【北欧の教育最前線】子供と大人を支援する特別支援学校

インクルーシブ教育を推進するフィンランドでは、特別支援学校が減少している。特別支援を要する子供は、地元の学校の通常学級や特別支援学級で学ぶようになりつつある。一方で全国に6カ所、国立の特別支援学校が配置されている。フィンランドの特別支援学校が果たす役割とは何か、その内容を報告する。


地域学校へのコンサルテーションと研修

ヴァルテリ(特別支援学校の総称)では、さまざまな役割の教員や専門スタッフが働いている。ヴァルテリに定期的に通う子供や、長期で滞在する子供の教育を担当する教員のほか、地域の学校へのコンサルテーションを主な仕事とする教員やスタッフもいる。彼らは、必要に応じて地域の学校に赴き、学校の様子を観察したり、教員への助言を行ったりする。

地域の教員への研修も行っており、その内容はニーズに応じて多岐にわたる。例えば、聴覚障害がある子供を初めて担任する教師が、機材の使い方と手話の研修を受ける。視覚障害がある子供を支援するための研修では、誘導の仕方や、体のどこを触れられると不快でないかなどを理解するため、教員同士が目隠しをして実際に体験する。

フィンランドの教員は自分のニーズに応じて研修を選べ、こうした研修は勤務時間内に受けられる。

学習補助機材と教材の貸し出し

ヴァルテリでは地域の学校に対して、学習補助機材の貸し出しの仲介や教材の提供も行っている。

ディスプレーや入力デバイスが工夫されたパソコン(学習補助機材の例)

最近は人工内耳技術が発展し、完全に耳が聞こえない子供は少なくなってきているため、教員の声を聞こえやすくする機材や、視覚的な理解を促す機材(子供専用のパソコンなど)は、子供の学習に非常に役立つ。

ヴァルテリには研究・出版部門もあり、さまざまなニーズを持つ子供の学びを促進する教材の開発・研究を行っている。日々の授業準備や教育活動で忙しい教員にとって、既存の教材を活用できるのは心強いだろう。

学習補助機材や教材の貸し出しは、国や自治体から補助が出ており、地域の学校や子供の家族が経済的負担を強いられることはない。

宿泊訓練とピアサポート

ヴァルテリには、学校と併設して宿泊施設がある。全国にある6校はそれぞれ障害種に応じた強みを持っている。

ユヴァスキュラ市の特別支援学校(ヴァルテリ・オネルヴァ校)

例えばユヴァスキュラのヴァルテリ(オネルヴァ校)は、特に聴覚障害と視覚障害のある子供の教育に長けている。そのためフィンランド全国から、これらの障害がある子供とその保護者(子供の年齢が低い場合)が、定期的に宿泊訓練を受けにくる。

宿泊訓練では、学習補助機材の適切な使用や、子供の発達段階に応じた教材の選定、必要なスキルの訓練などが行われる。

さらに、宿泊訓練の重要な機能として、ピアサポートがある。

フィンランドは人口550万人の小さな国だ。そのため、同じ地域に同じような障害のある子供がいる確率は、首都のヘルシンキを除いて極めて低い。たとえ地域の学校で適応できていたとしても、障害のある者特有の悩みを共有することは難しく、孤立感を感じる子供や保護者も少なくない。

ドアの色、廊下のラインなどユニバーサルデザインを取り入れた宿泊施設

この宿泊訓練は、同じ障害がある子供とその保護者同士が集まり、悩みを吐露して相談し合う場にもなっている。子供や保護者は、ここで同じ悩みを持つ仲間と知り合う機会を得ており、宿泊訓練を楽しみにしている子供も多いという。

このようなシステムの根底にあるのは、「子供だけでなく大人(教員・保護者)もニーズに応じたサポートが必要だ」という考え方と、子供を地域全体で育てようとする姿勢だ。

日本も2012年の文科省の報告書で、特別支援学校のセンター的役割の強化が明言されている。フィンランドの特別支援学校が果たす役割から、学ぶところは大きい。

(矢田明恵=やだ・あきえ フィンランド・ユヴァスキュラ大学研究員。専門はインクルーシブ教育)


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