【教員のメンタルヘルス】コロナ危機下の不調に要注意

長い休校期間を経て学校現場が動き始めてから、およそ2カ月が経過した。夏休みの短縮や制限のある学校生活、校内の消毒作業など、以前からは想像もつかない新たなスタイルの学校運営が求められている。児童生徒たちへの影響もさることながら、この混乱下で奮闘し続ける教職員のメンタルヘルスも悪化が危惧されている。自分自身ではなかなか気付きにくいメンタルの不調。コロナ禍において、子供たちの学校生活と教職員の心の健康の両立に向け、何をするべきなのだろうか。

東京都教職員互助会三楽病院でメンタル不調を抱えた教員を診察する真金薫子精神神経科部長と、教職員のメンタルヘルス対策に注力する東京都品川区の義務教育学校、品川区立豊葉の杜学園に話を聞いた。

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ストレスのトップは「感染への不安や緊張」

新型コロナ感染対策をしながらの学校運営について、教職員の心身への過度な負担が懸念されるとして、文科省は6月末、教職員のメンタルヘルス対策に関する通知を出した。学校での感染のリスクを可能な限り低減しつつ学校運営を進めるに当たり、「教職員は勤務環境や業務内容が通常時とは異なる中で職務に従事しており、そのことが精神的な緊張や心身の過度の負担につながる」と指摘した。

さらに対策として人的体制の整備や、土曜日に授業を行う場合の週休日の適切な振り替えなどを挙げ、メンタルヘルス不調などへの相談体制の充実についても触れた。

精神疾患を抱える教員の数は高止まりしている

同省の調査によれば、教職員の精神疾患による病気休職者数は、直近(2018年度)で5212人に上り、過去10年間にわたり5000人前後と高い水準が続いている。この状況を踏まえると、コロナ禍での学校運営が現場の教職員たちに過度な負担を強いて、精神疾患による休職者がさらに増加する懸念も拭い切れない。

教育新聞は「新型コロナウイルス対策をしながらの学校活動で、あなたが最もストレスを感じるものは何ですか?」というテーマで7月20日より、「Edubate」の読者投票を募った。

29日正午時点でストレス原因として最も多く挙がったのは、「感染への不安や緊張」(33%)だった。北九州市などで発生した学校内での集団感染の事例や、感染の第2波の可能性など、さまざまな不安や緊張感、リスクを抱えたまま、教職員が教壇に立っている実態が浮き彫りとなった。

次いで、▽消毒など新しい業務 23%▽授業での活動の制限 12%▽土曜授業など不規則な対応 7%――と続き、コロナ禍の学校活動で発生する“イレギュラー”が、教職員のストレスを助長させていることが読み解ける。

またコメント欄には「マスクなどについて注意することが増えたり、活動が制限されたりすることでのストレスは、教員にも子供にも増え、もう二度と元には戻らないのではないかと、悲観的になることさえある」「これまでやってきた主体的で対話的な深い学びの実践を行うことが難しくなってしまった。グループ活動が厳しい状態中での深い学びの実践は厳しい。また、部活動においては完全なる直接指導となり、放課後の時間がなくなる。それでも『早く帰れ』と言われ結局、家に仕事を持ち帰ることになる。働き方改革の実践は都市伝説となった」――など、不安と多忙でがんじがらめになった教職員の声が寄せられた。

一方で、「休校前とそれほど変わらない」(3%)、「休校前よりストレスが減った」(2%)などといった前向きな意見もわずかながら見受けられた。

業務の増加、人間関係のトラブルが引き金に

東京都教職員互助会三楽病院で、メンタル不調を抱えた教員を多く診察している真金薫子精神神経科部長によると、休校中は「業務が減って少しゆとりを持てた」という教員や、「自分のペースで仕事を進められた」という教員もいたようだ。

メンタル不調を抱える教員を多く診察する、三楽病院の真金薫子精神神経科部長

ただ一斉登校が再開してからは、生徒同士や自分自身の感染への不安に加え、手洗いの管理や消毒などの新しい業務が増えたという声を聞くようになった。学習の遅れを取り戻すために土曜日の授業が増え、休みが取りにくいケースもあるという。

さらにメンタル不調の引き金になりやすいのが人間関係。特に初任者や異動したばかりの教員にとっては、「人間関係を作りにくいことによる悩みが、これから徐々に出てくるのではないか」とみる。サポート役の先輩教員が多忙になったり、歓迎会などの機会がなくなったりして、コミュニケーションを取る機会が減っている。

