【人生の扉を開く起業家教育】深刻なモチベーション格差

他人がつくったモチベーションに操られては駄目だ――。公立・私立の小中高の教諭を経て起業し、起業家支援や地域活性事業などを手掛ける大西正泰氏は、昨今の学校教育についてこう語る。目の前の児童生徒は自身のモチベーションをしっかり見極め、学習に臨めているのだろうか。モチベーションをコントロールし、自分の価値を最大化できる人材を育むために、学校現場に求められることは何なのか。学校現場と実社会の両方を渡り歩いてきた大西氏と共に考える。(全3回)

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学びが手軽なパッケージに
――今の学校教育をどう見ていますか。

教育そのものがお手軽なパッケージ商品のようになっていないかと、危惧しています。「起業家教育」「アクティブ・ラーニング」「対話的な授業」など全部そうです。本来ならパッケージよりも前に学習者のエネルギーがあるべきなのに、手法に「頭が支配されている」ように見えています。

例えばファシリテーターをつけたら、対話的な授業が完成するのかというと、そうではありません。大人も子供もそういうやりやすい型に慣れすぎていて、自分の力で話を進められないようになっているのではないでしょうか。型をなぞっただけで、「対話した気」「対話させた気」になっているように思えてなりません。

大西正泰氏(オンライン会議システムで取材)

どんな学びも学習者のエネルギー、つまりモチベーションがなければ始まりません。子供たちには他人につくってもらったモチベーションではなく、自分自身のモチベーションを取り戻してほしいと思います。

他人や環境に、自らのモチベーションづくりを依存していると、困難に直面したとき、環境に対する批判しか言えなくなってしまいます。自分で自分をコントロールする手法が分からないので、そうするしかなくなるのです。

――そもそもモチベーションは、どうやってつくるものなのでしょうか。

幼児のころを思い返してみてください。単純に言えば、「触る」「変わる」の繰り返しです。「これなんだろう」と思って自分で触ってみて、「なるほど、〇〇か」と感じ取り、自らを変えていく。未知への好奇心、謎への探究心。そこがモチベーションの出発点だと思うのです。

「頭のいい子」は、そのモチベーションのつくり方に長けています。例えば彼らは勉強やスポーツそのものよりも、取り組み方を常に考えています。自分の性格や環境を分析して、「こうやったら集中して勉強に取り組める」「こうやれば苦しい練習を超えていける」といった、自分に合った手段を的確に把握しています。

モチベーションの高め方は、人によって異なります。自分のモチベーションを高める方法や、どうやればパフォーマンスを最大化できるのか、見極めることが必要ですね。

教育のモチベーション格差
――地域を活性化させる「街づくり」の観点から、全国の地方をご覧になっていると思いますが、地方と都市の学びの格差をどう捉えていますか。

今後もっと開いていくでしょう。これまでは特に学力格差が注目されていましたが、モチベーション格差が広がるように思います。

新しい学習指導要領が求めている人間像は、自分でモチベーションを持って、自律的に学び取れる人です。さらに自分自身の価値をしっかりとつくり出せるという教育を求められているわけです。

つまり教師には「勉強をどう教えるのか」ではなく、「モチベーションの作り方を子供たちにどれだけ気付かせられるのか」という役割が求められるようになります。

学力格差よりも、モチベーション格差を懸念すべきと警鐘を鳴らす(大西氏提供)

今のように型だけをなぞった教育では、そこまでたどり着けません。例えばアクティブ・ラーニングを実践しても、「みんなでしゃべって楽しい」というモチベーションを主作用にするのではなく、「問い」や「謎」から生まれる自分自身の問いをモチベーションの源泉にするのではなければ、とても危険です。

特に地方の先生が、それにどれだけ気付けているのだろうと危機感を持っています。都市部には学校現場にとどまらず、教育サービスがたくさんあります。その分、子供たちが学校外で刺激を受けるチャンスも多いことでしょう。

また、地域格差とともに、変われる私立と変われない公立の格差が、圧倒的に広がるのではないかと見ています。

――教師の後は「街づくり」に携わってこられましたね。

街づくりと教育は、とても似ているんです。私が最初に手掛けたのは地元の徳島県にある上勝(かみかつ)町という山岳地帯で、四国の町の中では最も人口が少ない過疎地域です。空き家を直して、そこで起業家を育てて、事業を立ち上げる。それが私の仕事でした。

キャンプ場ができ、映像会社やレストランができて、移住者も増え、日本中から人が集まるイベントが開催される。そうやって町が変わったら、経済面や人の流れだけでなく、住んでいる人の空気感も変わるんです。

例えば、お手伝いを始めて3年がたつ温泉宿。今回の新型コロナウイルスの影響はもちろんありますが、すごく前向きなんです。このコロナ禍で営業できない時間を従業員の研修に使って、より良いサービスを提供しようとプラスに捉えています。

学校にいたときも同じでしたが、何かを変えるにはとても時間がかかります。それと同時に学校で教えるだけが先生ではないし、いろいろな所で教育の力が生かされるということを実感しています。

学校がある町には未来がある
――教師時代も今も大事にしていることはありますか。

こういったプロジェクトを考えるときは、教師時代に授業を考えたときのように、「ワクワクするだろうな」「面白いだろうな」を優先するようにしています。

個人的に、変化そのものが楽しくて仕方がないんですよ。まさに実験。教師時代も、今も続けているのは実験ですね。こうやったらワクワク、面白く、幸せになれるだろうと仮説を立てて、それを実験して、失敗したらまた仮説を立てるの繰り返しです。

――「街づくり」と教育は親和性が高いんですね。

学校がなくなると、いずれ町がなくなります。学校がないとその町で子供が育たない。つまり学校がある町には、未来があるということなんです。学校の先生は、その町の未来をつくっているんですよね。でも、先生たちがその素晴らしい役割について、忘れかけているのではないかと残念に思います。

人口減少のために、日本各地でどんどん学校がなくなっています。私の地元である徳島県は平成に入って以降、200校以上が減少しました。学校の先生にとっては職場が奪われているわけだし、地域にとっては未来への生命線がなくなっているとも言えるんですよね。

新型コロナウイルス感染症を機に、学校や教師の役割が見直されています。教師が町の未来をつくっているという「任務」を再確認してもらい、その面白さや重責を感じていただきたいですね。

(板井海奈)

【プロフィール】

大西正泰(おおにし・まさひろ) 一般社団法人ソシオデザイン理事、吉備国際大学社会科学部経営社会学科講師、地域再生コンサルタント。元社会科教師。私立中学で管理職として“起業家教育”を軸に学校の立て直しに挑むなど、その実践が評価され経済産業省「DREAMGATE」に参加。四国エリアの責任者として起業支援で実績を重ねる。2006年1月に有限会社VentureGenomeを設立。四国における地域再生支援に取り組む傍ら、創業塾講師として全国各地で活躍中。その後、生まれ育った四国徳島の地域再生をしていこうと事業ドメインを変更。12年に一般社団法人ソシオデザインを設立。現在は、徳島県上勝町をフィールドのベースにして、全国各地の自治体向けコンサルティング及び地方創生に関わる講演を行なっている。16年、スローフード日本代表団(イタリア・トリノ)。18年、中小企業庁「創業機運醸成賞」受賞。19年、中小企業基盤整備機構TIP*Sアンバサダー。


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