【一斉休校でも学びを止めない】ICTが加速させる学び

ICTを活用したアクティブラーナー教育に取り組む、東京都小金井市立前原小学校の蓑手(みのて)章吾教諭は「社会の変化がより一層加速する時代において、現在の学校教育での学びが役に立つかどうかは誰にも分からない。しかし、どんな未来が訪れたとしても、自分で自分の幸せな人生を切り開いて行くために必要なのは、『自ら主体的に学び自らを成長させることを楽しめる力』」と語る。インタビュー最終回では、アクティブラーナーを育成するための具体的な手法や秘訣(ひけつ)に迫る。(全3回)

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ベースに「やりたい気持ち」が不可欠
――アクティブラーナーを育成するには、どうしたらよいのですか。

子供たちはもともと全員が生まれながらにして「自分の好きなことから学び成長するアクティブラーナー」であると思います。しかし、学校の集団生活の中で、いろいろなことに制約が課され、子供自身がそれらに折り合いをつけていくうちに、自分がやりたいことを突き詰めていく力が損なわれていくのかもしれません。

その点では、特別支援学校は通常学級に比べると周りから制約を受けることが少ないので、子供たちがいつまでもアクティブラーナーのままでいられるなと思うこともありました。

僕は「調整力」や「我慢する力」と呼ばれるものには、大前提にその対象が「自分のやりたいこと」である必要があると考えています。やりたくもないことをやらされて、しかもそこで我慢もさせられるという経験からは、結局何も身に付かないと思うんです。

「見どころのない子は存在しない」と語る蓑手教諭

好きなことを突き詰めていくと、必ずどこかで壁にぶち当たります。例えば、eスポーツと呼ばれるビデオゲームを使った対戦競技でプロを目指そうと思ったとしたら、いずれスポンサー契約やプロモーションなどが必要になります。

そのためにはコミュニケーション能力が必要だと思えば、それまでコミュニケーションが苦手であっても、学ぼうとするはずです。自分に必要なスキルは、そういう目的があってこそ磨かれていくと思うんです。

そのためには、大前提として、「自分で選んでやっている」「好きでやっている」ということがベースにないとダメです。その先に自分が思い描く自分の理想の姿があるからこそ、壁を乗り越える力が湧き、スキルが磨かれて身に付いていくのです。

好きでもない勉強や習い事を、「これはやるべきこと」とか「ここでやめたらもったいない」という大人側の理屈で続けさせることによって、アクティブラーナーの芽が摘まれていくのかもしれませんね。

不可欠な2つの要素
――他に必要なことはありますか。

僕は2つの要素が必要だと考えています。1つ目は「成長実感」。今日の自分が昨日の自分に比べて、どれくらい成長したかを実感できることです。そのためには、教員がメンター役として伴走しながら、本人の成長度合いをフィードバックしてあげることが重要だと思っています。

しかし、自分で自分の成長を実感できるだけでは不十分です。もう1つ必要なのは、周りから「いいね」をもらう「他者承認」です。成長実感と他者承認の2つをうまく獲得できると、もっと学んでさらに成長していきたいと思う原動力が湧いてくると思います。

――教員がメンター役として伴走するとは、具体的にどういうことですか。

これまでの先生は「評価者」であったと思います。特定のボーダーラインを引いて、児童生徒を「できている子」「できていない子」と評価し、なんとか下位層をボーダーラインまで引き上げようとしてきた気がします。

メンター役としての教員は、そもそもボーダーラインを引きません。上の方にいる子には次のステージを提示してあげるし、下の方にいる子に対しても「ここまで上がらないといけない」というラインは設定しない。その子が一歩ずつ、昨日の自分を超えて成長していけるように、一人一人に必要な手だてを取っていけばいいと思います。

おそらく、それぞれの子供にとって、その時に必要な手だては異なるはず。ティーチングが必要な子もいれば、ハッパを掛けた方がいい子もいるでしょう。戦略を一緒に考えてあげた方がいい子もいれば、逆に戦略に縛られてしまっている子もいます。そうした子には視点を変えられるような関わり方をするなど、その子に必要な環境調整をしていくのがメンターとしての先生の役割だと考えています。

