【戦略的国外逃亡のススメ】日本型教育からの脱却

特定の教室を持たず世界中を旅しながら学ぶ高校、インフィニティ国際学院。この学校を自ら立ち上げた大谷真樹学院長は、コロナ禍で混乱する学校現場に向けて、海外の学校情報の発信や、教師向けのコミュニティーの立ち上げなどの活動を積極的に展開してきた。「日本の教育の混乱から身を守るには、戦略的に国外逃亡して世界級の視野と経験を身に付けよう」と子供に呼び掛ける大谷学院長に、これから日本の学校と教師は何を目指すべきなのかを聞いた。(全2回)

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反転授業がさらに加速化
――コロナ危機により、学校現場は誰も予想していなかった事態に陥りました。

私もこんなことになるとは予想していなかったので、最初は混乱しました。ただ、今こそ、日本の変化できない教育を変えるビッグチャンスだと考えています。今年、来年と、しばらくはコロナと共存していかなければなりません。学校現場はさまざまな手段を使って、「学びを止めない」を実現させる必要があります。

その1つがオンラインの活用です。これまでの学び方といえば教室での一斉授業が当たり前でしたが、今回を機に個別最適化が加速していくと思います。私学の進んでいる学校では全面的にオンラインに移行して、反転授業が行われています。最初にアプリや動画で基礎を学んだ上で、それぞれの学びをシェアする方法です。以前から理想とされてきた反転授業ですが、学校でオンラインが多用されるようになって、より広まっていくでしょう。

ですから、今回のコロナ禍は決して悪いことばかりではないと前向きに捉えるようにしています。

――学院長を務めるインフィニティ国際学院の強みは、生徒が世界中を旅し、直接その国や文化に触れられるところだと思います。コロナ禍で制限がある中で、どうやって学びを展開しているのでしょうか。

私たちの学校は4月からオンラインに切り替えて、その良さや可能性の広がりを感じています。

今は週3回、いろいろな国のゲストとオンラインでつながり、対話を楽しんでいます。もともと2年目に行く予定だった国はもちろん、行かない予定だった国の人も招き、生徒たちはユニークな大人と日々、交流しています。

オンラインで学習を進めるインフィニティ国際学院の生徒ら

オンラインでよかったと思うのは、入国できない国の人ともつながれる点です。先日はイスラム教の国で現地の人と結婚し、そこで生活している人に話を聞きました。

普通なら会えるはずのない人の話をリアルタイムで聞けるのですから、これはこれで可能性が広がりました。そうした経験を基に、「イスラムとは何か」と生徒たちがディスカッションする姿を見ると、これはものすごく深い学びだと実感します。

例えば来年コロナが落ち着いて、あるいは彼らが大学生になって、自分で実際にその国を訪れてみると、次はその学びを五感で感じられるわけです。そうした追体験ができれば、学びはより一層深まります。

「今はオンラインでしかできない」と思わず、「オンラインだからこそ世界中から来てもらえるし、世界中を回れる」と、教員も生徒も捉えています。

「そもそも論」に気付いた子供と保護者
――アフターコロナの日本の教育をどのように見ていますか。

今も問題になっていますが、コロナを機に積極的不登校が増えていくでしょう。現状でも不登校は、潜在的なものを含めると30万~40万人と言われているので、かなりの数に膨れ上がります。積極的不登校を選ぶ子供や保護者には、「感染のリスクを負ってまで教室に行きたくない」「基礎疾患があるから重症化のリスクが高い」など、さまざまな理由があります。

それと同時に、この一斉休校で「そもそも学校って何?」「そもそも教室に行って、みんな同じスピードで同じ教科書を学ぶ必要なんてあるの?」と、「そもそも論」に気付いてしまった子供や保護者がいます。そうした人たちは、これからもどんどん増えていくと思います。

そうなると、今後は当学院やN高、Loohcs(ルークス)のような、いわゆるオルタナティブな学校のニーズが高まっていくでしょう。新しい形を魅力に感じつつ、これまではどこかで不安を感じて二の足を踏んでいた子供や保護者が、コロナをエクスキューズに背中を押されて、こちら側の学校を選ぶ時代がくるのではないかと見ています。

――教師の在り方についても、さまざまなところで議論されています。

コロナ禍で困っている教師に、情報ツールとして活用してほしいと、4月にフェイスブックで「コロナ対応で困っている【先生たち】の情報共有グループ」を作りました。コロナ対応をどうするかといった学校現場のことや、「Zoomってどう使うの?」「パワーポイントのスライドとどう連動させるの?」といったテクニカルの部分まで、悩みや情報を共有しています。

大谷真樹学院長(オンライン会議システムで取材)

作って3日で1000人を超えて、今は約3800人が参加しています。日本国内や海外、公立や私立など、地域や学校種の枠を超えて多くの教師が集まりました。

そこで垣間見えたのは、教師の混乱している姿です。コロナ前まで狭い世界で安心して過ごしていたのが、部活もできない、授業もできないという異次元に放り出され、困っている状態でした。そうした状況を見ながら、教師にも変化が求められているのだと心底感じました。

まさに答えのない世の中で、教師一人一人が生き方を問われているのです。本来は、これからの時代を生きる子供たちが学ぶことですが、皮肉なことに教師が今まさにこれを求められているのです。

