【深い学びの源】ICTが教師をアップデートする

新型コロナウイルスによって教育活動が制約を受ける中で、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を実現するために、学校にはどのような工夫が求められているのか。北海道で長年、ICTを活用した実践やPBL(Project Based Learning)型のカリキュラム開発に取り組んできた札幌市立発寒南小学校の朝倉一民教頭に、これからの授業づくりに必要な教師の力を聞いた(全3回)。第1回では、新型コロナウイルスによる休校中の取り組みや、ICTによって学校と自身をどう「成長」させたのかにスポットを当てる。

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担任以外の教員から始まった授業動画づくり
――4月に教頭として赴任してから、新型コロナウイルスによる休校が続きました。その間、どんな取り組みをされていたのでしょうか。

札幌市は必ずしも学校のICT環境整備が進んでいるわけではありませんが、そうした中であっても、市教委はさまざまな工夫を考えてくれました。

休校中にZoomを使用することが認められ、子供たちの健康観察を直接、顔を見ながらできるようになりました。ただ、使用できる回線の帯域が狭いので、市内の学校が一斉にZoomを始めてしまうとパンクしてしまいます。そのため、地域ごとに曜日を決めて実施しました。

新型コロナウイルスへの対応で、学校現場の大きな変化を感じていると話す朝倉教頭(Zoomで取材)

ICT環境も含めて、今、学校現場や教育委員会が大きく変わってきています。新型コロナウイルスの流行を受けて、札幌市が最初に行ったのは、1週間分の学習課題を市のホームページに公表することでした。

しかし、休校が5月末まで延長されたことで「それだけでは足りない」という話になり、各学校が時間割を作って、授業動画をホームページから配信するようになりました。私自身も、担任ではないのですが、先生方にイメージをもってもらえるように、そして好奇心もあり、授業動画の制作にチャレンジしました。

――授業動画の制作に抵抗感を覚える教員もいると聞きます。どのように職場で働き掛けたのですか。

普段はICTをあまり使わない先生やネット上に顔が出ることを気にする先生もいるので、強制的に「すぐにやってください」とは言えませんでした。ただ、興味のある先生はどんどん工夫して取り組みました。中には、自身の顔は出さず、プレゼンテーションソフトのスライドショー機能を使って授業動画にする先生もいました。

新型コロナウイルスによる休校対応で、朝倉教頭が制作した授業動画

休校で教員が在宅勤務になってからは、子供たちのために毎日、次の日にどんなことをやるかを詳しく解説した時間割を作成するようにしていました。「それに加えて動画も」とは言いにくかったのですが、いつの間にか自然に授業動画づくりが始まった感じです。

実は、本校で授業動画を最初に作ったのは校長でした。その後、私や担任を持たない教師が動画づくりに挑戦し、徐々に他の教員へと広まっていきました。

学校と一緒に自分自身も成長する
――かなり早くからICT教育を実践してこられましたね。当時は多くの教員が、まだその価値に気付いていませんでしたが、どうやって実践を展開していったのでしょうか。

今年度に教頭として本校に赴任する前は、札幌市立伏見北小学校に主幹教諭として1年だけ在籍していました。その前の市立屯田北小学校には9年、さらにその前の市立山の手南小学校には10年もいました。

比較的長く同じ学校に勤務し続けることができたおかげで、徐々に実践を学校全体に浸透させていくことができたのです。それと同時に、私自身もICTスキルが上達し、視野が広がっていきました。学校と一緒に自分も成長していったと感じます。

ただ、異動すると、その学校にはその学校の文化がありますし、ICTに苦手意識を持つ先生もいます。だからごり押しはせず、どうやって広めていこうかと戦略を練りました。私自身は、ICTのマニアなわけではありません。知識は広く浅く、自分自身でも分からないことにチャレンジしていくような感覚です。

私のスタンスはあくまで、情報活用能力を重視している新学習指導要領の学びを実現する以上、ICTは必須のツールであるというものです。逆に言えば、余計なICT教育をするつもりはありません。

昨年度の1年間だけ在籍した伏見北小では、プログラミングの授業に率先して入るようにして、自分の実践を見せることを意識しました。

朝倉教頭が制作した北海道の市町村を学べるプログラム

現在は教頭という立場で、加えて休校していたこともあって、なかなかそういう機会はありませんが、学校のホームページには、私がビジュアル型プログラミング言語の「スクラッチ」で作った北海道の市町村を覚えるプログラムをアップしています。

子供たちがこれを見ることで社会科の勉強をしつつ、どういう仕組みになっているのか、プログラムに関心を持ってもらえるようにしています。

――「学校と一緒に自分自身も成長していった」とのことですが、ご自身がICT教育と出合ったきっかけは何だったのでしょうか。

山の手南小にいた2009年度に、政府が「スクール・ニューディール」構想を打ち出し、学校現場に50インチモニターや実物投影機、教員用パソコンなどが一気に入ってきました。

学校のICT化の夜明けを感じる中で「実物投影機で大きく映し出すことができたら子供が喜ぶだろうな」「プレゼンテーションのスライドで分かりやすい教材資料を作りたいな」「校務系のシステムで仕事を効率化できるんじゃないか」などと、いろんなアイデアや思いが湧き出てきたのです。

ちょうど山の手南小がICT教育のパイロット校的な取り組みをしていたこともあり、そういうことにチャレンジしやすい環境も整っていました。最初は実物投影機、次にプレゼンテーションスライドといった形で取り組んでいき、パナソニック研究助成校や札幌市の夢づくり支援事業校に認定され、タブレット端末の活用も始めるようになるなど、徐々にできることを広げていったのです。

まさに自分自身がアップデートされていく感覚でした。今も、社会というOSに対し、教員というアプリケーションはどうあるべきかとよく考えます。

世の中がどんどん変化し、インターネット環境も飛躍的に良くなっています。学習指導要領も変わりました。周囲の状況がアップデートしていく中で、教員もアップデートしなければ、すぐに時代に対応できなくなると思うのです。ICTが好きか嫌いかという問題ではなく、ICT化という流れに対応できるようにしていく必要があります。

もちろん、アップデートを常に意識していますが、古き良きものを否定しているわけではありません。例えば、子供が手書きでノートをまとめるのや教員が板書するのは、学んだことや教えることを構造化する上で、大切な作業だと思います。

今では、子供がタブレット端末に書き込んだ意見を共有することなどもできますが、アナログにはアナログの利点もある。教師には、新しい技術の活用とこれまで培ってきた教育実践のバランスを取ることが求められているのだと思います。

(藤井孝良)

【プロフィール】

朝倉一民(あさくら・かずひと) 札幌市立発寒南小学校教頭。1972年、北海道札幌市生まれ。専門は社会科。ICTを活用した教育活動やPBLの実践、NIEなどに長年取り組む。「Intel Master Teacher」としても活躍。著書に『主体的・対話的で深い学びを実現する! 板書 & 展開例でよくわかる 社会科授業づくりの教科書』『子ども熱中!小学社会「アクティブ・ラーニング」授業モデル』(ともに明治図書出版)。座右の銘は「初心忘れるべからず」。


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