【探究と方法4】探究の振り返りがメタ認知能力を高める(知窓学舎塾長 矢萩 邦彦)

「探究型学習を実践していく際に、大切なのは振り返りである。自分の思考方法を振り返り、経験に落とし込むことで、結果としてメタ認知能力を高めることができる」――。実践教育ジャーナリストで、知窓学舎塾長の矢萩邦彦氏は、こう指摘する。その思考の背景にあるのは、ジョン・デューイの方法論であり、ノーム・チョムスキーの教育論だ。連載第4回は矢萩氏が、新学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」を実現する方法論として重視される探究型学習について、深掘りした議論を縦横に展開する。

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想像力と編集力

学校が嫌いな10代を過ごした。偏差値や詰め込みテクニックを礼賛する従来型の学びに、美学も信念もない強制を感じていた。教育以外のキャリアをもたない先生に進路相談をする気にはなれず、進学先の校名にとらわれる同級生とも相いれなかった。

1995年の阪神淡路大震災の翌日、被災者の数で賭けをしていた同級生を目の当たりにした。「日本の教育は失敗している」。何かが間違えていると思った。このことがきっかけになり、教育の世界に飛び込んだ。自分の理想とする教育とは何か、それはどうしたら実現できるのかと探究する日々だった。

その渦中で出会ったのが、イシス編集学校校長の松岡正剛氏である。「編集」を強く意識して活動し始め、現在に至る。「編集力」と「想像力」は、ほぼ同義だと僕は考える。想像とは自由気儘に考えることではない。江戸時代までは「おしはかる」「おもいやる」という意味で使われていた。場があり、方針があり、順序があり、愛もあるのが想像であり、編集なのだ。編集は、僕らを成長と自由に、豊かな生活に導く可能性に満ちている。

僕が教育の現場に入り、最初に取り入れたのはジョン・デューイの方法論だった。当時は知識よりも経験、能力よりも興味に力点を置き、思考自体を楽しみながら対話する方法は受け入れられにくかった。最初に選んだフィールドが中学受験だったから、なおさらだ。選んだ理由は、自身が中学受験をして、入学した進学校に合わず、ドロップアウトした経験があるからだ。現場に入って20年間、僕の方法論を喜んだのは、学んだ生徒たちだけだった。

しかし、今回の教育改革で、少しずつ探究が注目され始めた。昨年は誰もが探究に飛び付き、語るようになった。実は「探究型学習」の多くは、前述したデューイの著作から端を発したものだ。デューイは探究と思考は同じと捉えている。その最も肝となる部分が「振り返り」である。自らの思考方法を振り返ることで、経験に落とし込み、自分自身をアップデートすることができる。探究を授業で扱うならば、教師自身が探究することが前提だ。自分を俯瞰して振り返り、客観的に捉えるメタ認知。それが「探究型学習」の最初の関門になる。

メタ認知と現場感

時代と教育のズレは、災害で露呈する。東日本大震災の際、関わっていた組織も場当たり的な対応に終始していた。答えのない問いを前にフリーズするか、考えなしに活動を始めてしまうか。動いてみたものの、周囲に非難され、頓挫してしまうケースも多く見られた。マサチューセッツ工科大学(MIT)を訪れたのはこのころだ。ノーム・チョムスキー博士に「これからの教育で必要なことは何か」を伺った。

その答えは「To be free of dogma」。ドグマから自由であれ。そのためには、メタ認知が必要になる。自身を俯瞰して見られなければ、既存の構造から出られない井の中の蛙だ。今でこそ「アンラーニング」という言葉が聞かれるようになったが、当時は多くの業界が構造の中での気付きに終始していた。時の首相に、松岡氏がレヴィ=ストロースの著作を強く勧めていたことが思い出される。メタ認知をすることと現場を知ることは両輪でなければならない。

AI時代にはこのメタ認知能力が重要になる。人間に求められるのはAIにできないことだ。AIにない力は「自己言及能力」。AIは自分自身を疑うことができない。これからの人間は、自分の認知に対して批判的な目を持つ必要がある。その上で組織やプロジェクトについてもクリティカルに考えられるかが問われる。自分と組織と社会と世界を行き来しながら、部分と全体にフィードバックをかけ続ける。それがこれからの教育と編集の骨子となる。

教育とアジャイル

IT業界ではアジャイルという働き方が標準になりつつある。アジャイルとは環境の変化に即した素早い開発手法を指す。臨機応変にプロジェクトを動かし、合意形成をとりつつ、仕様や目的までも変える柔軟性が求められる。走りながら編集、改善をしていくモデルだ。

アジャイルは、教育にこそ向いている。経験に基づく知見は、以前ほど有用ではなくなった。環境の変化が早すぎるのだ。生徒の技術や感性も日々進化している。これからは現在進行形で現場に立ち、共に探究していく姿勢が必要になる。教師は同じプロジェクトの一員としてチームをナビゲートし、それぞれの目的を編集統合しながら、同時に外側との調整を図る。一人一人の特性を知り、強みを生かしながら、全員で成長していくためには、編集的コミュニケーションが必須である。

新型コロナウィルスを巡る臨時休校で、教育機関へのICT導入に拍車がかかっているが、どんなツールを使うかよりも先に、方法や方針が肝要だろう。方法と方針があれば、走りながら場やツールを編集し、活用していけば良い。やってみて、良いものは取り入れ、不都合があれば改善する。今、「答えのない問い」に立ち向かうことが求められている。状況の変化を機会として、果敢に探究を続け、編集という方法に挑むことが教育を変える鍵になる。

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【振り返り】
自分自身がどのように考えたのか。その思考プロセスを逆向きにトレースして振り返ることを、イシス編集学校では、思考の「リバース・エンジニアリング」と言う。編集稽古では回答の時に、「振り返り」を書くことを徹底して求められる。
【答えのない問い】
「答えのない問い」は「解が一つとは限らない問い」「5W1Hによって解が変わる問い」と言い換えられる。編集稽古での回答は正しさではなく、方法的なプロセスと深化で評価される。
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【矢萩邦彦氏プロフィール】

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ) 実践教育ジャーナリスト、知窓学舎塾長。24年間、1万5000人を超える直接指導経験を生かし、「探究×受験」をコンセプトにした統合型学習塾「知窓学舎」を運営。イシス編集学校では2期師範代を務め、世界読書奥義伝「離」で最優秀賞に当たる「典離」を獲得。知と方法の越境者として、松岡正剛氏から日本初の称号「アルスコンビネーター」を付与されている。編著書に『中学受験を考えたときに読む本』(洋泉社)、共著書に『先生、この「問題」教えられますか?』(洋泉社)。

【イシス編集学校】
校長は松岡正剛。イシス編集学校の「イシス(ISIS)」は、「Inter-active System of Inter Scores」の頭文字をとった略称。新しい価値の創出には異なるスコア同士を掛け合わせることが不可欠で、イシスはその方法を相互にアクティブに学習していくシステムである。相互に交わし合うことで、探究への好奇心を引き出すことにその特徴がある。
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