【ガーナ編】自分たちの手で子供たちにより良い教育を

ホストファーザー

ぎーっと音を立てる鉄製の扉を開けると、今日もホストファーザーが庭のマンゴーの木の近くで木製のベンチに座って読書をしながら、「ウェゾ(おかえり)!」と声を掛けてくれた。週末など首都から帰った時には、ハグ付きで迎え入れてくれる。私の大好きな瞬間だ。

JICA海外協力隊は平屋の一部屋、一軒家、ホームステイなど、各国の治安状況や家賃との関係で、さまざまな形態で生活をしている。私は配属先が用意してくれたガーナ人の家に一部屋借りてホームステイをさせてもらっていた。

ガーナの南東部にある私の任地(アカチサウス郡)では、女性がバイクに乗る慣習があまりなく、私がバイクに乗るととても目立った。そのため、バイクの管理などにも気を使うので、運転以外の疲労も感じる場面が多々あった。70歳前後のホストファーザーとマザー、2人が預かる親戚の女の子たちと暮らす家は、ガーナ生活において数少ない落ち着ける場所の一つだった。

庭のマンゴーの木と本を読むホストファーザー

元教員で、元郡教育事務所のオフィサーだった2人(特にホストファーザー)は、私が巡回先の小学校で感じた疑問や、時には愚痴も辛抱強く聞いてアドバイスをくれ、活動面でも支えてくれた。

2年間の協力隊生活では楽しいことだけでなく、苦しいこと、悔しいこと、腹立たしいこと、たくさんあったが、2人のおかげで乗り越えられたので、今でも心から感謝している。

教員の評価を巡り議論

そんなホストファーザーの夢は、家に図書館をつくり、子供たちに読み書き計算をもっと身近にすること、子供たちが具体的な夢を持てるようにキャリア教育をすることだと、よく庭で語ってくれた。

教育熱心なホストファーザーは、アカチサウス郡出身で普段は米カリフォルニア州にある大学で教壇に立つ教員(プロフェッサーから家族で「プロフ」と呼んでいた)と一緒に、私立学校を運営していた。毎年プロフは5月ごろ米国からガーナに戻り、2週間程度はわが家に寝泊まりしていたので、その期間は3人でガーナの教育について頻繁にディスカッションしていた。

夕食はホストマザーの心遣いで私の分も用意してくれたので、ほぼ一緒にとっていた。夕食の時間からディスカッションが始まり、テーマは「教員の評価」について。生徒が教員の評価をする制度導入の是非について話し合っていた。

私立は公立よりも教育に関心の高い家庭が子供を通わせているので、教員の質の確保は生徒数を増やすためにも重要な要素の一つだ。一方で、私立校の教員は、公立校の教員と異なり、(特に私立の小学校では)教員養成校を卒業しない人も教員として雇われていることがある。

議論の対象となっていたのは2人が運営する高校についてであったが、高校で教える教員も教員歴が浅かったり、教員数が十分に確保できずいくつかの教科(日本では考えられないが、例えば英語と化学と社会など)を掛け持ちしたりするケースが見られた。

ホストファーザーはガーナでの教員経験のみだったが、南アフリカに視察に行き、本でさまざまな国の教育制度を熱心に勉強しており、ガーナ以外の教育についても詳しかった。プロフは日本で教壇に立っていた経験もあり、ガーナ以外での教員歴が長い。2人はさまざまな国の教育制度の良いところを、ガーナ流にアレンジして、ガーナにとっての新しい制度導入を試みていた。

その一つが生徒による教員の評価制度だった。私も大学生のころに半年に一度マークシートが配られ、各講義について授業の分かりやすさや、教員への質問のしやすさなどの質問に答えていたのでなじみがあった。

ホームステイ先の家族との夕食風景

その経験も2人に伝えたが、ホストファーザーはやはり難色を示した。「導入したら教員が辞めてしまうのではないか…」「評価に慣れていない生徒は、高評価か低評価に偏った評価しかせず、意味がないのではないか…」など、さまざまな懸念があげられた。

何日間かのディスカッションを経て、結果的には質問項目を配慮した上で、試行的に実施してみようということになり、まずは教員の理解を得るための説明をどうするかというテーマに移った。

後からプロフが「教員評価については、いろいろな国の教育を熟知しているスティーブン(私のホストファーザー)もかなり難色を示したから、ガーナの教員たちに受け入れてもらうには時間がかかりそうだ」とこっそり私につぶやいた。

新しい目標

大学生のときに「アフリカの教育を変えたい!」と意気込んだ私に、ある教授が「どうしてあなたが他の国の教育を変えることができるの? 変えられるのは、その国の人たちだけよ」と教えてくれた。

当時は夢を失った気分で目の前が真っ暗になったが、3人でのディスカッションを通じて、その教授の言葉の意味をようやく理解できた気がした。日本人とガーナ人では、日本の教育の良いと考えるポイントが異なる。他国から制度や仕組みを取り入れるときには、その良さを自国の文化や慣習に合わせて変換できる人が必要なのだ。プロフはまさにその媒介者の役割を果たしている。

4カ月に1回程度の頻度でプロフが送ってくれる学校通信のようなものを読むたびに、今も2人がガーナの教育を自分たちの手で変えていこうと試行錯誤している姿を思い浮かべる。

そして、私は2人のおかげでプロフのような、自国の教育を心から良くしたいと思い行動できる、そんな人材を育成することに携わりたいという新しい目標を持つことができた。アフリカの人材育成に携わることで、いつかガーナに恩返しをしたい。

【十田(中野)麻衣=とだ(なかの)まい】JICA技術協力プロジェクト専門家。専門はアフリカの教育開発学(初等教育・高等教育)。


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