【Withコロナ挑戦記】公立でもできる!

コロナ危機による一斉休校を経験した学校現場では、これからの教育を変えようと、全国各地で多くの教員が声を上げた。その中で、約2000人もの教育関係者が申し込み、Withコロナ時代の学校教育を考えるオンラインイベントが注目を集めた。このイベントを企画したのが、東京都調布市立多摩川小学校の庄子寛之指導教諭だ。インタビューの1回目は、庄子教諭がなぜこのオンラインイベントを企画したのか、オンライン授業を実現したことで見えてきたこととは何なのかを聞いた。(全3回)

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オンライン授業の在り方を広める
――企画し、登壇もされた5月27日のオンラインイベント「6月からの授業の在り方~Withコロナ時代の対話的な学習とは~」は、約2000人もの申し込みがあるなど、大変注目を集めました。イベント開催に至るまでの経緯を教えてください。

3月に突然休校になってから、「子供たちにとって、このまま何もしなくてもいいのだろうか」との思いがあり、その頃からオンライン朝の会をしていた東京都小金井市立前原小学校の蓑手章吾教諭のところに、同僚と見学に行きました。

見学を終えた時点では、「うちの市や学校では無理だろうな」「自分もオンラインのことは詳しくないし……」と思っていました。

それでもなんとかしたいと、4月上旬からはZoomの使い方について校内研修もやっていましたが、オンライン授業の在り方がなかなか見えてこないジレンマがありました。

最初は「うちの学校ではオンライン授業は無理だろう」と思っていたそう

私はこういう時、「答えは世界にある」と思っているので、4月初旬からオンライン授業をしていた米国ニュージャージー州のニューヨーク育英学園で教員をしている後輩に連絡を取りました。そして、4月18日にオンライン授業の取り組みなどを紹介してもらうオンラインイベントを行ったのです。

オンラインイベントをやると決めたのは前日の17日で、そこから知り合いの先生を中心に情報を拡散したにもかかわらず、約180人もの人が参加してくれました。多くの人がこうした情報を得たかったことが分かりました。

それから計4回、ニューヨーク育英学園や香港日本人学校、シンガポール日本人学校、日本の私立校でオンライン授業に取り組んでいた宝仙学園小学校、新渡戸文化学園、公立の東京都小金井市立前原小学校の先生方に、オンライン授業最前線について話してもらい、情報交換するオンラインイベントを行いました。

――すごいスピード感でオンラインイベントをされていますね。そこまで「突き動かしたもの」とは何だったのですか。

4月の段階で、まだ日本の学校ではほとんどオンライン授業の在り方について事例がありませんでした。そんな中、オンライン授業に取り組んでいる学校の実践をより多くの教育関係者に知ってもらうことで、日本でも、さらに言えば公立学校でも、オンライン授業を広めることができるのではないかと考えたからです。

また、学校が休校になっても学びが止まったままではいけないということで、家庭学習を出し、その成果を学習評価に反映することができるようにする趣旨の通知が文科省から出されました。これを受けて、いろいろな学校で、たくさんのプリントを配布しているという現状を知りました。

学びを止めないためにプリントを配ることしかできないという状況は、子供たちに「勉強はつらいものだ」「勉強は我慢するものだ」ということを教えることになります。これをどうにか止めるためには、子供たちと教員がオンラインで双方向のやり取りができるようにする必要があると考えました。

しかし、一人の教員ができることには限界があったし、一校長ができることも、教育委員会ができることにも限界がありました。だから、本当にいろんな人やものを巻き込んでやるしかない。そんなエネルギーとモチベーションで、オンラインイベントをやっていました。

公立でもできる
――そこから5月27日の大規模なオンラインイベントにつながっていったのですね。

5月に入ると、公立、私立を問わず、全国各地の学校でオンライン授業がかなり広がってきていました。にもかかわらず、「6月から学校が再開すれば、オンライン授業はおしまい」という空気が流れていました。

私は、分散登校にこそオンライン授業が必要だと思っていましたし、これからの時代はオンライン授業とオフライン授業のハイブリッド型の授業にするべきだと考えていました。

また、公立学校にはいろんな壁があって、一部の教員が「オンライン授業をやりましょう!」と声を上げても、つぶされてしまうケースも耳にしていました。「公立だからできない」というのではなく、「公立でもできる!」ということを皆さんにしっかり伝えたいという思いがありました。

そこで5月27日のオンラインイベントは、第1部で小金井市立前原小学校の蓑手教諭と練馬区立石神井台小学校の二川佳祐教諭、私の3人が、それぞれの学校で行っているオンライン授業の取り組みについて報告しました。

