高校生が考えるコロナと差別 自由学園の意志

学校での新型コロナウイルスの感染が各地で起こる中、感染者に対する差別をなくすためにどうすればよいかを高校生が自分事として考える取り組みが、自由学園男子部中等科・高等科(更科幸一部長、生徒215人)、同女子部中等科・高等科(佐藤史伸部長、生徒227人)で行われている。高校生が中心となって「社会ではなぜ差別が生まれてしまうのか」を徹底的に突き詰め、「学校の中で感染者が出たとしても、差別は絶対に出さない」という強い意志を行動に変えようとしている。活動の中心である「コロナ禍の私たちの社会を考える会」のメンバーに話を聞いた。


学校での感染、他人事ではない

新型コロナウイルスの影響で、同校は2月末から休校を続け、2学期が始まる8月24日になって、ようやく再開した。この間、感染第2波により各地の学校で子供や教員の感染が報道されてきたが、中でも島根県松江市にある立正大学淞南高校の寮で起こった大規模なクラスターと、それをきっかけにした誹謗(ひぼう)中傷は、寮生活をする同校の生徒にとって他人事ではなかった。

「学校が始まったら、うちでも感染者が出ることはあるよね」という更科部長の一言を誰よりも重く受け止めていたのが、男子部委員長(生徒会長に相当)を務めていた濱田祐輔さん(3年生)だった。

濱田さんは休校中、オンライン昼食会や登校日のレクリエーション活動を企画するなど、自宅にいる生徒たちをつなぎ、気持ちをくみ取ることに腐心してきた。それだけに「もしもクラスターが発生したら、学校生活はどうなるのか」と不安が頭をよぎった。

そこで女子部の生徒にも声を掛け、7人のメンバーによる「考える会」が立ち上がった。メンバーは新型コロナウイルスに関する正しい知識について、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、学校医などに話を聞き、社会で差別や偏見が起こってしまうのはなぜなのかを話し合った。

話し合う中で生徒たちは、社会で起きているコロナによる差別や偏見をどう受け止めたのか。

取材に応じた自由学園の「コロナ禍の私たちの社会を考える会」メンバーの生徒と教職員(Zoomで取材)

もともとLGBTQや黒人への差別問題に関心があり、「考える会」に参加した女子部の吉田柚さん(3年生)は「悲しいけど『やっぱりな』と思った。カミュの『ペスト』で描かれたことと似たようなことが現代でも起きていた。でも、それで諦めたら終わり。変えていかないといけない」と力を込める。

少し前、吉田さんは夕食を口にした母親が「ご飯の味がしないね」と言ったことに、「それってコロナなんじゃない?」と冗談交じりで答えたことがあった。仲間との議論を通じてそのやり取りを思い出し、私たちの何気ない一言の中に差別の萌芽があることに気付いたという。

また、男子部副委員長の工藤健さん(2年生)は、自ら情報収集のためにチェックしていたSNSのオープンチャット上で、コロナの感染者を批判する声がエスカレートしやすいことを感じていた。

「自由学園では10年以上同じメンバーで学び、お互いに理解し合っているので、普段から差別的な発言はまず起こらない。でも、ニュースを見ていると、これまでの信頼関係が崩れるような報道のされ方が気になる。今の社会に必要なのは、この問題についてじっくり話し合いながら、信頼関係を築くことなのではないか」と指摘する。

言える強さよりも、言い出しやすい環境

10回以上にわたる議論を踏まえ、「考える会」のメンバーはそれぞれが考えたことをプレゼンテーションする約10分間の動画を作成。8月26日に、中等科1年生から高等科3年生までの全校生徒に向かって問題提起をした。

具体的に、「もし、体温を測って37.3度以上あった時、みんなに伝えられますか?」「自分が感染してしまったら、何をしてもらいたいですか?」「友達が感染してしまったら、自分に何ができますか?」などの質問を投げ掛け、この問題に対する意見を募った。それは、このコロナの状況下で、自分たちがどんな学園をつくればよいかを問うことでもあった。

メンバーが他の生徒に、コロナによる差別について問題提起した動画

生徒から寄せられた意見に目を通した女子部委員長の高田和実さん(3年生)は「『もし、体温を測って37.3度以上あったら…』という質問では、周りに伝えられるという人もいれば、逆に知られたくないという人もいた。感染したことは悪くないし、本人の不安も当たり前だ。言える強さよりも、言い出しやすい環境が大切。社会でも、感染した人が完治したら、『お帰りなさい』と温かく迎えるような思いやりが必要だと思う」と話す。

さらに、女子部寮長を務める須永ゆりなさんは「学校は小さな社会。まずはこの学園を思いやりのある社会にしたい。差別をしてしまう人の気持ちも考えないといけない。みんな自分の中に不安を抱えているから、その不安を話してもらって、少しでも楽になってくれたら」と、学園の中から変えていくことの重要性を強調する。

良い社会をつくるためには遠慮はいらない

考える会は現在7人(高等科3年生5人、2年生2人)で発足したが、メンバーは委員の交代や希望者の参加などによる変更も想定している。

男子部寮長の横路宙さん(3年生)は「まずは自由学園全体で考えてもらい、新型コロナウイルスによる差別が起こらないようにしたい。この問題を、自分の家族や友達に話していけば、社会にも呼び掛けられると考えている」と、少しずつ自分の周りからアクションしていくことの重要性を強調する。

副委員長の鷹見あきさん(2年生)も「まずは男子部と女子部、そして先生を含め学園全体を巻き込んで、一つずつ考えてみんなでウイルスに立ち向かいたい。『みんなで』というのは本当に難しいけれど、『皆が兄弟姉妹』ということを忘れずにしっかりとした軸を持っていれば、個人から家族、学園、社会へと、愛ある行動をつなげていけると思う」と3年生の思いをしっかりと受け取っていた。

もともと生徒の自主性を重視し、独自の教育を実践してきた自由学園。この活動でも、教職員は生徒たちのサポートに徹してきた。

今年度に教員生活をスタートさせたばかりだという女子部の谷愛香教諭は「この状況で自由学園の教員になって、この活動に関われたことは私にとって幸運だった。彼らを社会に送り出せることを誇りに思う。コロナ禍はまだまだ続く。学園の中で感染者を出しても、差別は生まないように、これからも教師と生徒が一緒になって考えていきたい」と感慨深げな表情を浮かべる。

感染予防のためのアクリルのパーテーションを、学内木工所で作成する男子部の生徒(自由学園提供)

一連の取り組みを見守ってきた更科部長は、メンバーに向けて「この問題に対して、君たちは主体的になったけれど、他の生徒はまだそうではない。ここからが勝負だ。歩みを止めずに立ち向かい続けてほしい。良い社会をつくるためには遠慮はいらない」とアドバイスを送る。

更科部長に今回の取り組みを提案したスクールソーシャルワーカーで、メンバーの入海英里子さんも「優しい社会を目指そうという生徒たちの思いを聞いて、まるで同志を得たような気持ちになった。本来、感染者が出た学校が誹謗中傷を受ける必要はないはずだ。自由学園として、そういう差別に苦しんでいる学校を応援し、寄り添えるような活動に発展していけるといい」と背中を押す。

佐藤部長は「もし、この問題について私たちが何も考えていなければ、差別はこの学園の中でも起こっていただろう。自分たちが変わることができれば、自由学園以外の社会でも働き掛けることができる人になれる。感受性豊かなこの時期に社会を見渡した経験が、差別のない社会を創り出す原動力になるはずだ」と、生徒らのこれからの行動に期待を寄せる。

(藤井孝良)


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