感度の高い教師ほど焦っている
――教師一人一人は変えたいと思っていても、組織全体を動かすのは難しいといった声も聞きます。

文科省は「何とかしろ」と声を上げている印象ですが、教委や校長が硬直化しており、ネックになっているのではないでしょうか。現場の教師は危機感を持って必死だし、いろいろなアイデアも持っている。でも、その間にいる教委や管理職がこれまでの前例主義から抜け出せず、決断ができていないように見えます。

今までのように、リスクが少しでもある状況を排除しようと考えていると、何もできなくなってしまいます。

――今必死で変えようと動いている教師も疲弊して、せっかくの変化が元に戻ってしまう可能性もあります。

私もそれが一番心配です。せっかく変わるチャンスなのに、戻しちゃいけません。コロナ以前の学校教育は、150年間ほとんど変化できていませんでした。今、戻る選択肢をとってしまうのは、150年前に戻るのと一緒ですからね。

私のツイッターのフォロワーは圧倒的に教師が多いのですが、皆さん「このままではいけない」と本当に焦っています。優秀な先生や感度の高い先生ほど焦っているし、疲弊してしまうのではないかと危惧しています。

一方で、職員室から解き放たれ、視野を広く持てる教師が増えてきたのも事実です。というのも、このコロナ禍でSNSを活用して教師同士が横のつながりを持つ機会が圧倒的に増えました。いろいろな教師が情報共有をし始めて、他の世界が見え始めたのはとても大きいことだと思います。

今まではある意味で「井の中の蛙(かわず)」状態でしたが、他校の取り組みが可視化されました。特にオンラインの取り組みがどんどん発信されて、「うわ、他校はすごいな」と刺激されると同時に、焦りを感じている先生も増えているように思います。

英語が義務の時代に生きる子供たち
――以前から、教育にグローバルな視点を取り入れることの必要性を訴えていましたが、アフターコロナの教育ではいかがでしょうか。

これまではパスポートを取って、飛行機に乗って現地を訪れなければ、グローバルを体験することはできませんでしたが、オンラインの発展は全てを変えました。

オンラインを活用すれば、日本にいながらヨーロッパの人々とコミュニケーションをとれるし、米国の学者と意見交換もできる。あるいは、そうしなければいけない場面が出てくるでしょう。その場では、いや応なしに共通言語である英語でディスカッションしなければなりません。これからは日本の企業で働いていても、突然ZoomのURLが送られてきて、会議に参加してみたら全員が外国人だったみたいなことが起こり得るんです。

これからの子供たちはオンラインでグローバルにアクセスしやすくなった代わりに、そこで対等に話せるだけの英語力を身に付ける必要に迫られています。

大谷学院長は世界中を回り、若者と対話を続けている

あと、これから変化が起きると思うのは海外の大学です。コロナの影響もあり、ハーバード大やケンブリッジ大など海外の大学が軒並み、授業をオンライン化しました。コロナが終息したら対面式に戻るかといったら、一部はそうかもしれませんが、基本的にはオンラインであり続けると思います。

米国では大学の授業料の高騰が社会問題になっているので、オンラインだとコストダウンできます。さらにトランプ大統領は、米国に来る留学生にビザを出さないなど締め出しをしています。そうなると、どの大学も授業料獲得のためにオンラインで受講する学生を獲得したいし、門戸を広げるのではないかと見ているんです。

一方で、日本の高校生はそんな刻々と変わる世界情勢を知らず、相変わらず「MARCH」や「関関同立」など、昔ながらの偏差値ランキングで右往左往しています。このまま放置すると、日本と世界の差はますます開くでしょう。

――現場の教師へアドバイスはありますか。

「つながれ」と、伝えたいですね。これまでの限定的な価値観や職員室の狭い世界だけじゃなく、地域や職場を超えたつながりを持ってください。皆さん、コロナの危機対応で改めて情報の重要性に気付いたはずです。つながりの先には、ヒントやナレッジ、解決策、知恵がありますし、何より改革のための勇気が生まれます。特に変化や危機対応について考えるときは、つながりを生かした方がいい。つながることは、力になるんです。

日本には素晴らしい教師やチャレンジしている教師がたくさんいるのだから、孤立するのはもったいない。これを機にみんなでつながり、頑張っている人がくじけない学校現場になってほしいと思います。

(板井海奈)

【プロフィール】

大谷真樹(おおたに・まさき) 1961年、青森県八戸市生まれ。学習院大学経済学部卒業。NEC勤務を経て、㈱インフォプラント(現㈱マクロミル)を創業。2001年に起業家のアカデミー賞といわれる『アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・スタートアップ部門優秀賞』を受賞。08年に八戸大学客員教授、10年に八戸大学・八戸短期大学総合研究所所長・教授、11年に八戸大学学長補佐、12年から18年3月まで八戸学院大学学長を務めた。大学では「中小企業・ベンチャー企業論」「イノベーションマネジメント」「新農業ビジネス」などの科目を担当。社会人講座「起業家養成講座」の主任講師も務め、数多くの起業家を輩出している。著書に『世界で学べ』(サンクチュアリ出版)などがある。


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