【コロナと部活動】新しい高校ラグビーの創造

新型コロナウイルスへの感染防止対策で、学校が再開しても練習や対外試合の制限が続く部活動。中でもタックルやスクラムなどの身体接触を伴うラグビーは、これまで通りの練習を行うことが困難な状況に置かれている。そんな中、選手の主体性を重視したラグビーで全国的に知られ、昨年度の第99回全国高校ラグビー大会に出場した静岡聖光学院中学校・高校(星野明宏校長、生徒473人)では、オンラインを活用した「エアラグビー」でチームワークを強化。同校教諭の佐々木陽平監督は「これまでで一番コミュニケーションができるチーム」と自信をにじませる。佐々木監督に、その練習の秘訣を取材した。


同時双方向で自宅からプレーするエアラグビー

Zoomの画面上には、自宅でボールを用意した30人ほどのラグビー部員の面々が映っている。合図とともに一斉に走る仕草をすると、すぐさま一人の選手がボールを持ち、仲間の選手の名前を大声で呼んでパスを出すモーションをする。すると今度は名前を呼ばれた選手がボールを持ち、パスする相手の名前を叫ぶ。味方からも相手からも、指示や戦況を伝える声が次々に飛び交う。

エアラグビーは、今、どのようなプレーが進行しているかを頭の中でシミュレーションする練習法だ。これならば、グラウンドに集まらなくてもオンライン上でできる。

3月から休校となった同校では、ちょうどタブレット端末の生徒1人1台環境が整備されたこともあり、静岡県内でもいち早くオンライン授業に乗り出した。学校が再開した現在でも、一部の生徒が自宅からオンラインでリアルな教室での授業に参加する光景が見られる。

もともと週3回、各1時間という少ない練習時間で成果を出してきたラグビー部もそうしたICT環境を生かし、休校期間中は週2回各1時間、自宅にいる部員同士がオンラインでつながり、戦術の分析などのミーティングを重ねてきた。

そんな中、自身もプロラグビー選手として活動し、引退後は日本代表チームのコーチとして2003年にオーストラリアで開催されたラグビーワールドカップに帯同した経験もある村田祐造・東京セブンズラグビースクール校長からエアラグビーを紹介された佐々木監督は、早速、練習メニューにエアラグビーを取り入れることにした。

エアラグビーに挑戦する部員たち(佐々木監督提供)

通常のラグビーでは、スクラムハーフやスタンドオフの選手が意思決定し、他の選手に指示を出すのが一般的だが、エアラグビーでは時々刻々と変化する状況を見極め、ポジションに関係なくチーム全員がその場で判断しながら常に動かなければならない。

佐々木監督は「相手の名前を呼ぶのは一見簡単なことだが、グラウンドの練習では徹底されておらず、ミスにつながっていた。エアラグビーはフィールドを俯瞰(ふかん)して捉えなければできないし、声ではっきり伝えないとボールがどこに行ったのかあっという間に分からなくなってしまう。プレー中はずっと走っていて、誰一人として手を抜けないので、終わると頭も体もくたくたになる」とその効果を語る。

エアラグビーを通じて磨かれたのは、コミュニケーション力だ。同校ラグビー部では、トライされた直後に与えられる作戦タイムを想定し、短時間で選手が集まり、プレーの改善点を絞り込んで次のプレーの対策を立てる「トーク&フィックス」を武器にして、状況に合わせて柔軟に対処していくスタイルを得意としていた。

エアラグビーの練習でも、プレーの後にZoomのブレイクアウトルーム機能を使い、チームに分かれて課題を話し合う活動を取り入れたところ、選手がこれまで以上に声を出すようになり、コミュニケーションの質が格段に向上したという。

「今の段階で、すでにこれまでで一番コミュニケーションできるチームになっている。ただ、実際にグラウンドでプレーしてみたら、シミュレーション通りにキックしたボールが飛ばないといった現実との違いに直面するかもしれない」と佐々木監督。

今、エアラグビーは他チームでも練習に取り入れる動きが広まっている。佐々木監督が密かに目論んでいるのは、エアラグビーの海外展開だ。

同校は国際交流も盛んで、タイやマレーシアなどの高校とオンラインでつないだ授業も企画している。その延長線上で、エアラグビーによる国際試合もできるかもしれないと考えているのだ。エアラグビーであれば、環境や体格差も問題にならない。「エアラグビーでうちが世界をリードする存在になって、彼らと互角以上の戦いができれば面白い」と佐々木監督は息巻く。

