【寄り添い、つながる】オンライン活用の未来地図

子供たちとつながり、子供たちに寄り添う――。コロナ危機という未曽有の事態においても、学校と子供たちの信頼関係を強固に築いたのが、埼玉県越谷市立新方小学校の田畑栄一校長だ。同校には4月に赴任したばかりにもかかわらず、始業式の翌日から子供たちとZoomを使った双方向のやりとりをスタート。他校が足踏みをする中、なぜスピード感のある対応ができたのか。オンライン活用に至るまでの経緯を聞くとともに、田畑校長が描くオンライン活用の未来地図に迫った(全3回)。

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始業式翌日からZoomを活用
――新方小学校には4月に赴任されたばかりです。コロナ禍での赴任は大変なものがあったと思いますが、すぐにオンラインを始めたそうですね。

3月に一斉休校となってから、これからは「困難に負けない『自律』を育む教育と、遠隔授業の導入・活用」が両輪となると考えました。ですから、4月から自分がどこの学校に赴任しようが、遠隔授業はやろうと思っていたのです。

コロナによる突然の休校で、「子供が学校に来られない」状態になりました。そんな状況でも課題を自分で見つけられて、自分を律することができる子供を育てなくてはいけません。また、学校は「一定の場所において子供と継続的に関わり続けるところ」だったのに、そうではなくなってしまったわけです。それをつなぐためには、遠隔ツール、例えばZoomなどを活用した遠隔教育しかないと考えました。

私はラッキーなことに、昨年8月に東北福祉大学の上條晴夫教授に誘っていただき、Zoomでのオンライン読書会を経験していました。その後、数回やってみて教育的効果があると実感したので、近い将来、Zoomのようなビデオ会議システムを学校で活用する時代が来るだろうと予測できていたのです。

「子供たちとつながるには遠隔教育しかないと思った」と田畑校長

4月1日に本校に赴任してすぐ、私は教職員に「遠隔での『つながる』教育の推進」を提案しました。ただ、初めてのことなので、研修を積んで5月の連休明けぐらいにスタートできればいいと、当初は考えていました。

すると本校にたまたまZoomを使った経験がある先生がいて、その先生が4月3日に遠隔教育の資料を作って「校長、こういうことをやれますよ」と提案してきてくれたのです。希望の光が見えました。

それから急きょ6日に研修を行い、遠隔テストも行いました。4月8日に子供たちが始業式、入学式で登校することになっていたので、それまでにパスワードを設定し、8日に子供たちにも使い方を説明しました。そうして翌9日からスタートすることができたのです。

他校はなぜオンラインの導入が進まなかったのか
――導入まですごいスピードでしたね。

最初からうまくいかなくてもいいから、とにかく学校側の気持ちを伝えたいという思いでスタートしました。初日の9日に参加した児童は3割程度でしたが、2週目には7~8割に増えました。もちろん、Zoomに参加できない子供には、電話やメール、手紙などでケアしました。

――各家庭の通信状況などは調査せずにスタートしたのですか。

はい、調べていません。なぜなら、Zoom活用の一番の狙いは、児童の安否確認だったからです。

今回、コロナ禍でZoomなどの活用が管理職や教育委員会から反対され、できなかった学校も多くありました。それはなぜかというと、オンラインで「授業をやりたい」という方向性で進めてしまったからだと、私は分析しています。

Zoomなどを使って授業をするとなると、端末の有無などのICT環境によって不公平感が出てしまうので、教育委員会もすぐに「OK」とは言えません。ところが、児童生徒の安否確認のために「Zoomを電話の代わりに使いたい」と言えば、許可が下りやすくなります。スマートフォンでの使用も可能だからです

「絶対に子供たちの安否確認が必要だった」と振り返る

本校には電話回線が2本しかありません。そのため、全児童に電話で安否確認を行うとなったら1日では終わらず、下手すれば1週間以上かかってしまうでしょう。

これでは教員にも家庭にも負担が掛かります。だからZoomを「対面型の複数電話」という捉え方をして、教育委員会に対して許可を求めたら、「テスト導入」として許可を得られました。

コロナによる休校で、子供たちは学校にいません。生きているかどうかさえ、分からないわけです。だから絶対に安否確認はしなければいけなかったのです。授業がどうこうというレベルではない、それは次のステップだと捉えていました。

この視点を持って進められたことが、スピード感をもってZoomを導入できた要因だったと思います。

――最初は安否確認から始まったZoomですが、休校期間中に進展はありましたか?

