未来の学校モデルを創造する 東京学芸大の新プロジェクト

未来の学校はどんな姿をしているのだろうか――。東京学芸大学は8月、東京都文京区の竹早地区にある附属校をフィールドに「未来の学校みんなで創ろう。PROJECT」を始動させた。さまざまな企業が教員とタッグを組み、最先端の技術を駆使したユニークな実証実験を行うと同時に、自治体と連携して公立学校に展開可能なモデルにすることも視野に入れている。プロジェクトを主導する松田恵示東京学芸大学副学長に、プロジェクトを通じて創造しようとしている「未来の学校」の姿を聞いた。


社会実装を前提に学校の生態系を変える
――今回のプロジェクトを立ち上げたきっかけは何でしょうか。

昨年9月ごろから準備を始めてきましたが、このプロジェクトの背景には大きく二つの流れがあります。一つは、これまで竹早地区の附属校が、幼・小・中の連携教育の研究を長年積み重ねてきたことです。その中で、個人に焦点を当てた学習支援や指導、主体性や個性を生かした教育活動が重視されるようになってきました。

もう一つは、Society5.0によって技術革新が進む社会に、学校教育がどう対応するかという課題です。近年は非常に社会的ニーズが強くなっていて、東京学芸大学でも昨年、大学院を改組して、教育系の大学では国内で初めて、AIをテーマにした大学院の専攻「教育AI研究プログラム」を設置しました。

大学全体として、ICTやAIによる教育革新を進めている中で、具体的にこれらの最先端技術の社会実装を前提に、教育研究や教員養成、研修を進めようとすると、やはり積極的な意味での実験校、ショールームのような学校を持たなければいけません。そこで、竹早地区の附属校で取り組むことにしました。

プロジェクトの狙いを語る松田副学長(Zoomで取材)

現在に至るまで、新型コロナウイルスによる休校の影響はあったものの、プロジェクトに参画する企業の方と私たち研究者、学校の教員が一緒になって、何度もワークショップやディスカッションを積み重ねてきました。

企業の方に、1週間ほど朝から晩まで学校に張り付いて様子を観察してもらって、教員や保護者、地域の方と話し合いながら、「こんなことに関心がある」「こういうことはできないだろうか」と、アイデアを出し合いながらプロジェクトが走り出しました。

参画企業はプロジェクトのスタート時点で20社ですが、今後も増える見込みです。また、このプロジェクトは附属校だけでなく、さまざまな地域の公立学校にも広げていきたいと考えています。

現時点では、岡山県津山市と岩手県山田町の学校といくつかのプロジェクトを共同実施するほか、都内の自治体とも協力する予定です。

――附属校にとどまらず、公立学校にも波及させようと考えている点が、このプロジェクトの大きな特徴になるわけですね。

実は、竹早地区の附属校は幼・小・中の連携教育は進んでいる一方で、他校に比べてICTの面は決して最先端というわけではありません。そういう意味では、普通の学校が外部に開かれて変わっていくプロセスそのものを見せたいという気持ちもあります。

近年は文科省だけでなく、経産省や総務省も積極的にEdTechによって教育改革を進めていこうとしていて、その動きには目を見張るものがあります。一方で、これまで学校改革に取り組んできた私自身が強く感じているのは、学校はすごく複雑なシステムになっていて、ある種独特の生態系を構成している。この生態系全体を変えていかないと、改革は根付かないんじゃないかということです。

だから、今回のプロジェクトでは、実践一つ一つの精度を高めるというよりは、思い切って全体的な変革の動きを促すことを意識しています。そのため、結果ももちろん出したいですが、学校が変わっていくプロセスの方にも着目して、それを浮かび上がらせていきたいと考えています。

これまで、国立大学の附属校での研究は「この学校だからできるんだよね」と言われ続けてきました。今回はそれを逆手に取りたい。附属校でもさほど最先端の得意な研究というわけではない領域に向き合った学校が、資源をうまく使いつつ自治体と一緒になって進めていく、横展開型の学校改革です。