あらゆる手だてを取りながら、その子自身の「昨日」を超える「今日」を一緒に作っていける人。それが、アクティブラーナー育成に必要な教師像だと感じています。

ICTの活用は必須
――ICTはどう使うのですか。

子供たち一人一人が異なる歩みで一歩ずつ成長していくのを支えていくには、ICTを活用せざるを得なくなります。なぜなら、1人の教員がクラス40人の成長の現在地を把握するのは難しいし、一人一人の進捗(しんちょく)が異なる場合、教材やプリントの準備だけでも相当な労力になるからです。

この問題は、学習履歴が残る電子ドリルがあれば一発で解決します。子供自身が成長を実感するために、成長のプロセスを写真や動画、または数値化して記録することが有効になります。

ICTを活用して個々の子供の成長を観察

本校は総務省のスマートスクール実証校に指定されているため、児童1人1台のパソコン環境が整備されていました。1人1台と聞くと、プログラミング教育が進んでいるようなイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、僕がICTを活用した学び方としてそれ以上に力を入れているのが、アクティブラーナーの育成です。

僕はICTの活用は「身体機能の拡張」だと捉えています。ICTを活用することで、僕たち人間の目だけで把握する以上に、同時に教室にいる複数の子供たちの作文の進捗を見られます。まるでたくさんの目を持っているかのような、身体機能の拡張効果が得られるのです。

子供たちのために、目の数はあればあるほど良い。ICTに対して、「これまでの温かい人間味のある学びが損なわれるかもしれない」と感じる方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。

子供たちの作品を長時間かけて教室の壁に掲示する作業も、ICTを使えば一瞬でクラス全員に共有できてしまう。今まで大切だとされてきたことでも、人間の身体能力の限界もあり、やりたくてもやりきれなかったというようなことができるようになるのです。「ICTをやらなきゃいけない」というよりは、あった方が学びは格段に豊かになると思います。

教科書の情報に価値がなくなる時代
――読者へのメッセージを。

現在すでに、「知識を持っていること」に意味がなくなりつつあると感じます。ネットでいつでも調べられる時代ですし、クラス全員が教科書に書かれている全く同じ情報を持っている状態には、何の意味もないなと思います。

ICTの具体的な活用例を紹介しましょう。例えば「産業革命って何だろう。何の革命なんだろう」という、緩い問いから入り、それぞれがネットで調べた情報をシェアし合うと面白いんです。

それぞれの子供が調べてくる情報には、子供たち自身の個性が乗っかってくるので、全員がバラバラの答えになる。それを発表すると「情報の希少性」があることから、他者承認が得られやすいため、学び合いがすごく盛り上がります。このような学び方をすると、子供たちは教員の知識すら簡単に超えていくことができるんです。

これまでは、みんなが同じ教科書を使って、教室の中では希少性が極めて低い共通知識を身に付けようとしていましたが、それは子供たちにとっては退屈でつまらないものだったのかもしれません。僕は、今後は情報の価値というのは「集団における希少性」が重要なポイントになると感じています。

ICTの整備は必ず進むでしょう。だから、まだICT環境が整っていない学校の先生方も、どうかその先を見据えて準備や学びを進めていってほしいと思います。

子供たちが、自分の好きなことを軸にして学び、他者承認を得ながら成長していくための「学びと成長の環境づくり」、ある日突然、学校がなくなっても、学び続け、成長し続けていける「真のアクティブラーナー」を育成していく学びの場が必要だと思うのです。

(森田亜矢子)

【プロフィール】

蓑手章吾(みのて・しょうご) 東京都小金井市立前原小学校教諭。全国に知られるICT先進公立校である同校は、総務省「次世代学校ICT環境の整備に向けた実証(スマートスクール・プラットフォーム実証事業)」の指定校。蓑手教諭は、3年間にわたって同校の研究テーマである「21世紀を拓く『新しい学び』の創造」の研究推進委員長を務め、ICTを活用したアクティブラーナー育成を実践している。共著に『全員参加の全力教室2』(日本標準)、『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)などがある。


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