特に初任者にとっては初めての社会人生活で、さまざまな年代の人とともに働くことに慣れていない。自分から話せない、実態を伝えきれないという状況に陥りがちになる。

真金部長は「まずは人的体制を整えることが重要」と強調する。「人手があれば時間的なゆとりも生まれ、若手教員が質問したり、若手の実践を先輩が見て確認したりといった対応がしやすい。逆に先輩に余裕がなく、十分に意思疎通が図れないまま指示をしても、若手は何をしてよいか分からず、かえって人間関係の悪化につながる」と話す。

メンタル不調を防ぐ組織作り

人的体制を整え、教員のメンタルヘルス問題に立ち向かう学校がある。義務教育学校の品川区立豊葉の杜学園(二宮淳統括校長、児童生徒1009人)では、コロナ危機下のメンタルヘルス対策を、働き方改革とともに進めている。

これまでも各学年の教員でチームを作り、学習指導、生活指導、保護者対応などにチームで対処する仕組みを作ってきた。小学3年生からは理科・社会・国語・体育で教科担任制をとっており、一人の子供に複数の教員の目が届く。

学年をまたぐ校務についても、小中教員による義務教育学校ならではの混合チームを作って対応している。こうした仕組みで、経験の浅い教員などが誰にも相談できないまま一人で問題を抱え込み、「周りが気付いた時には、大変なことになっていた」という事態を防ぐ。

各チームにはある程度の裁量を持たせ、メンバーの特技を生かした教育活動を進める一方、緊急時にはトップの意思決定を明確にしている。二宮統括校長は「この組織の在り方がコロナ禍において、スピーディーな問題解決につながった」と振り返る。

働き方改革とともにメンタルヘルス対策を進める、品川区立豊葉の杜学園の二宮淳統括校長

緊急事態宣言が発令された4月、二宮統括校長は教員に対し、完全に在宅勤務として教材研究を行うよう指示。教員には学校再開後、どの単元を組み合わせて効率的に授業を進めるかを集中して考える時間ができた。

これまで小学校では45分、中学校では50分授業としていたが、再開後は小中とも40分授業とし、休み時間も確保した上で通常より早く帰宅できるよう、1日の時間割を見直した。

また、4月には「働き方改革推進委員会」を正式に立ち上げ、その中にメンタルヘルスマネジメントを位置付けた。委員長の中堅教員は、「伝達不良をなくすための工夫」「心身が疲れ果てる前に助けを求めよう」といった、働き方改革を教員に自分ごととして考えさせるための情報を発信している。

コロナ禍で増えた業務には外部人材も活用する。教員が在宅勤務をしている間、近隣に住むスクール・サポート・スタッフが来校し、家庭学習教材の印刷や製本作業などで活躍。教室外の消毒や清掃には民間委託の用務主事が当たっている。

さらに区が推進する品川コミュニティ・スクールの制度を活用し、学習の遅れを取り戻すための補習を放課後、地域の指導員が行っているほか、児童生徒や教職員のメンタルヘルスについて臨床心理士に相談する機会なども得られている。

二宮統括校長は「学校では教員に『何をどれだけさせるか』ということに目が行きがちだが、いかに『させないか』という考え方が重要。教員は授業計画など、教員として考えなければいけないことに集中し、それ以外の他に任せられる業務は任せる、という振り分けを意識する必要がある」と話す。

不眠が続くなら早めの受診を

「不調を感じてもなかなか休みを取ることができずに数週間、時には数カ月が経過し、状態が悪化してから受診に訪れる教員が多い」と、三楽病院の真金部長は明かす。「うつ病や適応障害の初期症状に不眠がある。市販薬を試しても改善しないようなら早めに受診してほしい。睡眠不足は免疫力の低下につながりやすく、新型コロナウイルスの感染リスクがある状況下では、対応を遅らせることは望ましくない」と強調する。

部下である教員の不調に気付いた管理職はどう対応すべきか。「まずは業務の負荷を減らし、早めに帰宅させるなどの対応を取るべき。さらに人間関係が原因の場合はストレスを避けるため、不調を抱える本人が苦手とする人とは直接の関わりを持たせないようにする配慮も必要」だという。

これまでの疲れが知らず知らずのうちに蓄積している可能性もある。今年は夏休みが短縮される学校も多いが、「夏休みにはしっかりと疲れを取って、新学期に臨んでほしい」と真金部長は話す。

今年は新型コロナウイルスの影響で、夏休みを自宅で過ごす人も例年より多いだろう。ただ、「生活リズムを崩さないようにし、体力が落ちないよう適度に運動することが大切」だという。

(秦さわみ、板井海奈)


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