学校を変えるユニークなプロジェクトの数々
――具体的には、どんなプロジェクトが進んでいるのですか。

企画調整段階のものも含めれば、現時点で28のプロジェクトが稼働しています。

例えば、学校と塾、家庭がフラットに協力して、次世代の「情報活用能力」や従来からの「読み・書き・そろばん」など、これからの社会を生きていく上で最低限必要なリテラシーを子供たちに身に付けさせることができないかと考えています。現状、基本的な計算や文字の読み書きといったリテラシーは小学校で学び、成績に反映されます。しかし、それらは本来、成績の対象にするものではないんじゃないかと思っているのです。

なぜなら、身に付けていないと社会で生きていけないこととして教えているわけですから、100人の子供がいたら100人全員ができるようになって当たり前です。だから、身に付いたかどうか、努力したかどうかをレイティング(格付け)すること自体がそもそもおかしい。こうしたリテラシーは個人の権利として、学びの保障をしていかないといけないのです。

そして、ICTが普及してデータが共有できるようになれば、学校だけでその役割を担う必要はありません。例えば、一定レベルまでは学校で理解し、残りを塾でやって、さらにできないところは家庭でやるというやり方、あるいはその逆も考えられます。そういった形で三者がつながって、一定の学力を全員が確実に身に付けていく試みです。

そうした形で基礎的リテラシーの習得が可能になれば、学校はもっとコンピテンシーやエージェンシー(編集部注 生徒の主体性・自立・自律などを指す)を重視した学びを展開できますし、家庭も子供の学習進度を把握しやすくなります。

こうしたリテラシーの扱い方という、社会のシステムまでをも変えてしまおうとする取り組みは、まだなされていないと思うんです。こうした仕組みを民間の塾やIT企業と一緒につくり、一定の成果を早い段階で示したい。特に、連携先の公立学校でその成果が出てくれば、相当大きなインパクトがあるんじゃないかと期待しています。

それから、Withコロナにおけるオンライン授業をさらに発展させる可能性を秘めたプロジェクトとして、仮想現実(VR)を使った教室づくりがあります。具体的に、津山市と山田町、附属校の子供たちを仮想空間上の教室で出会わせて、ワークショップをやったり、同じ授業を受けたりできるようにする試みです。

企業と教員がアイデアを練り、動き出しているプロジェクトの例

VRを活用すると、まさにそこに本人がいるかのような感覚が得られるため、オンラインでありながらリアルな関係性が生じます。Zoomを介したオンライン授業でのコミュニケーションとは異なる教育的な効果が生まれるのではないかとにらんでいます。

例えば、VRでピラミッドなどの文化遺跡を再現して、そこで子供たちが観察したり、話し合ったりする。そんな形で時間や空間を飛び越えて、体験を共有する学びができるようになります。特に中学校や小学校高学年での学習効果は、かなり高いのではないかと思います。

実際にやってみると、技術的にはインターネット環境が重要になるものの、VR端末自体はそんなに高価なものを用意する必要はない可能性が出てきています。早ければ2学期のうちに、試験的に3地域の子供たちがVR空間上でつながるところまで出来るのではないかと考えています。

――プロジェクトの中には、最先端の技術を使ったものだけでなく、教員や学校の在り方そのものを変えるような取り組みもありますね。

Withコロナで仕事もテレワークが普及し、多拠点型のライフスタイルである「ワーケーション」が提案されています。季節ごとに違う場所に滞在して仕事をする。つまり、仕事や生活の拠点を都市に集中させる必要があるのかという議論です。

そこでネックになるのが、実は教育の問題で、子育て世帯がこうした生活をしようとすると、子供たちは頻繁に転校を余儀なくされることになります。

しかし、例えば、津山市と山田町、都内の3拠点生活が実際にできて、教育委員会同士で学籍管理のシステムを工夫して、学習進度なども配慮できるようになれば、家族単位での流動化がもっと活発になる。そういうことを提案したいですね。

さらに、ワーケーション先で、企業の人材が地域の教育課題に関わることも視野に入れています。そうやって、さまざまな大人が学校に関わる機会をつくっていくのです。実際に附属校では、職員室にコワーキングスペースを作ろうとしています。

