新学習指導要領で一層重視されるようになった探究的な学びを実現するには、PBL(Project Based Learning)型のカリキュラムが効果的とされる。しかしながら、教師がPBLの実践を行っていくには、さまざまな難しさも伴う。具体的に、どのように実践していけばよいのか。長年にわたり地域と連携したPBL型の授業を実践してきた札幌市立発寒南小学校の朝倉一民教頭に聞いた(全3回)。
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地域で教材の宝探しをする
――PBLとの出合いは何だったのでしょうか。
やはり、約20年前に始まった「総合的な学習の時間」(総合)の存在が大きいですね。総合で具体的にどんなことをやるのか、教材も指導計画もカリキュラムも全て学校が考えるというのは画期的だと感じました。同時に、当時は「すごく楽しいことが始まるぞ」とワクワクしたのを覚えています。
私の専門は社会科なので、何かを教材化することをとても大切にしてきました。ゼロから総合を創っていく上で、「地域」は教材として相性が良かったのです。地域にはオリジナリティーがあり、子供たちの特性とも関係しているからです。
例えば、地域に血液センターがあれば、血液の授業をして、献血について学んだり、健康について考える学習に発展させたりしました。地域の中で、宝探しをしているような気持ちでした。
当時は、これがPBLだという意識は全くありませんでした。ただ、後にインテルが取り組んでいる21世紀型スキルを育成するための教員研修に参加したとき、自分が総合で思い描いていたものとインテルが重要視している学びが合致したんです。それがPBLでした。
同時に、ICTありきではなく、子供たちを主体にして教材化をしていくことの大切さも認識しました。
――「宝探し」と表現されましたが、地域でPBLの教材を見つける「コツ」は何ですか。
教師にとって重要なのは「教材化する力」だと思うんです。その力を身に付けるためには、教師自身が地域に出ていかないといけません。私はNIE(教育に新聞を)にも取り組んでいるのですが、記者の方々にはシンパシーを感じます。地域を取材して、本当のことを子供たちに伝えたい。そんな思いが原動力になって、地域とさまざまな形で関わっていきました。
一方で、そういう実践を「面倒くさい」と感じてしまう教師もいるかもしれません。でも、総合が始まってから、今度の学習指導要領に至るまでの流れを見れば明らかなように、すでに「読み」「書き」「そろばん」で事足りる時代ではなくなっているわけです。
学びは教科書の中だけでは完結しません。だからこそ、教師自身が地域に出て学ばないといけない。なぜなら、そうやって地域に出て行く子供たちを育てていく必要があるからです。
教師が学校の中に閉じこもっているのを物語っているのが、名刺だと思います。教師は普段から名刺を持っていない人が圧倒的に多いですよね。きっと必要性がないと感じているからでしょう。これは由々しき問題だと思います。
地域とつながる、地域がつながる
――PBL型の授業は、教師の力量が問われると思います。どのようにカリキュラム開発をしてきたのでしょうか。
振り返ってみると、ちょうど30代で学年主任となり、学校の中心的な役割を担うようになって、やりたいことや挑戦したいことがたくさんあったところに、総合がスタートしました。その後、年齢を重ねていく中で研究主任になり、次第に学年から学校へと視野が広がって、6年間をかけてどのような学びを展開し、中学校につなげていくのかを考えるようになりました。
PBL型のカリキュラムづくりでは、学校のキーパーソンになる先生に相談はしたものの、自分で整理したり、まとめたりするのが得意なもので、割と自分一人で作ってしまった面があります。これは私の良くない部分でもあるのですが、ある程度バランス良くさまざまな領域を学年ごとに設定するには、一人で考えた方が効率が良かったのです。
その中で、やはり重視したのは地域との連携です。私は、「教師にとって地域とは何だろう」といつも思うのです。一人の教師がその学校にいるのはせいぜい5年くらい、私のように長くても10年程度です。
でも、保護者をはじめ、地域で暮らす人々はひょっとすると一生、その場所に住み続けます。だから、学校での学びが地域の人たちに受け入れられれば、たとえ実践してきた教師が異動したとしても、ずっと続くと確信していました。
実際に、私が始めた後、20年たった今でも続いている総合の実践があります。地域に住む和文化の達人を学校に呼んで、子供たちが日本文化の良さを体験して、表現する学習です。
華道や和服の着付け、お茶、剣道や空手、琴や尺八などの和楽器、切り絵などの講座が開設され、地域の達人がゲストティーチャーとして毎年学校に来てくれます。
もちろん、毎年同じことを繰り返しているわけではありません。その年によって授業の展開やゴールは変わりますし、達人のメンバーが変わることもあります。でも、和文化を地域の人から学ぶというコンセプトはずっと変わらない。
実践が長く続いているのは、学校がその実践に魅力を感じている上に、何よりも地域の人たちが、地域におけるそうした学びの価値を大事にしてくれているからだと思います。
――最近は、どのようなことに挑戦しているのですか。
今の時代、インターネットが発達して、いろんな地域の人とつながることができます。そのことを子供たちに体感させたくて、ちょっと乱暴ですが、昨年度、北海道の良さを知ってもらうデジタルコンテンツをグループで作り、それをリンク集にして沖縄県の小学校に一方的にメールで送るという授業をしました。
沖縄県の学校のメールアドレスを子供たちと一緒に調べ、私からメールを送りました。先方には特に何の事前相談もなく送り付けたので、さてどうなるかと思っていたら3校から返信がありました。そのうち2校からは、逆に沖縄の良さを知ってもらう冊子が送られてきました。
残念なことに、その直後に新型コロナウイルスの感染が道内で広まってしまい、休校になったので、まとめができずに終わってしまったのですが。
土地が広い北海道では、町と町の距離がとても離れているので、人と人との交流でも、今後はテレビ会議システムなどの活用が当たり前になると思います。子供たちにも、インターネットを介していろいろな地域の人と知り合うことができるということを体験してもらいたい。それと同時に、モラルの面も含めた情報教育を小学校低学年から、しっかりとしていかないといけないとも痛感しています。
(藤井孝良)
【プロフィール】
朝倉一民(あさくら・かずひと) 札幌市立発寒南小学校教頭。1972年、北海道札幌市生まれ。専門は社会科。ICTを活用した教育活動やPBLの実践、NIEなどに長年取り組む。「Intel Master Teacher」としても活躍。著書に『主体的・対話的で深い学びを実現する! 板書 & 展開例でよくわかる 社会科授業づくりの教科書』『子ども熱中!小学社会「アクティブ・ラーニング」授業モデル』(ともに明治図書出版)。座右の銘は「初心忘れるべからず」。
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