数字にこだわるノート

この休校期間中、ラグビー部ではもう一つ、「数字にこだわる」をキーワードに取り組んだことがある。佐々木監督は、同校OBで元日本代表選手の小野澤宏時氏に協力を依頼し、休校が続く4月に部員とのオンライン対談をセッティングした。

その時、小野澤氏が部員たちに見せたのは、現役時代に毎日書き込んでいたノートの山だった。そのノートには、毎日の体重や睡眠時間などさまざまな数字が列記され、その日の調子の良しあしの原因をデータから探っていけるようになっていた。

数字によって自分自身のことを把握しようと試みている先輩のノートに感銘を受けた部員たちは早速、体重や起床時刻、勉強時間など日々の過ごし方について、数字にこだわりながらノートを付けるようになったという。

佐々木監督は「実践している部員は確実に伸びている。多くのチームを渡り歩いてきた小野澤さんは、コーチに言われたことをただ書くのではなく、自分自身の言葉に変換して書いていた。そうしたことも、部員にとって刺激になった」とその成果を語る。

休校期間中のラグビー部の取り組みについて話す佐々木監督(Zoomで取材)

こうしたオンラインによる講習会は部員からも提案されることがあり、部員たちが自身でアポイントを取り付けた後に、佐々木監督に事後承認を求めることも珍しくない。

「社会人であれば事前に相談するのがマナーなのかもしれないが、ここではリスクのない挑戦に関しては、報告だけしてくれれば、部員が自分で提案して動くことは大歓迎」と佐々木監督。主体性を重んじる同校ならではの方針だ。

また、同校の生徒が中心となって、全国からさまざまな競技の選手たちが集まる「部活動サミット」も、今年度は新型コロナウイルスの影響を受ける中で、オンラインの活用なども含めた企画の検討が始まっているという。練習や試合の制約を受ける中で、部活動の当事者である高校生たちがどんな意見を交わすのか、注目される。

パフォーマンスを上げる選手と下げる選手

もちろん、オンラインで部活動の全てが補えるわけではない。休校期間中は、これまで徹底できていなかった部分を伸ばすことができた半面、手つかずの課題も残っている。

その一つが体づくりだ。相手と激しく接触するプレーが多いラグビーにとって、重厚な筋肉を付けることは、相手を倒すだけでなく、自分自身の体を守る上でも欠かせない。例年は、練習時間が限られていたことから、ウエートトレーニングなどの体づくりは各自に任せていたが、今年に限ってはしっかりとしたフィジカルトレーニングを取り入れざるを得ないという。

もう一つは、選手のモチベーションの維持だ。昨年、日本でラグビーワールドカップが開かれたこともあり、部全体のモチベーションはこれまでになく高いという。その一方で、高校3年生は中止の可能性がゼロではない花園を目指すか、受験勉強に集中すべきかで葛藤している。

「他の競技は大会が中止になり、周りが受験勉強に集中し始めている中で、大会が『あるかもしれない』という理由だけで練習するのは不安だと、何人か相談に来ている。過去にない事態だから、その決断を邪魔するわけにはいかない。『勉強を優先したいなら全然構わない。来たいときだけ練習に来ればいい』と伝えている」(佐々木監督)という。

そんな中でも、平日は補習授業を受けることを優先し、週末しか練習に行けない高校3年生の部員が、しっかり準備して練習に臨む姿も見られるそうだ。

佐々木監督は「元日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏は、新型コロナウイルスによる活動自粛で、イングランド代表の選手ですらパフォーマンスを上げる選手と下げる選手がいると語っていた。その違いは、指示待ち人間か、そうではないかだと。だとすれば、うちのラグビー部の部員は絶対に伸びる方だ。まだグラウンドでの練習が始まって数回だが、成長に目を見張る部員が何人もいる」と期待を膨らませる。

そんな佐々木監督が目指す今年のラグビー部の目標はどこにあるのか。

佐々木監督は「前例を踏襲するのではなく、今までにない新しいラグビーのスタンダードができたら面白い。これまでの常識が通じない、相手にとって今までのラグビーのスタンダードが疑われるような独自性のあるチームを作り上げたら、今までは格上と思われていた学校にも勝てる可能性は十分にある」と話す。

(藤井孝良)


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