そこで外部の人が自分の仕事をしながら、学校を観察したり、学校の課題解決に協力したりするのです。授業も、そういった人が関わってくれることで学びが深まることもあります。これは学校を大きく変える可能性があると思っています。

学校の未来をつくる
――新型コロナウイルスによって、学校とは何かが問い直されています。このプロジェクトには、そのヒントが詰まっているように思います。

私は、学校というシステムは現在、リテラシーの獲得と子供の自己実現、コミュニティー経験、そして社会的承認の4つの役割を主に担っていると思っています。これらを達成するために、今の学校はいろいろな仕組みを持っていて、例えば、リテラシーや社会的承認は、成績評価や学歴という形で示されます。

それらを公的に支えているのが、教育のプロを養成する教員免許制度であったり、40人を1集団でさまざまなことを行える校舎だったり、教える内容を定めた学習指導要領だったりするわけです。近年こそ個別最適化学習が脚光を浴びていますが、共同で同時に学習するメリットを生かしつつ、個人が勉強したかどうかはある種の競争原理を用いることで、学校は社会的機能を果たしていました。

しかし、今回の新型コロナウイルスで、「学校に集まって学ぶ」という前提が成り立たなくなってしまった。今までやっていたことをどうすればできるのかを考えなければいけなくなったのと同時に、なぜ学校という場所に集まる必要があったのかと、そもそもの前提を問い直す動きが出てきたのです。

各学年で学習しなければならない内容は学習指導要領で定められているけれど、今年度中にその内容が終わらなければ、次の学年に持ち越してもよいという方針が文科省から示されました。

それは仕方がないことではあるのですが、そうだとすると、以前は3年生でやる内容は必ず3年生で終わらせないと問題になっていたのに、状況が違う今回はなぜ許されるのか。今まで、なぜそれほどまでにこだわっていたのか。もっと言えば、なぜ一人一人に幅を持たせた教育課程で進めてはいけなかったのか。

そんな風に、今まで当たり前にやっていたことの本質や意義が顕在化して、改めて問われると、場合によっては説明しにくいことがいくつも出てくる。それが現状です。

これはおそらく、社会の変化に伴い、学校に求められている役割が変わっているということを示しているのだと思います。以前からあった問題が、今回のコロナ危機で直視せざるを得ない状況になったのです。

プロジェクトのロゴマーク。キャッチコピーは「好きに、挑む」(東京学芸大学提供)

その上でこのプロジェクトを捉えると、例えば、一つの場所に集まること自体が、やはり未来の学校では前提ではなくなると思います。一方で、一定程度は集まらないとできないこともあって、リモートでは無理で、対面でないとできないことは何かが精査されていく可能性があります。

また、学校に行かなくても勉強できることはたくさんあって、「こういうことは学校で、これは家庭で」と、そういうネットワーク化が図られることで、学校の役割が変わっていくかもしれません。

つまり、学校の仕組み自体が問われている気がします。このプロジェクトで、そんな新しい仕組みのモデルの一つを発信できたらいいなと思っています。

発信するモデルは、決して「理想像を示す」という意味ではありません。教員の皆さんには、教育の未来に関する現実的な可能性の一つとして、このプロジェクトをポジティブに捉えていただけるとありがたいですね。

学校は未来をつくるところですから、その方向に子供たちも向かっていってほしい。だからこそ、教員自身が変化に対して意識的にポジティブになることが、大切なのではないかと思うのです。

プロジェクトでは、さまざまな形でプロセスや成果を発信していくつもりです。機会があれば、ぜひそこに皆さんのアイデアも反映させていきたい。私たちと一緒に、学校の未来をつくっていただきたいです。

(藤井孝良)

【プロフィール】

松田恵示(まつだ・けいじ) 東京学芸大学理事・副学長。専門はスポーツ社会学、教育/文化社会学。遊びや身体の文化について社会意識論の立場から研究するとともに、学校と社会をつなぐ教育人材の育成や、教育実践の開発を通じて、教育現場との共同作業に取り組む。著書に『教育支援とチームアプローチ』(書肆クラルテ)、『「遊び」から考える体育の学習指導』(創文企画)など多数。


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