【北欧の教育最前線】担い手不足の学校理事会

「校庭の景観をどうするか」「いじめ対策にどう取り組むか」「校則をどうするか」――。保護者、教職員、生徒の各代表で構成されるデンマークの学校理事会(skolebestyrelsen)は、さまざまな形で意思決定に関わっている。

デンマークでは、学校づくりの主体が親や市民、地域社会であるという意識が根付いている。国民学校法第1条では保護者による協力の重要性が述べられ、保護者の学校参加が保障されている。しかし近年、学校理事会の担い手が不足しているという。

大きな裁量を持つ学校理事会

学校理事会選挙は4年ごとで、保護者代表が5~7人選出される。理事会では保護者が過半数を占め、会長も保護者が務める。教職員と生徒の代表は2人ずつで、いずれも1年ごとに選ばれる。校長も出席するが、投票権は持たず、書記など事務的な役回りを担う。校長は必要な情報を提供し、理事会が決定した指針を遂行する責任を負う。

保護者による会議(全国組織「学校と保護者」の許可を得て掲載)

開催は年に10回程度。一般的には午後から夕方にかけて、毎回2~3時間にわたって行われる。議題によっては地方議会の議員に出席を求めることもある。

学校目標やカリキュラム、授業時間数、選択科目、校則などを決定する。また、予算の用途、使用する教材、補助教員の採用、施設開放などの承認も行う。さらに、校長や教職員の採用時に意見を述べたり、学校の改善活動を提案したりもできる。

学校理事会にはなぜ、これほど大きな裁量が与えられているのか。背景には、1990年代の地方分権化改革がある。国は大枠とガイドラインを定め、具体的な方策は地方自治体や学校で決めるようになり、学校のリーダーシップと保護者の影響力、そして自律性が認められることになった。

この時に学校委員会が学校理事会に置き換えられた。これには、教育の質や保護者の権限が少ないことへの不満を解消し、その改善を図るという意味合いに加えて、学校の意思決定を利用者に近づけることで、民主主義を広げるという目的があった。

新鮮な目をもつ“素人”だからこそ

教育省が1998年に発行した冊子では、学校理事会には学校での活動と家庭とのつながりを保護者に理解してもらい、学校に影響を与えられるということを知ってもらう役割があると述べられている。

また、保護者は“アマチュア(素人)”としての意見をまとめ、伝えていくことが大切だとされている。慣習にとらわれない新鮮な目で学校を見直すことに意味があるということだ。校長や教員が同じ学校に何年も勤める中でパターン化してしまった事柄を、保護者は異なる背景や経験をもつ立場から捉え直すことができる。そのため、保護者には必要に応じて、学校を変え改善していくことが期待されている。

全国の85%の学校理事会が「学校と保護者」に参加している。これは各学校での活動を支えるための全国組織で、政治家へのヒアリングやロビー活動、カウンセラーによる保護者相談、学校理事会運営のための研修などを実施している。

学校理事会は生徒会と並んで、民主主義の実践の場を保障しているとも言える。

影響力は獲得するもの

学校理事会では近年、担い手不足が問題となっている。各自治体は、学校理事会への関心を喚起し、参加してもらうために、SNSに動画を投稿するなど、さまざまなキャンペーンを実施している。

保護者代表のある女性は「ほとんどの人は多くの時間を費やすわりに得るものがないと考えていると思う。実際は違うはずなのに」と述べる。一方、自治体改革に詳しい研究者は「保護者は学校に十分満足しているため、学校理事会や選挙に参加する意欲がないのかもしれない」と考察する。

学校理事会に関する研修の様子(全国組織「学校と保護者」の許可を得て掲載)

コペンハーゲン市の担当者は「十分な人数を採用できていない学校もある。任期中に交代する事例もある。私たちは別の方法を考える必要がある。学校だけでは成長していくことができず、保護者の協力は不可欠だ」と述べている。

学校理事会における保護者の関与に関する課題も指摘されている。ある研究が示すところによると、多くの保護者は、生徒全体のウェルビーイングよりも、わが子の学業や進路に関心がある。また、教員や校長の一部には、(素人の)保護者から教育活動に干渉されることへの抵抗感があるという。このような関係性により、学校理事会が期待されるほど影響力を持てていないと指摘されている。

「学校と保護者」の代表者は担い手不足について、「確かに学校理事会選挙の多くは複数の候補者が出ず、信任投票になっている。一方で、空席がある学校理事会はほとんどない。デンマークの保護者は両親ともフルタイムで働いていることが一般的で忙しい。また学校理事会はボランティアであるため、関心が減る傾向も確かにある」と述べている。

他方で、国民学校における民主主義はよく機能していると考えており、「もしどこかの学校理事会から、自分たちには学校への影響力がないがどうしたらよいか、と助言を求められたら、影響力を高めるための方法を助言する。影響力は決して与えられるものではない。獲得していかなくてはならないものだ」と述べている。

(佐藤裕紀=さとう・ひろき、新潟医療福祉大学健康科学部講師。専門は比較教育学、生涯学習論)

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