【プログラミング教育奔走記】今までとは違う授業改善

今年度から小学校でプログラミング教育がスタートした。これまで全国各地で導入準備が進められてきたが、指導者の養成やICT環境の整備面で、十分ではない学校や地域も多いのが実情だ。公教育のプログラミング教育を推進するNPO法人「みんなのコード」の指導者養成主任講師として、全国の学校で研修を実施してきた元小学校長の福田晴一氏は、どのような形でプログラミング教育の普及を進めてきたのか。インタビューの2回目は、プログラミング教育によって変化する授業の在り方や子供たちの姿について聞いた。(全3回)

この特集の一覧

プログラミング教育を進めるために
――公教育のプログラミング教育を推進するNPO法人「みんなのコード」の指導者養成主任講師として、どのようなことをされてきたのですか。

愛媛県や島根県、鳥取県、岡山県、神戸市、尼崎市、大阪市、奈良市、仙台市、横浜市など、この2年間で全国各地の教育委員会や学校を回り、研修を行ってきました。

同じ所に、およそ年4回ほどは研修に行きます。最初はプログラミング教育がなぜ必要なのか、導入の背景について話をして、以降は、簡単なプログラミングソフトのViscuit(ビスケット)やScratch(スクラッチ)などを実際に先生たちにやってもらったり、模擬授業をしてもらったりします。

研修のポイントは、とにかく童心に返って体験してもらうことです。プログラミングは、やってみると誰もが「面白い」「思っていたより難しくない」と言います。先生たちに自信を付けてもらうことを重視しています。

また、こうした新しい取り組みは、いくら現場の先生が頑張ってやろうとしても、校長や管理職が首を縦に振らないと進みません。プログラミング教育のように予算が絡むようなことならなおさらです。

そこで、私は「みんなのコード」に入って「校長研修をやろう」と考えました。でも、最初はどこの教育委員会も「プログラミング教育の校長研修なんて、既存の研修で忙しいから無理」と断られました。

2年間で全国各地の学校で研修を行ってきた

それでも私は進言して、自主研修という形で勤務時間後に校長を集めてやってみたんです。すると、多くの校長が「これは面白い! やるべきだ」と“どハマり”しました。そうして校長がやる気になれば、自校の教員がプログラミングの研修会に行くのを、「行ってこい! 学んでこい!」と後押しするようになるんです。

また、研究推進団体として「東京都小学校プログラミング教育研究会」、通称「都小プロ」の立ち上げを支援しました。都教委のお墨付きの研究会なので、研究会会員は勤務時間内にプログラミングの研究ができるようになったのです。

これを今後、「全国小学校プログラミング教育研究会」にできないかと画策しています。それができれば、プログラミング教育はぐんと進みます。

次の学習指導要領では、間違いなくコンピューターサイエンス、テクノロジー関係のウエイトが増えるはずです。私は、プログラミングもいずれは教科になった方がいいと思っています。その時に向けての布石として、この「都小プロ」に期待しています。

先生が子供に「教える」から「一緒に学ぶ」へ
――この2年間で、どのような手応えを感じていますか。

小学校のプログラミング教育は、情報活用の基本的な能力や論理的思考力を育むことを狙いとしています。それはもちろん大切ですが、私は先生たちが取り組む様子を見て、プログラミング教育によって今までとはちょっと違う「授業改善」ができるのではないかと感じています。

プログラミングの授業は、2~3回やれば子供に抜かれます。でもそれでいいんです。「教える」のではなくて、子供と一緒に楽しめばいいのです。

日本の先生は、「自分ができないことは教えちゃいけない」というイメージを持っている人が多いのですが、それなら極端な話、ウサイン・ボルトのコーチは彼より速かったのかというと、そうじゃないわけです。

プログラミング教育を通して、先生が子供に「教える」から、「一緒に学ぶ」に変わっていくことを期待しています。

――プログラミング教育によって、子供たちにはどのような変化が期待できますか?

