【北欧の教育最前線】組織的カンニングに揺れるスウェーデン

スウェーデンの大学入学者選抜では、基本的に高校の成績が用いられる。日本のセンター試験のように、受験生が一斉に受ける学力テストはない。一方、代替的な選抜方法として、任意で受けられる高等教育試験もある。近年、この試験で大規模な不正行為があり、世間を震撼(しんかん)させた。


アクセスを拡大するための試験

スウェーデンにはかつて「25:4ルール」という制度があった。4年以上の勤労経験を持つ25歳以上の人に大学進学資格を認めるというものだ。1977年に始まったこの制度は、社会人入学を推進し、世代間格差を埋める役割を果たした。

このルールを利用する社会人が、高校の成績に代えて選抜資料に使えたのが高等教育試験だ。1990年代には高校生も利用できる試験となり、2007年に「25:4ルール」が廃止された後も、大学入学者選抜に利用され続けている。この高等教育試験が不正の舞台となった。

120万円で売られた満点

「最高の教育を受けたいあなたへ。高等教育試験を手伝います。結果は確実」――。

ネット広告は試験対策講座のように見えるが、実際に売られたのは不正行為だった。9万9000クローナ(約120万円)を払えばほぼ満点の1.9点、約半額の4万9000クローナでは1.5点といった具合に、点数に応じた価格が付けられ、その金額を支払うと、試験本番中に正答を教えてくれる。うそのような本当の話だ。

事前に渡される極小のイヤホンを装着して試験に臨み、聞こえる答えを書けばいい。高等教育試験は全問マークシート方式なので、聞き取りは至ってシンプルだ。

集団不正が明るみになった時、この手口で高得点を取った受験生は、医学部や法学部など、高所得な職業につながる人気の学部にすでに入学していた。不正行為が認められた学生は大学から除名され、高等教育試験の受験資格を2年間、剥奪された。

これらの学生が入学後、授業についていけなくなるのは明らかだった。ほんの数点をごまかした程度ではなく、高校を修了できなかったのに高等教育試験でほぼ満点を取るような、大きな不正だったのだ。中にはスウェーデン語ができないのに高得点を取った受験生もいた。

犯行は組織的だった。首謀者3人は試験開始前に正答を入手し、多数の携帯電話を使って「購入者」に答えを知らせていた。しかし購入者が会ったのは「売り子」だけだった。

売り子は全国にいたが、組織の末端にいて現金の受け取りとID確認だけを担った。首謀者たちは、2015年以降の4年間に、1000万クローナ(約1億2千万円)以上を稼いだと試算されている。

対策はいたちごっこ

事件を受けて、試験する側は不正行為対策をした。設問や解答が事前に流出しないよう袋に入れたり、問題と正答を試験直後に公表するのをやめ、数日後に遅らせて公表したりするようにした。

試験会場の電波遮断や受験生のボディーチェックも提案されたが、こうした方法は個人の自由や権利の制限になる上、効果にも疑問があり、運営の負担が増えるといった理由から見送られた。

課された刑罰も重かった。首謀者3人には3年半から6年の懲役刑が言い渡された。売り子や解答を盗んだ者、携帯やイヤホンを提供した者、巨額のマネーロンダリングを行った者たちも実刑や罰金刑の判決を受けた。“点数商売”は多額の利益を生んだが、その代償ははるかに大きかった。

大規模な不正は試験の信頼を大きく損なう。結果が卒業や進学など、人生の重大事に関わる試験であるほど、入念な不正対策が必要になる。手口が詳細に明らかにされると、類似の手口で、あるいはさらに複雑な方法で不正を試みる人が増えるかもしれない。

試験日は不正を企てるごく一部の受験生と、その不正を防ごうとする運営者の双方にとって、知恵試しの日になる。このいたちごっこに終わりは来るのだろうか。

※スウェーデンの高等教育試験についての詳細は、伊藤実歩子編著『変動する大学入試 資格か選抜か ヨーロッパと日本』大修館書店、2020年を参照されたい。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ。金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)

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