【教育の地図を広げる】オンライン授業への挑戦

新型コロナウイルスによる休校中、公立高校ながらいち早くオンライン授業をスタートさせた静岡県立掛川西高校。そのキーパーソンとなった吉川牧人教諭に、地方の高校がICTによって地域や世界とつながることの価値について聞いた(全3回)。第1回では、同校のオンライン授業への挑戦を通して、吉川教諭が感じた学びの変革に着目する。

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教員がICTを自然に使うようになった
――休校期間中、全授業で動画配信を実現しましたが、学校が再開した今、改めてどのようなことを感じていますか。

学校が再開し、平常通りの授業が行われているので、時間割を組んで動画配信をする取り組みはいったん終了しています。しかし、今行われている授業を私が見た限り、ほとんどの教員が何かしらの形でICTを使うようになりました。

以前は、ICTの利点が分かっていても、研究授業などの特別なときにしか使うことがなく、ある意味で意気込んだ形でICTを活用していました。それが、全ての教員がオンライン授業に挑戦した結果、自然にICTが使われるようになりました。

――ICTを使うことに抵抗感のある教員も多いと思います。
休校中のオンライン授業を通じた掛川西高校の変化を語る吉川教諭(Zoomで取材)

教員がなかなかICTに手を出さない理由として、最初の準備に時間がかかったり、授業中にトラブルが起こると焦ってしまったりということがあると思います。

しかし本校では、機器などの準備を生徒がしてくれるので、教員が教室に行けばすぐに使える状態になっているのです。突然のトラブルが起きても、クラスにいるICT委員がサポートしてくれるので、安心して授業ができるようになっています。

また、いつ新型コロナにより、再びオンライン授業が必要になるか分かりません。今はそうなった場合のことを考え始めていて、教員にアンケートを実施し、今回のオンライン授業の改善点を洗い出しています。

今まではミニマムスタンダードを優先して、ICTが得意な教員も苦手な教員も歩み寄れる最低限のICTの活用方法を推進してきたのですが、今回のオンライン授業で教員のICTスキルが全体的に底上げされただけでなく、生徒のICTスキルも飛躍的に向上しました。そうしたことも踏まえながら、次の一手をどうするかを詰めていこうと思っています。

生徒にもパラダイムシフトが起きた
――生徒のICTスキルは、具体的にどう向上したのでしょうか。

いわゆる「デジタルネイティブ」と呼ばれる彼らは、生まれながらにしてICTが身近にあり、使いこなせるのが当たり前と思われていますが、私はちょっと違う見方をしています。実際に生徒の様子を観察していると、やはり個々人の間でスキルには大きな差があって、中には使った経験が全くないような生徒もいます。

ただ、そうした生徒も何かしらのきっかけを与えたら一気に成長します。今までICTに触れてすらいなかった生徒が、ICTを使って学習する経験をしたら、まるで呼吸をするような感覚で、学び以外も含めて日常的にICTを使うようになる。彼らの中でもパラダイムシフトが起こるのです。

――授業では、ICTがどのように活用されるようになったのですか。

例えば、ある教員が「Google Earth」を使って、生徒が好きな世界の遺跡をプレゼンテーションする活動を提案したので、私も乗ることにしました。クラウド上にプレゼンテーションスライドを上げて、各グループで作成したスライドをリンクさせて、サイトに反映させる仕組みを作ったのです。

図:世界の遺跡をプレゼンテーションする授業(吉川教諭提供)

すると、生徒は当たり前のようにサイトでスライドの状況を確認して、検索してさらに見やすいスライドに仕上げていき、期待以上のレベルの作品が出来上がりました。生徒が主体的にバージョンアップしたのです(図参照)。

それから、探究学習に力を入れている本校では、2年生の探究活動では10個のゼミがあるのですが、私が担当しているゼミでは、新型コロナの影響で毎年の夏休みに実施している、中学生対象の一日体験入学ができないことに着目し、遺跡のプレゼンテーションのやり方を応用して、グループで学校を紹介するサイトを作っています。

まさに、授業で経験したICTへの感覚が、そのまま彼らの血肉となっている。だから今は、コロナ前に戻ったというよりも、リアルとICTのハイブリッドになっている感じですね。

成功の鍵はカリキュラム・マネジメント
――改めて、掛川西高校が学びのハイブリッド化に成功した要因は何だと思いますか。

やはり、カリキュラム・マネジメントを意識したのが、非常に大きかったと思います。本校の成功は、単にICTのスキルが全体的に向上したということだけではありません。むしろそういう学校は全国でもたくさんあると思います。

重要なのは、学校として、どんな資質・能力を持った生徒を3年間で育てていくかという明確なビジョンを持ち、学校の教育活動全体に落とし込んでいくことです。そこまで見据えている学校は、意外と少ないのではないでしょうか。

本校では、櫻井宏明校長が中心になって、昨年のうちから教員研修でそうした議論を丁寧に積み上げてきました。その中で、本校の生徒が身に付けるべき資質・能力として導き出されたのが「主体性」「協働性」「創造性」「自己有用感」の4つです。

これらの資質・能力は、トップダウンで与えられたものではなく、教員間の議論の中から生まれてきたものだったから、この4つを育てるために何をすべきかを考えるマインドセットが、教員の間で形成されていたのです。

掛川西高校で全教員が取り組んだ動画配信(吉川教諭提供)

休校になったとき、櫻井校長が「この4つの資質・能力は教員自身にも当てはまる。教員も主体性、協働性、創造性を持った教育活動をしていこう。突然の休校となったが、本校オリジナルの対策をみんなでやっていこう」と教職員に向けて呼び掛けていたのが印象に残っています。それを聞いて、学校として一致団結して、新しいことにチャレンジするのは必然なんだと感じました。

本校はもともと、地域と連携して掛川城でプロジェクションマッピングを行うなど、目立つ取り組みをしていました。そのため、今回の休校でどんな対応をするのか、マスコミからも何件かの取材依頼があったのですが、最初の2週間くらいは全て断っていました。まずは慎重に、オンライン授業のシステムを構築して、教員の研修や生徒の家庭のICT環境を調査することに専念したのです。

そのかいもあって、派手さはなかったかもしれませんが、生徒や保護者と学校が、この休校を共に乗り越えることができた。そうして自信がつき、お互いの信頼関係をつくることができたのは、非常に大きな成果だったと思います。

(藤井孝良)

【プロフィール】

吉川牧人(きっかわ・まきと) 静岡県立掛川西高校教諭。1974年、静岡県生まれ。専門は世界史。「Heroes of Local Government」が主催する「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2020」の一人に選出。ICTを活用した授業や地域と連携したPBLを実践する。ライフワークは生徒と共に企画するプロジェクションマッピング。趣味は「海外探検」。モットーは「誇りと感謝」。


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