【放課後の学びを変える】大人も学ぶ不思議な学童保育

放課後に子供を預かる学童保育がどんなことをしているかは、意外と知られていない。そんな学童保育の中でも「merry attic」(メリーアティック)は異色の存在だ。埼玉県戸田市で開設してから数年で、沖縄県や東京都にも拠点を持つようになった。メリーアティックが目指す放課後の学びはどのような姿をしているのか、上田馨一(かいち)代表に聞いた(全3回)。第1回では、大人も子供も一緒になって学びを深めるメリーアティックのスタイルに迫る。

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わずか4年で学童保育を複数展開
――メリーアティックは今、どのような事業を展開しているのでしょうか。

厚労省の放課後児童健全育成事業、いわゆる学童保育を戸田市と那覇市で展開しています。新型コロナウイルスの影響でまだスタートはしていませんが、今年度から文科省の放課後子供教室の運営にも参加することとなり、東京都葛飾区の小学校の空き教室を使う予定で準備を進めています。その他に障害者委託訓練事業も実施しており、現在は全ての拠点を合わせて約30人のスタッフがいます。

戸田市で最初のメリーアティックを開設したのが2017年なので、まだ3年くらいですが、短期間でこれだけ事業が大きくなったことには自分でもちょっと驚いています。

――メリーアティックは他の学童保育にはないプログラムがあると聞きました。
民間学童保育「merry attic」の上田代表

代表的なものに、音楽のプログラムがあります。音楽をやってみたいという子供たちを集めてオリジナルの歌詞を書かせ、音楽活動をした経験のあるスタッフが作曲をしたり、映像をつくったりしています。

明治大学や東京都立大学のフラッシュモブサークルとコラボレーションして、CDもリリースしました。子供たちに、自身が関わっていることを意識してもらうのが大事だと考え、ジャケットには子供たちの名前(アーティスト名)が載っています。音楽はあくまでツールで、子供たちに当事者としての達成感を味わってもらうことが狙いです。

大人が個性を生かして関わる
――そんなユニークな活動を実践しているメリーアティックのスタッフには、どんなメンバーがいるのでしょうか。

例えば、もともと吉本興業に所属していたお笑い芸人で、芸人になる前はエチオピアで青年海外協力隊として活動していたという異色の経歴の持ち主がいます。この人は教員免許も持っていて、アウトプットが上手。ついつい話に引き込まれてしまいます。今、その人にお願いしているのは、YouTubeでの「学童保育あるある」の発信です。

「保育士系YouTuber」は結構いるんですが、「学童系YouTuber」は全く見かけません。動画配信を通じて、学童保育に多くの人が興味を持ってもらえればと思っています。この前、おもちゃの寄付のお願いをその人が発信したのですが、かなり反響がありました。やってみるものだなと実感しています。

ライター経験を持っている人もいます。その人にはメリーアティックのブログで、日ごろの活動報告だけでなく、学童保育の現場で思ったことを記事にしてもらっています。例えば、子供たちを「さん」で呼ぶか「くん」で呼ぶか、スタッフを「先生」と呼ぶかなどは、学童保育によって違うのですが、そういった身近な話題から浮き彫りになってくる学童保育の本質的な部分を分かりやすく発信してもらっています。

レコーディングを体験する子供(上田代表提供)

子供たちに大人気なのは、声優をやっているスタッフによる本気の紙芝居です。昔話の桃太郎を声優ならではの迫真の演技で読んでもらうのです。

それからイラストレーターさん。この人は子供たちに、誕生日カードを内緒で送っています。子供たちにとって、自分宛ての郵便ってなかなか来ないじゃないですか。だから、誕生日にその人の手描きイラストとスタッフの寄せ書きがたくさん書かれたバースデーカードが届くと、すごく喜んでくれます。保護者が動画で子供からのお礼のメッセージを送ってくれることもあります。自分たちのやってきたことが、子供たちやその家族の喜びになっていることを実感できる瞬間ですね。

音大の学生も関わってくれていて、ドレス姿で本格的な演奏会を子供たちの前でやってくれることもあります。子供たちは普段、遊びでピアノを弾いていますが、プロを目指している人が真剣モードで演奏したときの緊張感は言葉にできないものがあって、子供たちにとっていい経験になります。

また、中には「起業したい」という思いを持った人もいたので、その人には入って3カ月くらいでメリーアティックの理事になってもらい、沖縄のメリーアティックを任せることにしました。保育だけでなく、補助金の手続きやマネジメントなどの運営面も一手に担ってもらっています。

“セレンディピティ”を生み出す
――活動内容はかなり異色ですが、どうしてこのような学童保育を目指したのですか。

もちろん子供のためということもありますが、もう一つの狙いはメリーアティックに関わる大人です。つまり、スタッフやコラボレーションしてくれる人たちのキャリアや得意なこと、これまで培ってきた経験を生かして、次の世代にバトンを引き継いでいく。そういうことを大人自身が意識して、大事にしてもらいたいと思っているのです。関わってくれた大人が自分の得意なことをアウトプットすることで、自分のブランディングにつなげたり、新しい可能性を広げたりする場としてメリーアティックを使ってもらいたいのです。

メリーアティックには、「このメンバーがいないとできない」という活動がたくさんあります。それを後方支援してくれるメンバーもいて、互いに話し合いながら、とにかくまずは形にしていくのです。

「ワクワクする屋根裏」という意味が込められた「merry attic」(上田代表提供)

みんながお互いの良さを知り、引き出し合いながら、つながっていく。そうしてつながっていけば、「出会いの格差」を縮めていくことにもなると私は思っています。どこにいても、子供も大人もいろいろな刺激、いろいろな世界を感じられる。そんな居場所をつくろうとしています。

同じプログラムを継続することよりも、そこにいるメンバーでどんなことができるのかを考えて、どんどん新しいことに挑戦し続けていく。常に「今が一番熱い」状況をつくっていきたいのです。

大人にとっても学びの場にすること、子供たちの出会いの格差を改善すること、この2つが重なったとき、セレンディピティが起こるのです。メリーアティックで学んだことを生かして、子供も大人も次のステージに進んでいく。そういう場をつくっていきたいですね。

(第2回に続く)

(藤井孝良)

【プロフィール】

上田馨一(うえだ・かいち) 1983年、静岡県生まれ。大学ではバンド活動に明け暮れ、卒業後に「Peach Jam」としてメジャーデビューを果たすも解散。その後、広告代理店や障害者施設で働き、2017年に学童保育「merry attic」を埼玉県戸田市に開設。現在は沖縄県那覇市でも事業を展開するほか、4月からは東京都葛飾区で放課後子供教室の運営にも携わる。


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