【教育の地図を広げる】世界に羽ばたく高校生

ICTとPBL(Project Based Learning)でアクティブ・ラーニングを実践する、静岡県立掛川西高校の吉川牧人教諭。グローバル化が進む中で、日本の学校が目指すべき教育の方向性について聞いた(全3回)。第3回では、地域や世界から刺激を受けながら成長してきた同校の生徒らにスポットを当てる。

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このままでは日本の高校生は世界に太刀打ちできない
――PBLに取り組んだり、世界中を「探検」したりしてきて、今の日本の高校教育にはどんな課題があると感じていますか。

子供たちが黒板に向かい、教員が一斉授業を行うという日本の学校教育は、明治時代から現在まで、約150年間変わっていません。このシステムは高度経済成長期まではマッチしていたと思います。しかし、今やそのような学校教育は他の発展途上国でも受けることができます。よりクリエーティブなものが求められる時代になっているのに、教育だけが変わっていないことに、とても危機感を覚えます。

海外の友人で、私が大学院生のときにインドネシアから来ていた留学生に、最近、「日本の教育も進んでいるけど、インドネシアの教育も結構すごいから見に来なよ」と言われて、見に行きました。実際に、世界最先端の教育が行われていて、その光景に目を見張りました。

PBLはもちろん、STEAM教育やルーブリック評価も当然のように行われていました。インドネシアも島国なのですが、日本よりもはるかにCBTの試験が普及しています。当然、そんな環境ですから、授業や校務でICTを使うマインドが学校現場にはあります。

定型の正解を反射的に答えるだけの日本の教育とは全く違っていました。世界が主体的、協働的、創造的な学びを短期間で展開している中、このままでは日本の高校生は太刀打ちできないのではないかと思いました。

もちろん、高校生は何も悪くない。彼らは教員の言う通り、一生懸命に大学進学を目指して暗記をしているだけで、教える側の考え方や手法が古いばかりに、その未来に暗雲が漂っているのです。もしそうだとすれば、それは私たち教員の責任です。

だからこそ、学校自体がパラダイムシフトを起こしていくことが、今となってはもう大人たちの責任なのだと思っています。

――高校生自身が世界の状況を知る機会はあるのでしょうか。

2年ほど前に、本校の生徒がインドネシアの高校などと共同でプロジェクトを行ったことがあります。Zoomでつないでミーティングをしたのですが、インドネシアの高校生は英語がペラペラで議論をリードしてくれ、こちらのイメージが良い意味で壊される体験になりました。

昨年度行ったプロジェクションマッピングでは、インドネシア、タイの高校や韓国の小学校とも交流をしました。こうした経験を通じ、生徒たちは相手のいいところも、自分たちと似ているところも感じることができ、自身が認識する世界は確実にバージョンアップされていきます。

地域の大人との出会いを通じて生徒はやりたいことを見つけていく(吉川教諭提供)

それは、地域の人との学びでも同じです。卒業生の一人が今、大学で情報分野を学んでいますが、本校でのプロジェクションマッピングの経験を通じて地域の大人からさまざまな刺激を受け、起業を目指しています。

一般的に高校の進路指導では、成績や得意科目を基に進学先を絞り込んでいます。しかし、社会人同士の仕事のやり取りで「得意科目は物理です」という話にはならないと思います。

大人が「私の専門はこれです」「こういうことを仕事にしています」と話せば、生徒は「こういうことに興味があります」「こんなことをやってみたいんです」となる。そういう語り合いの中で、生徒は大人を映し鏡にして、自分が何をしていきたいのかを見定めていくのだと思います。

それに、実社会では「英単語を覚えなさい」とはまず言われません。社会では、暗記的なことはほとんど役に立たず、それよりも英語で自分の考えを表現できるかどうかが問われるからです。生徒がそういう気付きを得られるのも、学校外の大人とつながるメリットの一つです。

世界に羽ばたく翼としてのICT
――自身も今、オンラインサロンを立ち上げて、各地の教員と交流を始めていますが、これからの教員には、どんなことが求められているのでしょうか。

これまでは、自分の持っている思いを打ち明けられる範囲も限られていたし、その中で共感してくれる人は一握りしかいませんでした。それが、テクノロジーの進化によって、自分の持っている思いややりたいことについて、共鳴してくれたり、お互いに高め合えたりする人と簡単につながれるようになった。自分たちが本当にやりたいと思うことをみんなで実現していく共同体は、今だからこそ大きな意味を持っていると思います。

これまでは、自分がやってきた仕事や地位で評価が行われてきました。しかし、これからは「自分がどんな思いを持っているか」で評価される時代にシフトしていくように思います。ICTは、自分の思いを世界規模でつなげていくための翼です。

オンラインサロンを立ち上げたのも、そんな思いからです。実は、メンバーの中には私と直接の面識がない人もたくさんいて、国内だけでなく海外からも参加してくれています。そんな人たちから刺激を受けることが、自分自身の学びになっています。そういう語らいの場として、オンラインサロンが機能していけばいいなと思っていて、教員も学校の中だけにいつまでも閉じこもっていてはいけないと強く感じています。

教員が変わらなければいけないという意識は、今回のコロナ対応でより鮮明なものになりました。短期間でオンライン授業を始めなければいけないという課題に直面する中、どの教員もあっという間に対応できましたし、さらにクオリティーの高いものを目指す動きがすでに起きています。

もしかしたら教員はこれまで、自分自身の能力を枠にはめ込んでしまっていただけで、何かのきっかけさえあれば、もっとクリエーティブなことができるのかもしれません。約150年間続いてきた学校教育の常識にとらわれ過ぎているのです。

生徒も教員も世界とつながることの重要性を強調する吉川教諭(Zoomで取材)

それは、学校や教員だけではなくて、日本社会全体に言えることなのかもしれません。だからこそ、学校や教員が変わらなければいけないのです。そのきっかけが、今回のコロナ危機だったのではないでしょうか。

私も今、自分自身の授業が大きく変わっていると実感しています。主体性や協働性、創造性、自己有用感に加え、世界史という科目を通じてどのように歴史を理解して、現在を見ていくのかという生徒独自の視点を育てていきたい。アフターコロナでは、そうした視点が重要になると確信しています。

そして、それを実践していく際にはコラボレーションが鍵を握っています。生徒がやりたいと思っていることを共有できる大人や世界とコラボレーションし、生徒を羽ばたかせる。その翼がICTですし、ハブとなるのが教員です。

(藤井孝良)

【プロフィール】

吉川牧人(きっかわ・まきと) 静岡県立掛川西高校教諭。1974年、静岡県生まれ。専門は世界史。「Heroes of Local Government」が主催する「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2020」の一人に選出。ICTを活用した授業や地域と連携したPBLを実践する。ライフワークは生徒と共に企画するプロジェクションマッピング。趣味は「海外探検」。モットーは「誇りと感謝」。


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