュラム(教科の枠を超えた学習)」「チャレンジベースラーニング(社会課題の解決に向けて行動する学び)」という「3つのC」を柱にした学びを、リアルの教室と同じく、オンラインの学びでも実現できるよう改革を進めている。オンライン授業でも追求するのは、児童生徒が主体的に学ぶ形だ。

6月上旬、「クロスカリキュラム」の一環で中学生が取り組んでいる「ハピネスブリッジ」の授業に参加した。「100人の大人とつながろう」をテーマに、生徒たちと全国の大人たちがZoomで対話するという内容だ。

4回目となるこの日は、約50人の大人が参加。同校の教師からの呼び掛けに賛同した社会人が東北や九州、セブ島など世界各国からオンライン教室にログインした。大学教授や絵本作家、劇団員、コンサルタントなど、職業や年代、背景も多種多様な人々が一堂に集結した。

「子供主体」のハイブリッド型授業への改革を進める山本教諭

この授業の狙いは「対等な対話」。生徒たちが日々の授業で探究している「好きなもの」について発表し、「社会をよくすること」「働くこと」などについて、大人と意見を交わしながら、なりたい自分像を膨らませていく。

少人数で対話できる「ブレイクアウトルーム機能」を使い、大人1人に対し、生徒1~2人で20分間対話。組み合わせを入れ替え、3セッション繰りかえす。

4回目を迎えた生徒たちはリラックスした様子で、各々の自宅から笑顔で参加。「大人の皆さん、よろしくお願いします」「今日はどんな方がいるだろう」などと、チャット機能を使いこなし、コミュニケーションをとっていた。授業を主催する山本教諭は「大人たちのほうが緊張していますね」と笑いながら述べた。

子供の発想力×大人の経験

初めて参加した記者は小説家になりたい中学2年生や、料理家を目指す中学2年生、生物分野でイノベーションを起こしたいと明かす中学1年生らと対話。どの生徒も最初は緊張した面持ちでも「何について調べているの」と尋ねると、興味のあるものや調べた内容、自分が考えていることについて、生き生きと語った。

なかでも料理に興味を持つ生徒は「画面共有機能で、資料を見てもらいながら説明したいです」と自ら提案。写真や参考データを盛り込み作り込んだ資料を示しながら、休校中に開発したオリジナルレシピや、探究学習でテーマにしているコロナ禍の飲食店の可能性について熱心に説明してくれた。

「これからも長くコロナと一緒に歩んでいかなければいけない。コロナとどのようにすれば共生できるか考えている」と話し、社会状況を客観的に分析しながら、「社会をよくする」という視点で学びを深めている姿が見て取れた。

別の生徒にオンライン授業の感想について尋ねると、「僕たちが持っている発想力と大人が持っている経験を掛け合わせたら、すごいものができるような気がしている。オンラインだからこその学びができて、先生たちにとても感謝している」と目を輝かせながら語った。

この大人とつながる授業について、山本教諭は「実は、一番変化しているのは大人かもしれない」と話す。

「『大人が教えなければいけない』『大人が教えないと子供は分からない』といった思い込みは、実は大人が変わる可能性も消しているのではないでしょうか」

実際に参加した大人たちからは「私の知らない世界があると教えてもらった」「年の差を感じず、正直驚いた」などといった感想が相次いだ。

授業の最後、山本教諭は「学びは巨大なジグソーパズル。教科学習のように端から置いていくピースがあれば、今日の大人との対話のように転々と置くピースもある。無駄にならず、いつか形になる。勇気をもってピースを置こう」と生徒に呼び掛けた。

リセットされた学校現場

授業後、山本教諭に一斉休校から学校再開を迎えた学校現場についての考えを聞いた。

山本教諭は、コロナ禍で混乱をきたした学校現場について「リセットされた」と言い表す。

「これまでの学校は、行事やテスト、時間割など、いろいろなものを詰め込みすぎていました。それがこのコロナ禍で、強制的にリセットされて空っぽになった。今の全ての学校は、そこに何を入れるのか選ぶことができるのです。今こそ『子供たちに本当に必要な学びは何か』『未来を幸せに生きる子供たちを育むために何ができるか』といった視点で、教師一人一人が自律的に考えて、行動できるチャンスでしょう」

また、この現状を「3.11の時と似ている」と振り返る。東日本大震災時は現地に足を運び、子供たちと触れ合った経験が、山本教諭の「教えない授業」の基盤にはあるという。

