米国のインクルーシブ教育 小さな学校に未来を見る

「つながり」の弱さ

米国のインクルーシブ教育は、「違い」を重視することで、無理に「同じ」にこだわらず、結果としてさまざまな子供たちを包摂しやすいことを前回の連載で書きました。

一方、ここだけの話、米国のインクルーシブ教育を見て、少し物足りなさを感じたのも事実です。子供同士のつながりが弱いからです。

授業は子供たちの違いを踏まえて行われているのですが、(うーん、言い方に語弊があるかもしれませんが)子供同士の関係がバラバラに見えるのです。

あるインクルーシブで有名な保育園に見学に行ったときのことです。確かに、それぞれの子供の特性に合った、丁寧な関わりがなされていました。遊具や教材も工夫されており、さまざまなヒントをもらうことができました。

一方で、保育者が子供同士のつながりを積極的につくろうとはしていないことが印象に残りました。

例えば、ある子供がターザンロープにチャレンジしています。他の数人の子供は列に並んで待っていました。このような状況の時、日本の保育者であれば、ロープにチャレンジしている子供だけでなく、待っている子供に「お友達が頑張っているよ。『頑張れ~』って言おうね」などと声を掛けることが多いでしょう。意図的に子供と子供をつなげようとする間接的な指導です。

小さな異年齢教育の学校に出合う

このようにして子供同士をつなげ、社会性を伸ばそうとする教育的な営みは、日本ではおそらく意識しないほど当たり前のように行われていると思います。日本の教育者が、このような子供同士のつながりこそが、子供の発達と学習を豊かにする源泉であると感じているからでしょう。

そういう意味で、米国のインクルーシブ教育にたくさん学ぶと同時に、物足りなさを感じていました。

そんな時、とてもユニークな学校に出合いました。ニューヨーク州シラキュース郊外にあるNew Schoolという私立学校です。全校在籍児が30人ちょっとの小さな学校です。障害のある子供も複数在籍しています。

さまざまな経緯があって、娘がこの学校に通い始めました。保護者としてはもちろん、研究者としても、この学校のユニークさに魅了されるようになり、足しげく通うことになりました(詳しくは拙著『アメリカの教室に入ってみた』ひとなる書房を参照)。

New Schoolの特徴の1つは、異年齢教育を行っている点です。年長児から中学2年生までがごちゃまぜになって学びます。同年齢学級よりもスケールが大きいインクルーシブ教育です。

「流動的異年齢教育」が行われているNew Schoolの教室(著書『アメリカの教室に入ってみた』ひとなる書房より転載)

とはいえ、四六時中、異年齢集団で学んでいるわけではありません。さまざまな学習形態の中で学んでいます。

1日の中で「一人で学ぶ」時間、「少人数で学ぶ」時間、「全体で学ぶ」時間があります。さらに「仲の良い友達と学ぶ」時間もあれば、「やりとりが少ない級友と学ぶ」時間もあります。「同年齢の子供と一緒に学び合う」時間もあれば、「中学生の子供が小学低学年の子供に絵本を読み聞かせる」時間もあります。

このように、1日の中で学習形態が縦横無尽に変化しながら学んでいます。私はこの教育スタイルを「流動的異年齢教育」と名付け、新しいインクルーシブ教育の方向性を示すものと考えています。

「違い」と「つながり」の組み合わせ

流動的異年齢教育のメリットは2つあります。

1つ目のメリットは、子供それぞれの違いに配慮した学習を進められる点です。違いに合わせることで、「3年生だから3年生の算数を学ぶ」必要がなくなります。その子の理解や関心に合わせて学習内容を配置することができます。

障害のある子供にとっては、自分の「できる・分かる」ところから出発できるため、自分の障害を感じにくく・感じさせにくくなります。

2つ目のメリットは、子供たち同士がつながりやすくなることです。子供それぞれの違いを配慮していますが、ずっと個別にバラバラで学んでいるわけではありません。算数の程度が似たような子供同士で学ぶことで、お互いに切磋琢磨(せっさたくま)しやすくなります。

また、人見知りの子供であれば、最初は仲の良い子供と頻繁に学び、徐々に学校に慣れてくると、年上のお兄さんと一緒に学んで、その中で人間関係を無理なく豊かにしていくことができます。

このように、米国で大事にされている「違い」と、日本で大事にされている「つながり」を組み合わせた「流動的異年齢教育」を行うことで、それぞれの子供の学びを大事にしつつ、さまざまな級友とのつながりを深めるようなインクルーシブ教育が展開されます。

もちろん、課題もいくつかあります。子供それぞれに合った学びを展開しつつ、さまざまなつながりのある学習活動を準備するのは簡単ではありません。New Schoolでは、正規の教員が数時間かけて一人一人の個別学習活動を作成しています。そのノウハウなしには実施できないでしょう。

また、流動的異年齢教育をいきなり今の日本の公立学校で実施するのは、さまざまな事情から難しいでしょう(とはいえ、異年齢教育を重視しているイエナプランを取り入れた大日向小学校が開校しているように、「絶対に無理」というわけではないとも思います)。

このように課題は山積していますが、「違い」と「つながり」を意識したNew Schoolの実践は、今後のインクルーシブ教育を考える上で重要なヒントを与えてくれると感じています。

【プロフィール】

赤木和重(あかぎ・かずしげ) 神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授。専門は発達心理学、インクルーシブ教育。保育・学校現場に入り、子供や教師の姿に感動し、それを理論化する仕事をしている。著書に『アメリカの教室に入ってみた:貧困地区の公立学校から超インクルーシブ教育まで』(ひとなる書房)、『目からウロコ!驚愕と共感の自閉症スペクトラム入門』(全国障害者問題研究会出版部)など。

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