初めは出席をとって、ちょっとゲーム的なことをやってみるなど、15分程度の学活のような形で使っていました。子供の心のケアと、担任の先生と子供たちの絆を深めることに重点を置いていたのです。

やがて、そうした活動に先生も子供たちも慣れてきたこともあり、5月に入ると特別活動を担当している教員から「遠隔で特活集会をやりたい」との提案がありました。そして、「集まれ! 新方っ子」という活動が始まり、偶数学年と奇数学年で集めたり、低学年と高学年で集めてレクリエーションをしたりと、異年齢集団での活動ができたのです。

70人ほど(全校生徒204人)が参加するなど、子供たちも楽しんでいましたし、何よりそういう発展的なことをやろうとしてくれた先生たちの気持ちがうれしかったですね。

また、教育委員会も5月の連休明けから市内全校にWEB会議システム「Cisco Webex」を導入してくれて、どの学校でも活用できるようになりました。

振り返ると、休校中は特に「寄り添う」「つながる」というのがキーワードだったと感じています。子供たちに会えないのだけれども、学校や先生は寄り添っている。それを本校では意識していましたし、できる限りのことはやれたのではないかと考えています。

「オンライン授業デー」を設ける
――Withコロナ時代に向けて、オンラインの活用やハイブリッド型の学習への準備はされていますか。

私はコロナの影響は、終息までに5年から10年程度続く、相当な長期戦になると思っています。しかし、教育界全体は、いまだにその場しのぎの対応や見方しかしていないように見受けられます。

GIGAスクール構想が前倒しされ、越谷市でも来年4月には1人1台の端末が配備される予定になっています。とても喜ばしいことだと思います。しかし、その前にまた休校になる可能性もあります。

その場合、端末やWi-Fi環境がない子供たちにそれを用意するのは、校長の仕事だと思っています。私も4月から、あちこちの企業などに電話して頼み込んでいます。ただ、大人もテレワークが始まったことで、端末がない。駄目もとでいろいろなところに交渉し、ようやく数台のパソコン、Wi-Fiを貸していただけるめどが付きました。

5年生までは未履修分を次年度に回してもよいと文科省から通知があったので、幾分余裕がありますが、6年生は待ったなしの状態です。小学校の教育課程が終わらないまま、中学校に送り出すことはできません。もし、また休校になったら、6年生は学校から貸し出す端末なども使いながら、オンライン授業ができるような体制を整えています。

今後もハイブリッド型の学びに挑戦していく

また、休校にならない場合でも、学期に1回くらいは子供たちが自宅でオンライン授業を受ける「オンライン授業デー」があってもいいかな、と考えています。

全員でなくても、クラスの半分が教室で、残り半分が自宅でオンライン授業を受けるようにし、これを2日間で行ってみる。こうした体験を重ねてくことで、いざという時に先生も子供もハイブリッド型の学習に慣れて、慌てることのない「対応力」が育つと考えています。

経験した先生や子供たちは分かると思いますが、オンライン授業は意外と疲れます。通常は45分授業ですが、オンラインでの解説は10~15分程度にして、そこからは子供たちにそれぞれ取り組んでもらう。そして、最後にまたオンラインでつながって確認をする。子供にとっても先生にとっても負担にならずに、子供たちの「自律」につながるような形を模索しているところです。

(松井聡美)

【プロフィール】

田畑栄一(たばた・えいいち) 埼玉県越谷市立新方小学校校長。秋田県大館市出身。早稲田大学第一文学部卒。埼玉県公立中学校教諭(国語)、埼玉県立越谷養護学校などを経て、2008年から3年間、埼玉県教育局東部教育事務所で指導主事として勤務。その後、同県久喜市立久喜中学校教頭を経て、13年度から越谷市立東越谷小学校校長を務める。同校での「教育漫才」の取り組みがマスコミなどにも注目される。18年度に越谷市立越ヶ谷小学校校長、20年度から現職。著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる―笑う学校には福来る』(協同出版)。


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