学校現場の期待大 コロナ対策で少人数学級は実現するか

新型コロナウイルスの感染防止対策の抜本的な改善策として、学校現場から少人数学級の実現に期待が高まっている。有志の教育学研究者らが署名活動を展開し、萩生田光一文科相も実現に意欲を見せるなど、秋の来年度予算案の概算要求を視野に入れた動きが出てきた。取材を進めていくと、35人学級ならば来年度からの実現も可能となっている現状や、少人数学級に必要な教員数や予算額の試算がある一方、少人数学級の必要性を裏付けるエビデンスが不足しているとの指摘や教員増に向けた財源や人材確保の問題が浮かび上がってきた。少人数学級の実現に向けた論点を整理する。


半世紀かけて段階的に縮小

義務教育である公立の小中学校などの教職員定数は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(義務標準法)で定められている。教職員定数の主要な算定基準となるのが、1学級当たりの児童生徒数だ。

国はこれまで、複数にわたる「教職員定数改善計画」を策定し、段階的に学級編制基準の引き下げを進めてきた。その結果、1959年度の段階で50人だったものが、1980年度に現在の40人学級となり、2011年度には小学1年生のみ35人学級となった。翌2012年度には小学2年生についても教員加配の予算措置が行われ、実質的に35人学級が実現している。

また、01年度以降は、義務標準法の改正を受けて学級編制基準の弾力化も図られ、国の定数を下回る学級編制基準を独自に適用する都道府県や市町村も出てきた。例えば、山形県では02年度以降、小中学校の全学年で33人学級を推進する「教育山形『さんさん』プラン」を実施。加配分の教員は費用を県が負担して毎年独自に採用している。

山形県教委によると、全国的な傾向と比べて不登校の割合が低かったり、全国学力・学習状況調査での子供の自尊感情に関する質問項目で肯定的な回答割合が高かったりするなど、少人数学級による効果と考えられる成果が出ている。

コロナを機に少人数学級を求める声が広まる

日本では長い年月をかけて学級規模が少しずつ縮小し、独自の学級編制基準を設ける自治体も出てきているが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、さらなる学級規模の縮小を求める声が一気に広がってきた。

少人数学級の実現に向けた署名活動について記者会見する教育学研究者ら

少人数学級の実現を要望する署名活動を始めた乾彰夫・東京都立大名誉教授らは7月16日の記者会見で「直ちに30人に、そして早急に20人程度にする必要がある」と訴えている。

教育新聞が8月11日から始めた読者投票「Edubate」で、少人数学級の実現時期について聞いたところ、17日午前9時時点で170件の回答が寄せられ、「今年度内」が35%、「来年度から」が39%、「3年以内」が20%となった。また、教育新聞が実施した意識調査では、回答した公立学校教員147人の96.6%が、少人数学級の実現を求めている。

新型コロナウイルスの感染予防対策に追われる学校現場で、少人数学級の早期実現を求める声が高まっていることは間違いない。

背景には、感染防止対策として行われた分散登校の影響もあるようだ。政府の緊急事態宣言の解除に伴い、学校再開後の一定期間、多くの学校が1学級を2グループに分けるなどして、従来の半数程度の人数で授業を行った。その結果、多くの教員が授業のしやすさなどを実感し、少人数学級を求める声につながったとの見方がある。

少人数学級の実現時期について聞いたEdubateの投票結果(8月17日午前9時時点)

岐阜県の公立小学校で高学年の理科を担当する森俊郎教諭も、その一人だ。森教諭の勤務校では、児童を地域ごとに15人程度のグループに二分して、午前と午後で3時間ずつ同じ授業をする分散登校を実施。森教諭は「15人程度のクラスで授業をしたのは初めてだったが、個々の子供に目が行き届き、つまずきの把握や声掛けの量なども全然違った」と、体験を踏まえて少人数学級の効果を話した。

学校現場の状況について、「学校は学習の遅れを取り戻そうと焦っている上に、感染防止のために話し合い活動なども制限されている。そのため、授業は一斉講義形式になりがちで、取りこぼしてしまう子供も出てくる。クラスの人数が少なければ、そういう子供のケアもしやすくなる。多くの教員が『少人数学級ができるのであればやった方がよい』と考えているのではないか」と説明した。

