【戦略的国外逃亡のススメ】旅しながら学ぶ新しい高校

昨年4月、画期的な学習スタイルの高校「インフィニティ国際学院」が誕生した。特定の教室を持たず、生徒は世界中を旅しながら、現地の人や文化に触れ、グローバルな視点を身に付ける。同校を立ち上げた大谷真樹学院長はこれまで、「日本の学校教育の停滞」について苦言を呈してきた。そんな大谷学院長に、コロナ禍で日本と海外の教育レベルの差が浮き彫りになった今、日本の学校教育はどこに向かうべきなのかを聞いた。(全2回)

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「どうしたらいいですか」が口癖の若者
――以前から、日本の学校教育の在り方に苦言を呈されていますね。

2年前の2018年3月まで八戸学院大学の学長として6年間、日本の若者たちと身近に接してきました。そうした経験の中で、日本の若者たちが想像以上に危機的状況に置かれていると感じました。就職がゴールになっていて視野が極端に狭く、「大手企業への就職」「公務員」「資格試験」といった数少ない選択肢しか見えていない――、そんな姿にがくぜんとしたのです。

私たちが若いころはネットが今ほど発達しておらず、みんな海外の情報に飢えていて、チャンスがあれば外に出て行きたい人が多かったように思います。しかし今の若者は内向きの傾向が強い。

もちろん海外に目を向ける子もいますが一部にすぎず、特に地方の学生は内向きの傾向が強いと感じます。どうなりたいのか、どんな生き方をしたいのかと問うても、一切語れない若者も多い。さらには、「どうしたらいいですか」「どこの会社に行けばいいですか」と、すぐに答えを求めてきます。

そんなあまりにも情けない若者の姿と向き合ってきて、「これはなんとかしなくてはいけない」と常々感じてきました。

なぜ、このような若者が生まれるのだろうかと、日本の教育の移り変わりについて調査しました。すると、変化を恐れる若者をつくっていたのは、150年前から変わっていない日本の教育システムそのものだったのです。戦後の高度経済成長期のイケイケドンドン、ただがむしゃらに頑張れば伸びた時代はそれでよかったでしょう。しかし、これからの時代は、何が起こるのか分からない。

今回の新型コロナウイルスもそうですが、ゲームチェンジャーが次から次へと出てきて、一夜にしてルールが変わることもあります。これからの時代を生き抜く人々には、そうした変化に対応する力が求められているのです。しかし、日本の教育はそこに合致できていません。

――そういった危機感から高校をつくったのですね。

そうです。「自分たちが日本を、世界を変えてやるんだ」というマインドを持った若者を育てていかないと、日本が危ないと心底感じました。マインドセットを変えるためには大学生になってからでは遅く、その前段階である高校をつくろうと考えました。

大谷真樹学院長(オンライン会議システムで取材)

また、2年ほど前に観光で山口県にある「松下村塾」を訪れました。この私塾はご存じの通り、今で言うアクティブ・ラーニングの手法をとっていて、教師が答えを教える形ではなく、みんなでディスカッションを重ね、一人一人が考える学びを展開していました。

そこから英国に留学した「長州ファイブ」が生まれ、英国の産業革命の情報が日本に持ち込まれ、日本がどんどん変わっていきました。今まさに日本に必要なのは、彼らのような意欲を持った若者だと思ったのです。

日本の教育は鎖国状態と言っても過言ではありません。それを打破するためには、世界に飛び出す若者をこの手で輩出しなければいけないと、焦りにも近い気持ちで学校をつくり始めました。

30年前の価値観で進路指導をするな
――インフィニティ国際学院は教室を持たず、世界各国を旅しながら学ぶ画期的なスタイルを採用しています。

学校をつくるに際しては、まず日本の古いシステムではなく、新しい仕組みの中でつくる必要があると思いました。ちょうどその時知ったのが、特定のキャンパスを持たず世界各地を移り住みながらオンラインで授業を受ける、米国のミネルバ大学です。

この仕組みを日本の高校でも取り入れる方法を考え、通信制高校との連携を思いつきました。通信制高校で高校の卒業資格を取りながら、空いた時間を使って世界中を旅する、いわゆる「キャンパスを持たない高校」です。

世界を見て歩き、世界の見聞に触れる。これは本来、深い学びの前段階に必要な刺激ではないでしょうか。明治維新の時代に世界を見た若者が日本を変えたように、今の閉塞(へいそく)した日本を変えるには、グローバルな視点や地球規模の社会課題を理解した上で高校を卒業し、より専門的な高等教育を受けた若者だと思うのです。

日本型教育システムにはそのプロセスが抜け落ちているから、子供たちが偏差値や有利になる入試日程なんかで、進路を決めてしまう。もっとひどいのは「先生が言ったからここを受けました」など、主体性が皆無な志望動機です。

――自分の進路にもかかわらず、教師や保護者任せで選んでしまう生徒が増えているのかもしれませんね。

教師が世界情勢をしっかり知っていて、世界の大学事情に詳しければよいでしょうが、実際には視野がとても狭い。職員室のような狭いコミュニティーに閉じこもり、プライベートも意図的に外部を遮断しているようにさえ見えます。ツイッターやフェイスブックなどSNSを活用して情報の発信・収集をしているのも、一部の教師だけです。