コンピューターを使わないアンプラグドの学びでも、子供たちの学校生活が構造化され、今まで以上に充実するようになります。

例えば、小学校1~2年生の朝の活動をプログラミングしてみましょう。

  • 「おはよう!」と教室に入ってくる
  • ランドセルを机の上に置く
  • 教科書とノートを机の中に入れる
  • 宿題と提出物を先生に出す
  • ランドセルをロッカーにしまう
  • 通学帽をロッカーにしまう
  • 席に着く

この一連の動作をビデオに撮ります。子供たちはそれを見て、自分たちがどんな行動をしたか、短冊に書き出します。それをもう一度、自分たちで順番に並べるという作業をやるのです。

こうした活動をすることで、子供たちにいちいち指導したり、注意したりしなくても、自分から行動するようになります。プログラミングの基本は、「順次処理」「分岐処理」「繰り返し処理」ですが、これは「順次処理」に当たります。

さらに発展させて、「保健室の入り方はどうするんだろうね?」と問うと、子供たちはシミュレーションしながら考えます。例えば、「もしけがをしていたら」「もし熱があったら」という条件文を入れてみる。子供たちの身近な生活を輪切りにしたり、もう一度組み合わせたりすることを繰り返していきます。

子供たちの学校生活が構造化されると話す

「順次処理」は、特別支援学級においても、子供たちにその日のスケジュールをインプットさせたり、衝動性を抑えたりすることに使えます。

こんな事例がありました。ある学校でプールが大好きな発達障害の子がいました。プールに入れないとなると荒れてしまうので、先生は困っていました。そんな時、こうしたアンプラグドのプログラミング授業からひらめいたのです。

「朝ごはんを食べましたか?」「体温は測りましたか?」と、どんどん条件文を作って、それが「いいえ」だとプールには入れない。こうすると、その子も自分の考えを論理立てて考え、整理することができます。

このように「論理的に考える」ことは、これまでの学校教育でもやってはいましたが、可視化されていなかったのだと思います。

また、子供たちの変化で大きいのは、トライ&エラーがしやすくなることです。例えば、Viscuitをイメージしていただくと分かりやすいのですが、「あ、この色じゃなかったな」と思えば、すぐにやり直しができる。何度も、何度もやり直しができるから、より良いものや、より自分のイメージに近いものへの実現にトライできるのです。

だから、子供たちの意欲も持続します。また、そうして試行錯誤するうちに、知識も自然と身に付いていくのです。

知識の獲得とは違う学びを
――今後はさらに情報化社会になっていきます。

プログラミング教育で身に付く情報活用能力は、これからの社会の多くの課題を解決することにつながるでしょう。こうした学びが、キャリア教育や生き方教育につながって、今までの読み書き計算、知識の獲得の延長とは違うものになるんだろうと思っています。

情報活用能力は社会課題の解決につながる

今後は正解のない問いを仲間と共に考えていくことが求められます。その解決方法の一つとして、プログラミングなどICTを活用することが示されているのです。

プログラミングはまだ教科ではないので、どのように授業に取り入れていくかは、各学校や教員が自由に考えることができます。ぜひ、創造性の高い授業に取り組んでほしいと思います。

例えば、仙台市の学校で面白い授業をやっていました。総合的な学習の時間で、「今はテクノロジーが搭載されていないものに、テクノロジーを搭載させてみたらどうなるだろう?」という授業です。

ある児童は、毎朝お父さんから「どう? このネクタイ似合うか?」と聞かれ、正直かなり面倒だと思っていたそうです。

そこで、洋服ダンスにテクノロジーを搭載しようと考えました。洋服ダンスの鏡に映るお父さんが毎日撮影される。鏡にはその日の仙台市の天気と気温、湿度なんかも表示される。そうしてコンピューターが「今日はこのネクタイがいいんじゃないですか?」とお父さんにアドバイスしてくれる。そうなると僕は楽になる……と。

こんなことを考えるだけでも楽しいし、夢があると思いませんか。商品化される可能性もゼロじゃない。企業を呼んで、コンペティションをやっても面白いかもしれません。こうした学びこそが、今求められている主体的な学びなのではないでしょうか。

(松井聡美)

【プロフィール】

福田晴一(ふくだ・はるかず) 1956年、東京都生まれ。みんなのコード学校教育支援部主任講師、元東京都杉並区立天沼小学校校長。約40年の教員生活を経て、2018年4月にNPO法人「みんなのコード」に入社。61歳で新入社員となる。20年度からの小学校におけるプログラミング教育必修化において指導教員を養成すべく、全国の小学校や教育委員会を訪問し、研修などを行っている。学校心理士の資格も持ち、東京都三鷹市の巡回心理士や、文科省のコミュニティ・スクールのコンサルタント、埼玉県戸田市のコミュニティ・スクールのディレクターも務める。

※新型コロナウイルス拡大防止のため、インタビューはWEB経由で実施し、写真撮影は感染防止対策をとった上で、短時間で実施しました

関連
この特集の一覧

あなたへのお薦め

 
特集