35人学級ならばすでに可能

学校現場から期待を寄せられている少人数学級だが、実現する上で最大のネックとなるのが財源の確保だ。

06年から各地の少人数学級の取り組みを検証してきた民間団体の「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」は今年6月、少人数学級の導入を求める提言を発表。その中で、19年度の義務教育費国庫負担金をベースに、学級編制を35人、30人、25人、20人にした場合に必要となる教員数や追加予算の試算を行った。

「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」による少人数学級の試算

それによると、既存の少人数学級に活用可能な加配を全て活用すれば、教員や予算を追加しなくても35人学級は実現可能で、30人学級には約4万5000人の教員と約3600億円の追加予算が、20人学級には約10万9000人の教員と約8600億円の追加予算がそれぞれ必要だという。

これらの課題を踏まえ、同会はまず来年度から35人学級を実現し、再来年度以降は全学年の学級編制基準を年に1人ずつ引き下げ、教員養成や教室の確保なども並行して進めながら、15年かけて20人学級を実現すべきだと提言している。

同会の事務局長で昨年度まで小学校教諭だった山﨑洋介さんは「現在各地で実施されている少人数学級は、本物の少人数学級ではない」と指摘する。

山﨑さんによると、04年度から義務教育費国庫負担金の算定方法が総額裁量制となったため、少人数学級のために必要な教員を非正規で賄っている自治体も多く、必ずしも教育の質が上がっているとは言えない状況がある。

「学級が増えた分に見合うだけ正規教員が増えなければ、学校全体にかかる負担はかえって増える。どの自治体も、少子化で教員の正規採用を抑制し、非正規教員を調整弁にしている。だからこそ、国が義務標準法を改正し、計画的に教員を増やすための予算を確保する必要がある。国の責任で本物の少人数学級を実施するべきだ」(山﨑さん)

少人数学級のエビデンスは十分か

財源を巡る問題は、予算編成の過程で文科省と財務省が協議し、政府与党のコンセンサスを得ることが必要になる。

教育活動におけるエビデンスの研究を専門とし、昨年までロンドン大学教育研究所客員名誉研究員でもあった前出の森教諭は「学力向上という側面だけで少人数学級の効果を示し、財源を確保することは難しいのではないか。学力以外の面も含めて、少人数学級はどのような教育的効果があるのかを、しっかりとデータで裏付けるグレードの高い研究が必要だ。少人数学級は大きなコストがかかるだけに、エビデンスに基づいた政策決定が求められる」と話す。

一方で、教育政策には、エビデンスをどう示すかの難しさもある。山﨑さんは「財務省は少人数学級の費用対効果を求めてくるだろうが、教育による成果はいつ出るか分からないし、数値で表せるものは成果のほんの一部でしかない」と指摘する。

今後、学力調査などで少人数学級の効果を計ろうとする動きが出てくることを念頭に、拙速な数値データで検証しようとする動きに懸念を示し、「人格の完成」という教育目標に対する少人数学級制のトータルな有効性こそ評価されるべきだと主張する。

生徒指導上の効果はどうか。いじめ問題や不登校の支援に関わる「ストップいじめ!ナビ」副代表の須永裕慈さんは、過去の研究結果を挙げながら「少人数学級でいじめが減る可能性はゼロではないが、大きくは変わらない」と指摘する。

その上で「いじめは担任が情報を共有しなかったことでエスカレートする。少人数学級によって、もしムラ社会的な風潮が助長されるならば、そのリスクは高まる。教員を増やす場合、学級を増やすよりも複数担任制にするなど、さまざまな教職員がクラスに関わった方がいじめ防止には効果的かもしれない。そうした視点からも慎重にデータを取って、検証していく必要がある」と提言する。

萩生田文科相は8月4日の閣議後の会見で、「今の段階の延長として、このまま少人数学級にできないのかと問われれば、それはちょっと乱暴な議論だと思う」と指摘。一方で、「一定の時間は必要だと考えているけれども、やるとなれば、今までとはスピード感を変えて、しっかり前に進みたいと思う」と前向きな姿勢を示し、来年度からの段階的な実施も検討していることを明らかにした。

少人数学級を巡る検討が本格化してきた現状を受け、山﨑さんは「少人数学級の可能性を検討するためにも、具体的にどれくらいの予算や教員が新たに必要なのか、まずは試算を出すべきだ」と指摘している。

(藤井孝良)


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