そうすると、教師と社会に距離が生まれます。業務に追われて外部との付き合いも広げられず、学校と自宅を往復する毎日の中で、世の中との接点が圧倒的に少なくなっています。そんな教師の進学に対する価値観は、進学塾や予備校など受験産業からもたらされる情報で構成され、その延長線上で生徒の進路指導をしてしまいます。

偏差値や就職率、大手企業への就職が何人だったか――、そんなくだらない情報を基に指導しているにもかかわらず、生徒も保護者もそれ以上の情報を持っていないから従ってしまいます。果たしてそんなロジックで、子供たちの未来を決めていいのでしょうか。

そんな教育を受けている若者たちは「自分はこれを解決したいから、これを学びたい」という当たり前の動機が欠如しています。自分の狭い視野と、教師や保護者の30年前の価値観だけで、将来を安易に決めてしまっていて、とてももったいなく、残念な現状があります。

「吹きこぼれ」が集う新しい高校
――学校は昨年4月に開校しましたが、どのような生徒が集まり、どのような学びを展開しているのでしょうか。

こんなチャレンジングな学校ですから、まず定員10人でスタートし、初年度は7人が入学してくれました。集まったのはすごく個性的な子たちで、一言で言えば「吹きこぼれ」。落ちこぼれじゃなくて、吹きこぼれです。日本の学校の形式的な授業では満足できず、自分の興味が教科書では収まりきらないほどたくさんある子たちが集まっています。

昨年度、フィリピンの語学学校で現地の若者と交流するインフィニティ国際学院の生徒

本校での1年目は、当学校法人が運営するフィリピンの全寮制英会話学校で英語力をつけます。マンツーマンの指導で、徹底的に英語力を磨くんです。

英語そのものはもちろん、英語を使ったロジカルシンキングやディベート、プレゼンの手法も身に付けます。さらに、英語を使って動画編集の方法を学ぶ授業もあります。そうした学習を軸に、昨年は深センや香港、マレーシアを短期で訪れました。

英語力を高め、英語でディスカッションする力を付けた上で、2年目で初めて世界を旅しながらの学びが始まります。今年度は、1年間で20カ国以上を回る予定でしたが、残念なことに、コロナ危機の影響で不可能になってしまいました。

今はオンラインで世界中とつながってディスカッションをしています。コロナ危機が落ち着いたら、まずは国内を回り、日本を知る学びを深めようと企画しています。

――この1年間、生徒たちと向き合ってきて手応えは得られましたか。

入学当初は「米国の大学に行きたい」「アフリカに興味がある」など、目標や動機がぼんやりとした生徒が多かったのですが、この1年間で随分と変わりました。というのも、学校では常に外部講師を招き、大人との接点をつくって、生徒の視野が広がる仕掛けを組み込んでいるからです。生徒たちは新しいことを知ると、興味もキャリアイメージもどんどん変わっていきます。私は、その変化こそ素晴らしいと感じています。

そもそも日本の学校では、そんな変化は起こらないでしょう。日本はどちらかといえば変化がネガティブに受け取られがちで、我慢が美徳とされ、「石の上にも三年」なんて言葉もあるくらいです。でも、世の中が刻々と変わっているのだから、自分のキャリアプランもどんどん変わって当然だと思いませんか。

貪欲に、生きる力を育む
――教育の最上位目標は何だと思われますか。

自分で生きる力、生命力を養うことですね。そのときに必要なスキルやナレッジは、時代やその時々の環境によって違います。共通して必要なのは突破する力、つまり自分で生きる力だと思います。

語学だけでなくその土地の文化や歴史、生活にも触れた

学習指導要領も「生きる力」という言葉を示していますが、どうも薄っぺらい気がしてなりません。

私は、これまで仕事やプライベートで世界中を回ってきました。アフリカやアジアの貧困地域を見たとき、子供たちの生きる力に感銘を受けた経験が、教育者としての基盤となっています。

彼らは知恵というか、貪欲さを持っています。生活の中から学ぶし、その時々に必要なものをどんどん身に付けていくんです。つまり教えてもらうのではなく、学び取る。その在り方こそが本来の学びであり、生きる力だと思いました。

そうしたマインドセットさえ持てれば、どんなに環境が変わっても新しい知識を自ら取りに行ける。日本は与える教育がメインなので、必要があるものもないものも、ごちゃまぜにして一律に与えてしまう。だから子供たちは興味をなくしてしまうのです。

人間は、本人が必要だと気付いたときに初めて、貪欲に学ぶんです。日本の子供たちも教室を飛び出し、地べたを這(は)うような強烈な原体験をどんどんして、本来の学びの意味を理解してほしいと思います。

(板井海奈)

【プロフィール】

大谷真樹(おおたに・まさき) 1961年、青森県八戸市生まれ。学習院大学経済学部卒業。NEC勤務を経て、㈱インフォプラント(現㈱マクロミル)を創業。2001年に起業家のアカデミー賞といわれる『アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・スタートアップ部門優秀賞』を受賞。08年に八戸大学客員教授、10年に八戸大学・八戸短期大学総合研究所所長・教授、11年に八戸大学学長補佐、12年から18年3月まで八戸学院大学学長を務めた。大学では「中小企業・ベンチャー企業論」「イノベーションマネジメント」「新農業ビジネス」などの科目を担当。社会人講座「起業家養成講座」の主任講師も務め、数多くの起業家を輩出している。著書に『世界で学べ』(サンクチュアリ出版)などがある。


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