【北欧の教育最前線】イスラーム学校に向けられるまなざし

スウェーデンやデンマークでは、ムスリムの子供たちが通うイスラーム学校が20校近く運営されている。初めてのイスラーム学校が設立されてから20年以上たつ中で、学校は地域住民との関係を築きながら運営を続けてきた。だが、政治やメディアにおいて、イスラーム学校はしばしば批判の対象になってきた。何が問題とされ、どのような論点が提起されてきたのだろうか。


公教育制度の下で運営

まず、イスラーム学校の法的基盤を確認しておこう。イスラーム学校は、各国の公教育制度の下で運営されており、デンマークやスウェーデンではフリースコーレ/フリースコーラと総称される非政府立学校のカテゴリーに含まれる。日本では「私立学校」に相当する。北欧以外では、オランダや英国などでも数十校のイスラーム学校が運営されている。

公教育制度の下で運営されているということは、2つのことを意味する。1つ目は、学校運営のために公費が充てられるという点である。デンマークとスウェーデンのフリースコーレ/フリースコーラは運営費の大半が公的助成によってカバーされるので、イスラーム学校も同様の対応となる。

スウェーデンのイスラーム学校内の風景

2つ目は、公教育制度が定める所定のカリキュラムや学習指導要領に従う必要があるという点だ。イスラーム教育の実施や礼拝の時間を設けることによって、イスラームの文化や規範を取り込むことが認められる一方で、スウェーデンやデンマークの社会で生きる市民として育成することが最も重視される。

ポスト9.11におけるイスラーム学校

イスラーム学校の公共性を巡る議論は、21世紀に入ってからますます活発に交わされるようになった。その背景には、米国の同時多発テロ事件以後、ムスリム住民の社会統合を懐疑的にみる動きがヨーロッパ全体で高まったことがある。

ヨーロッパ各地にあるイスラーム学校は、ムスリム住民やその子供の社会統合を妨げる場として、政治やメディアの場で批判にさらされることになった。

多文化社会の市民を育成するために好ましいのは、ムスリムの子供たちだけが集うイスラーム学校を公教育機関として認めることではなく、異なる文化的・宗教的背景をもつ子供が集う場を用意するべきではないか、というのが主たる論点である。イスラーム学校の教育内容の中に、ヨーロッパの価値規範が十分反映されていないという批判もある。

スウェーデンでは、公共放送局が、あるイスラーム学校の教育問題を告発する番組を放映したことをきっかけとして、学校教育庁が全てのイスラーム学校を対象とした特別監査を2003年に実施し、複数の学校に対する教育改善の要請を行った。

教室には教職員の礼拝のためのカーペットが敷かれている

翌年に実施されたフォローアップの監査結果では、イスラーム学校に通う生徒の学校に対する肯定的な評価が取り上げられたり、イスラーム学校全体が教育改善を進めたことへの評価がなされたりしたものの、今日に至るまで、イスラーム学校を巡る議論は続いている。

昨年のデンマークの総選挙では、ポピュリスト政党である国民党がイスラーム学校に対する補助金の停止を唱え、社会民主党代表で現首相のメッテ・フレデリクセンも同案に親和的な態度を取った。

ヨーロッパ各地で増え続けるイスラーム学校

デンマークやスウェーデンをはじめ、ヨーロッパ各地のイスラーム学校は、その国の価値規範の獲得とイスラーム文化の継承という2つの目標を掲げて、数十年間にわたる教育実践を続けてきた。この2つの目標は両立可能なのか、という批判を受けながらも、イスラーム学校の数は、ムスリムの数の増加に伴ってヨーロッパ各国で増え続けている。

ヨーロッパのムスリムをひとくくりにすることが不可能であるように、イスラーム学校の中にも多様な展開がある。その多様性を丁寧に捉えていくと、イスラーム学校の異なる姿が見えてくるかもしれない。

(見原礼子=みはら・れいこ 長崎大学准教授。専門は比較教育学、教育社会学)

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