【北欧の教育最前線】放課後活動は楽団からピカチュウまで

北欧の子供たちは放課後をどのように過ごすのか。日本のクラブ活動や部活動に相当するものはあるのだろうか。北欧諸国の放課後活動の様子を3回に分けて見ていきたい。初回は、ノルウェーの“文化部的活動”を紹介する。


地域に根差した学校吹奏楽団

ノルウェーの建国記念日(5月17日)は晴れやかなお祭だ。街ではパレードが行われ、民族衣装を着た人々が国旗を振る。イベントに華やかさを添えるのが、地元の学校吹奏楽団による演奏だ。ユニフォームを着た子供たちが楽器を吹き、バトンを回して街中を練り歩く。

学校吹奏楽団(skolekorps)といっても学校の中にある組織ではなく、地域の団体だ。運営は保護者がボランティアで行い、演奏の指導者や指揮者を招いたり、楽団旅行を企画したりする。メンバーは年会費を払うが、指導者への謝礼や楽器代、旅費はバザーなどを企画して、ファンドレイジングでも稼ぐ。

旅行先の街中で演奏する楽団(提供:ヴク学校吹奏楽団)

学校吹奏楽団に親子で代々参加してきたムーナ・エクロさんは「楽器はうまくなかったけれど、休み時間に友達とおしゃべりしたことや、外国に楽団旅行に行ったのが楽しかった」と当時を振り返る。

楽団には幅広い年齢の子供が入り交じり、旅行では高学年の子たちが子守歌を演奏し、低学年の子たちを寝かしつけていたという。親となって、自分の子供が楽団に参加すると、今度は保護者として運営に参加した。

インクルージョンの場として

ノルウェーの学校吹奏楽団は長い歴史を持つ。最初の学校吹奏楽団は1901年にオスロで創設され、近年では全国に1000近くの楽団がある。これは全国の基礎学校(日本の小中学校に相当)のうち、およそ3分の1の学区に楽団がある計算になる。

50周年の記念旅行はパリへ(提供:ヴク学校吹奏楽団)

ムーナさんの幼少期(1980年代)には地域の大半の子供が楽団に入っていたというが、最近では変化も見られる。スポーツ団などの“競合”が増え、楽団はあまり人気でなくなった、と感じているそうだ。また、都市部では学校吹奏楽団の慣習を知らない移民の家庭も増えた。

それでも、学校吹奏楽団は、地域の全ての子供を受け入れるインクルーシブな場として重要な存在だ。ヴク学校吹奏楽団のゲアド・サーゲン団長は、子供や若者が安心できる社会的な場としての意義を感じている。演奏には補欠なく全員が参加でき、達成感が得られる。

また、ノルウェー楽団連盟(Norges Musikkorps Forbund)は近年、移民家庭も含めたさまざまな背景の人々を積極的に巻き込む活動を重視している。

日本発ゲームがノルウェーにも

積極的に新しい活動に関わる保護者もいる。トーマス・ストロムダールさんは10年ほど前から、息子と一緒に地域の「ポケモン・リーグ」に参加している。このグループには6歳から大人までのメンバーがいて、週2回ほど集まって「ポケモン・カード」で戦う。2人用の対戦型トレーディングカードゲームだ。

「ポケモン・リーグ」の活動の様子(提供:トーマス・ストロムダール氏)

リーダーを務めるトーマスさんは「社交的な場であると同時に、競争という要素もある」とグループの良さを語る。集まりには、おしゃべりやゲームを楽しみに来るメンバーもいれば、世界大会を目指して特訓にくるメンバーもいるという。息子のトビアスくんは、10歳のときに全国大会ジュニア部門で優勝、翌年には世界大会で優勝した。

「ポケモン・カード」のルールは複雑だ。トーマスさんは、このゲームには学びの要素もたくさんあると解説する。カードにはノルウェー語版がないため、子供たちも英語版を使う必要がある。

カフェに集まって対戦することもある(提供:トーマス・ストロムダール氏)

そのため、英語が分からない子にカードの意味を聞かれたときは、「まずカードに書いてある英文の中の単語を読んでもらい、その意味を教えるんだ。そのカードに何ができるかを説明するのは、その後だ」という。

ノルウェーの子供や若者は放課後、学校の外でそれぞれ活動する。学校吹奏楽団とポケモン・リーグ以外にも、演劇、ダンスなどの文化活動や、各種スポーツ、スカウト活動もある。

子供たちは、学校種を超えた幅広い年齢層の子供や若者に出会い、教師とは違う大人に出会う。ボランティアで運営を担う大人を間近に見て、自らも徐々に手伝う側にまわる。

時代とともに活動内容は変化するが、これからも子供たちの成長の場として重要であり続けるだろう。

(中田麗子=なかた・れいこ。東京大学大学院教育学研究科特任研究員。専門は比較教育学)


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