5月のオンラインイベントには約2000人が申し込んだ

また、6月から多くの学校が遅れを取り戻すことを最優先し、感染を避けるためにしゃべってはいけないと指導し、学校行事は中止や縮小されると予想されていました。

6月からの教育活動の在り方については、全国の先生たちと改めて問い直したかったし、Withコロナ時代の学びについて共に考えたいと思ったのです。

ふたを開けてみたら、1931人もの方にお申し込みいただき、実際の参加者も1380人ほどに上りました。参加者の半分以上は公立学校の先生です。皆さんの「なんとかしたい」という思いが、多くの人を集めてくれたんだと思っています。

イベントを通して呼び掛けたことは、「1人じゃできないことも、1000人だったらできるかもしれない」ということ、そして何よりも「まずやってみよう!」ということでした。

1380人の参加者がアイデアを出し合い、誰かが実践し、誰かが広めてくれたら、日本の教育が、学校がもっと良くなるかもしれないと思ったのです。

今まで学校は閉ざされた文化の中で、隣の学校ですら何をやっているのか分からずにいました。その意味では、こうしてオンラインで横につながれたというのは、素晴らしい機会だったと思います。

参加できない子へのフォローができた
――5月に入ってからZoomによる朝の会も行われていたそうですね。どのようにオンライン化を進めたのですか?

オンラインイベントで皆さんに「まずやってみましょう!」と呼び掛けた手前、まずは自分がやらなければと思い、「このイベントで学んだことを生かして、自分もオンライン化に取り組んでみます」と宣言したんです。

すると、皆さんが「管理職や教育委員会への提案書をこうやって出したよ」などと、データやアイデアをシェアしてくれました。

そうした資料を基に自分も提案書を作成し、4月28日には本校の校長に提案し、その数日後には調布市教育委員会でプレゼンする機会をいただき、5月の連休明けに本校で実証テストをやる許可が出ました。

5月11日に初めて6年生全体で「Zoom朝の会」をやることにしたのですが、果たしてどのくらいの子供たちが参加してくれるのか、あるいは参加できるのか、不安がありました。しかし、何と初回にもかかわらず、90%近くの子供たちが参加したのです。

そして、その2日後には市内の全学校でZoom使用の許可が下り、本校でも5月15日から全学年でZoomによる朝の会を実施できるようになりました。

市内の全学校でやるためには、学校ごとにZoomのアカウントを作らなくてはいけませんでした。そのためのマニュアルや使い方のムービーを作るなど、細かい仕事もたくさんありました。しかし、それらも市教委の協力の下、2日ほどで完成させることができ、すごいスピード感で実施までこぎ着けられたと思います。

――Zoomによる朝の会は、どの学年でも参加率は高かったのですか?

1年生から3年生までは学童に行っている子が参加できないので、その分、参加率は下がりました。それでも70%ほどの参加率がありました。

学年が上がるほど、自分のデバイスを持っている子や、自分で操作できる子の割合が上がるので、参加率は高かったです。ちなみに6年生の本学級の場合、参加率は平均95%、欠席者数は平均1.5人でした。

オンラインで何かやるというときに、「デバイスがない家はどうするの?」「Wi-Fi環境がない家はどうするの?」「学校のパソコンでやっていいの?」など、たくさんの縛りがあって、踏み出せなかった自治体や学校が多かったと思います。

まずやってみることが大切だと庄子教諭は指摘する

でも、やれない子も、やれない原因も分かってもいないのに、やらなかったことが一番の問題です。やってみたら、誰が入れないのかが分かります。入れないのはデバイスがないからなのか、ただ単に忘れているだけなのか、保護者が入らせたくないのかも分かります。

3月から休校になって、私たちはずっと子供たちに会えていませんでした。週に1回電話するだけでは、それこそ虐待やネグレクト的な状況までは見えてきません。多くの子供とオンラインでつながることで、「この子は入れていないから、電話を掛けてみよう」ということができたのです。

多くの子供が参加できたことだけでなく、参加できなかった子への手厚いアプローチができたことも、子供たちとオンラインでつながれたことの成果だったと思います。

(松井聡美)

【プロフィール】

庄子寛之(しょうじ・ひろゆき) 東京都調布市立多摩川小学校指導教諭。前女子ラクロス19歳以下日本代表監督。2019世界大会日本史上最高タイ5位入賞。学研教育みらい道徳教科書編集委員。みずほフィナンシャルグループ金融教育プロジェクトメンバー。文部科学省がん教育教材作成ワーキンググループ委員。著書に『学級担任のための残業ゼロの仕事のルール』、共著に『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』、編著に『Withコロナ時代の授業のあり方』(いずれも明治図書)など多数。


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