「あの時、大人が子供たちにしてあげられることの限界を突き付けられました。学校はこのままではいけないと、全ての教員が気付いていたはずです。しかし時を経るごとにその感覚を忘れてしまい、いつの間にか元に戻ってしまったのではないでしょうか」

さらにこう続ける。

「自律型学習者を育むための教育をデザインできている学校であれば、オンライン環境の有無にかかわらず、児童生徒自身が自分で自分の学びをコントロールでき、対応できたように感じます」

大人主語の「学び」ではないか

一斉休校下で多くの自治体や学校が「学びを止めない」を掲げ、授業動画の配信やオンライン朝礼など、さまざまなチャレンジを試みた。山本教諭は「休校以前を見ても、そもそも学びは始まっていたのか、大人が主語の『学びを止めない』になっていないか、しっかり見極めなければいけない。教室でもオンラインでも、大人が主語の学びの上には、子供たちの主体性は育まれない」と指摘する。

オンライン授業は一部の教師は自宅からリモートで参加する

同校では探究学習は対話型のオンライン授業を多用する一方で、教科の基礎となる学習はキュビナなど学習ツールを利用して、生徒それぞれの自主性を尊重して進める形式をとっている。

「そもそも、休校中の遅れを“取り戻す”という発想がナンセンス。できないことは可能性と捉え、彼らのペースで学びを進めればいいはずです。例えば九九は小2で、三単現の“s”は中1で扱い、それを一斉に習得しなければならないという思い込みに、教師も保護者もとらわれてしまっている。彼らがなりたい自分像から逆算して何が必要か考えたとき、九九ができない高校生が『できるようになりたい』と思ったら、それは素敵なことだと思うんです。大人も含め、できないことに対して、悪と感じすぎている」

各々が「自律」して学習を進める。理想的な形だがその中で、こぼれ落ちてしまう子供はいないのだろうか。

「“こぼれ落ちる”という表現自体が、一斉習得ありきの考え方です。例え私が指示して学んだとしても、学ばされたことは子供たちの自分事にはされないでしょう」

山本教諭は生徒らに、「何を学ぶか、学びのジグソーパズルをどう描くかは、自分で決められるし、自分が責任を取らなければいけない」とよく伝える。

「大人として、『こんな学びを広げるチャンスがあるよ』と投げ掛けはします。ただ大人ができるのは、彼らが自分でパズルのピースを置くのを信じて待つことだけ。私は、子供自身の『知りたい』『学びたい』から生まれる学びの強さを知っているから待てるんです。子供たちが自分でピースを置くのを、最後まで信じて待つ学校があってもいいと思いますね」

教師が自律的に考え行動するべき

山本教諭は「今こそ教師が自律的に考えて行動するべきだ」と繰り返す。

「授業はいろんな形があっていいと思う。私の進めている『教えない授業』やアクティブ・ラーニングを必ずしましょうとは、まったく思いません。手段はいくつあってもいいのです。周りがやっているからやろうではなく、『子供を将来幸せにできる授業とは何か』と先生一人一人が自律的に考えて、選びとることが大切です。正解がない問いに直面している今こそ、目の前の子供と対面して、学校や先生一人一人が自分で考えて行動することが何より大切になると感じます」

再開を迎えた今も見通しがあやふやなまま、児童生徒の学びの保障や安全の担保など、さまざまな課題が山積している学校現場。「もっと寛容になりましょう」と山本教諭は呼び掛ける。

「これを機に社会全体や大人が、できないことにもっと寛容になってほしい。そもそも成績をつけなければいけないから、いつまでに教科書を終わらせなければいけないといったことは、大人都合ではないでしょうか。コロナ禍で、一番我慢を強いられたのは子供たちです。まず子供たちの思いを大切に聞き取って『本当にありがとう、できないことは可能性だよ』と、寛容さを持ってほしい」

最後に現場の教師に向けて、メッセージを送ってもらった。

「一斉習得の観点で、休校により学習の遅れが生じていたとしたら、それは悪ではなく可能性であることを子供たちに伝えてほしいです。さらに、授業を『一斉に教える』から、『子供たちが選んで学ぶ』へ変換する新しい発想が必要です。コロナ後を見据えた『新しい授業』を作っていきましょう」

(板井海奈)

【プロフィール】

山本崇雄(やまもと・たかお) 新渡戸文化中学校統括校長補佐。都立両国高校附属中、都立武蔵高校附属中で自律型学習者を育てる「教えない授業」を実践。新しい教育の在り方を提案する「未来教育デザインConfeito」の設立にも携わる。著書に『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP)など多数。


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